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初めてテレワークを導入する場合の就業規則の規程内容や雇用契約書等の留意点

近年、働き方の多様化、IT技術の高度化などの理由により中小企業においてもテレワーク勤務制度が導入されています。

実際、テレワーク勤務制度は従業員が育児や介護をこなしながら就労しやすいという点、育児介護による離職を防止するという点からも、従業員、企業、政府にとってもメリットが多い働き方ともいえます。

ただし、企業にとっては従業員の労働時間管理や業務上の指揮命令、業務上の情報漏洩リスクなどの課題があり、テレワークにおけるルールや仕組みづくりが必須ともいえます。

 

そこで、今回は職場のルールである就業規則・雇用契約書にスポットをあて、テレワーク勤務制度を導入する場合のおさえておくべき重要なポイントを解説したいと思います。

 

テレワークとは

まず、最初にテレワークについて解説します。

テレワークとは『ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方』と定義されています。

 

なお、「テレ(tele)」とは「離れた場所」を意味し、テレワークとは「職場から離れた場所でIT機器を利用して仕事をする」ことを意味する造語です。

また、テレワークには自宅で行う在宅勤務のほかに、自宅以外の場所で行うサテライトオフィスオフィス勤務(所属外のオフィス)、移動中やカフェなどを就業場所とするモバイル勤務がありますので、テレワークといってもさまざまな就労形態があるのが特徴です。

本記事においては、主に既存社員に自宅で新たにテレワーク(在宅勤務や在宅ワーク・リモートワーク)を行っていただくことについて解説します。

 

既存社員に新たにテレワークを行ってもらうに際して、個別同意としての雇用契約書のまきなおしは又は就業規則等の根拠は必要か

既存社員に新たにテレワークを行ってもらう場合は、個別同意としての雇用契約書のまきなおし又は就業規則の根拠は必要でしょうか。

 

結論としては、原則必要ありません。

 

なぜなら、就業場所に関する指揮命令権の行使として、会社には従業員に対しテレワークを命じることが可能だからです。

ただし、雇用契約書や就業規則において「就業場所」を「特定の事業場」に特に限定している場合は、争いがありますので当該ケースに当てはまる企業においては個別同意としての雇用契約書又はテレワークを命じる旨の就業規則があった方が望ましいといえます。

 

テレワークの導入・運用にあたっての就業規則の必要性

ではテレワークを初めて導入する場合にあたっては、上述のとおり原則、就業規則での根拠は不要な旨を説明しましたが、運用にあたってもテレワークにおける就業規則の整備は不要でしょうか。

 

結論としては、テレワークの運用にあたっては「就業規則の整備が必要」になります。

なぜなら、多くの企業の就業規則においては従業員が出社して業務を行う(以下、通常勤務という。)といったものが前提となっているため、テレワークで生じる弊害を想定した就業規則の内容になっていないからです。

 

例えば、指揮命令といった点でも通常勤務の場合は対面での指示が大きなウエイトをしめていると思われますが、テレワークの場合はその手段がとれません。

また、テレワーク時の費用負担(インターネット接続代など)や手当(通勤手当など)の問題もあります。

よって、テレワーク勤務時の指揮命令や報告連絡相談体制、費用負担、手当等についてのテレワークに関する定めを就業規則の本体に盛り込むか、テレワーク規程を別途定めておくことが必須になります

 

テレワーク導入にあたり就業規則で定めておくべき内容

テレワークの導入にあたっては前述のとおり、就業規則の整備が必須といえます。

ではどのような事をどのような内容で規定しておくべきか、特に重要な下記7項目に絞って解説していきます。

 

重要項目

  1. 対象者
  2. テレワーク勤務の期間
  3. 労働時間制と労働時間の把握
  4. 業務上の情報の取扱いのルール
  5. 費用負担
  6. 手当支給
  7. テレワーク勤務時の服務規律

 

対象者はどうするか

テレワーク対象者を誰とするかは会社の実状によって、決めることが必要です。

対象者を全従業員とするのも可能ですし、対象者を制限することも就業規則によって可能です。

例えば、対象者を制限する場合であれば以下の内容にするものいいでしょう。

 

参考:テレワークの対象者に関する就業規則の規定例

テレワークの対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした者とする。

(1)在宅勤務を希望する者

(2)自宅での業務が円滑に遂行できると認められる者

(3)自宅の執務環境及びセキュリティ環境が適正と認められる者

 

 

(2)についてはさらに「育児、介護、従業員自身の傷病等により、出勤が困難と認められる者」と記載して、さらに対象者を絞りこむことも一案です。

 

 

導入当初より全従業員を対象としたテレワークの導入が難しいと考えている会社にとっては、対象者を制限したほうが運用しやすいかもしれません。

 

なお、実際の対象者選定にあたってはテレワーク勤務の申請をさせて、そのうえで対象者を決定する「許可制」を採用するといいでしょう。

テレワークの期間

テレワークの期間を定めることも重要です。

テレワークが長期間継続すると、会社の業務に支障が生じることが懸念されます。

例えば、「テレワーク勤務に慣れた従業員がなかなか通常勤務に復帰しない」、「当初想定していたよりも指揮命令・情報共有に支障がある」といった事も考えられます。

 

このような問題を防ぐためには、下記のようにテレワークの期間について一定の制限を設けておくことが重要なポイントになります。

 

参考:テレワークの期間に関する就業規則の規定例

第〇条 テレワークの期間は、在宅勤務開始日から○○か月とする。

 

2 上記期間を超えてテレワークの必要があるときは、従業員はテレワーク勤務期間終了予定日の○○週間前までに会社にテレワーク期間勤務の延長を申請し承認を得ること。

 

3 従業員はテレワーク勤務の期間中であってもテレワーク勤務の必要がなくなったとき又は会社から通常勤務への復帰を命じられたときは、通常勤務に復帰しなければならない。

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上記のように、テレワークが会社の意向に反して長期化することがないように、テレワークの期間を就業規則で定め、それを超える場合は延長の申請を義務付けるなど、会社側でテレワーク勤務の期間をコントロールできる規定を設けておくことが必要です。

労働時間制と労働時間の把握

①労働時間制

テレワーク勤務者についてはどの労働時間制を採用するかについても就業規則に記載したほうがいいでしょう。

通常勤務者について原則の労働時間制を採用している企業においては、通常勤務者と同様の労働時間制を採用するのか、あるいは変形労働時間制(変形労働フレックスタイム制を含む)または、みなし労働時間制を採用するのかといったことになります。

 

テレワーク勤務の形態によってはなじみにくい労働時間制度がありますので、会社の実状とテレワーク勤務者の業務内容などによって、どの労働時間制度を適用するか慎重に検討しましょう。

 

②労働時間の把握

テレワーク勤務者においても通常勤務者と同様、企業には従業員の労働時間把握義務があります。

しかしながら、テレワーク勤務者は通常勤務者と異なり本来勤務すべき事業所と物理的に離れた場所で業務を行っているため、労働時間の把握が難しいことも特徴です。

 

会社の把握しないところでの時間外労働や休日労働が発生することも可能性としてはありますし、いわゆる労働時間の途中で業務から離れる「なかぬけ」の問題もあります。

よって、就業規則においてはテレワーク勤務者について労働時間、時間外労働等の報告をしてもらうような規定を設けておくことが重要です。

 

参考:労働時間等の報告・時間外労働等に関する規定例

第〇条(業務の開始及び終了の報告)

在宅勤務者は就業規則第〇条の定めにかかわらず、勤務の開始及び終了について次のいずれ

かの方法により報告しなければならない。

(1)電話(2)電子メール(3)勤怠管理ツール

第〇条(業務報告)

在宅勤務者は、定期的または必要に応じて、電話または電子メール等で所属長に対し、所要

の業務報告をしなければならない。

第〇条(時間外及び休日労働等)

1.在宅勤務者が時間外労働、休日労働及び深夜労働(以下「時間外労働等」という)をする場合は、所定の手続により事前に所属長に申請し、許可を得なければならない。

2.前項の定めにより在宅勤務者が時間外労働等をした場合には、所定の様式により速やかに時間外労働等の実績を報告しなければならない。

 

参考:中抜け時間に関する規定例

第〇条 在宅勤務者は、勤務時間中に所定休憩時間以外に労働から離れる場合は、その中抜け時間について、終業時にメールで所属長に報告を行うこと。

2 中抜け時間については、休憩時間として取扱い、その時間分終業時刻を繰り下げること。

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テレワーク中の中抜け時間を把握する場合はその方法として、例えば一日の終業時に、従業員から報告させることが考えられます。

また、中抜け時間をどのように取り扱うかの規定も設けておいた方がいいでしょう。

上記規定例のように、中抜け時間分を休憩時間と扱い、就業時刻を繰り下げる場合は「始業・終業時刻の変更が行われる旨」を規定しておきましょう。

 

なお、中抜け時間が少なく管理が手間と判断される場合は中抜け時間を一律「労働時間」とすることも可能です。

 

業務上の情報の取扱いのルール

テレワーク勤務では、業務上の情報を社外に持ち出すことにもなりますので、当該情報漏えいを防ぐためにその取扱いのルールを決めておくことが必須です。

 

例えば、以下のような規定例が望ましいといえます。

 

参考:業務上の情報の取扱いに関する規定例

1 業務上の情報は、テレワーク勤務中、自宅においてのみ使用するものとし、自宅外に持ち出すことは禁止する。

2 業務上の情報を目的外使用(主に私的利用)することは禁止する。

3 個人所有の端末(PC、携帯電話等)を業務上使用することは禁止する。

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個人所有の端末は会社支給のPCや携帯電話端末と異なり、情報漏えい防止のためのセキュリティ対策が不十分になりがちなので、特に制限を設けることが必要になります。

なお、就業規則とは別に追加で「誓約書」を作成して、従業員に署名してもらうことも情報漏洩を防ぐうえで有効です。

費用負担

費用負担に関するルールを決めるという点も重要なポイントです。

 

テレワーク勤務中におけるインターネット接続のための通信費用や光熱費の負担については、従業員とトラブルにならないように就業規則でルールを決めておく必要があります。

 

これらの費用の全部又は一部をテレワーク勤務者の負担とする場合や別途手当で補う場合は、以下のような規定を設けておくといいでしょう。

 

参考情報:在宅勤務中の費用負担に関する就業規則の規定例

 

①費用は従業員負担とする場合

第〇条

テレワーク勤務のために要する通信費、光熱費、その他の費用は、特に会社が認めた場合を除き、テレワーク勤務者の負担とする。

 

②費用を項目ごとに従業員と会社で負担する場合

第〇条 会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。

2 テレワーク勤務に伴って発生する水道光熱費はテレワーク勤務者の負担とする。

3 業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。

4 その他の費用についてはテレワーク勤務者の負担とする。

 

③従業員負担がある場合に別途手当で補う場合

第〇条の2 テレワーク勤務者が負担する自宅の水道光熱費及び通信費用(ただし、資料郵送に要する郵便代は除く。)のうち業務負担分として毎月月額○○○○○円を支給する。

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なお、労働基準法89条5号により、「従業員に費用を負担させる場合は就業規則に必ず記載すること」が要求されており、従業員とのトラブルを予防するためにも上記の例のようにテレワーク勤務による費用を従業員に負担させる場合は、就業規則にその点を記載することが必須です。

※なお、規定例のように「定額の手当で費用負担を補う」場合には、当該手当は割増賃金の算定基礎に算入しなければなりませんので、その点は留意が必要になります。

手当支給

手当支給に関するルールを決めるという点も重要なポイントです。

労働基準法89条2号により、テレワーク勤務者の賃金について通常勤務者とは異なる取り扱いをする際は、就業規則に定めることが必要です。

ここでは多くの企業が定めている「基本給、諸手当、通勤手当」について検討します。

 

1.基本給

基本給はテレワーク勤務だからといって減額することはできません。(不利益変更)。

ただし、在宅勤務によって労働時間が短くなる場合には、労働時間に相応した基本給とする余地はあります。(ただし、不利益変更と判断される場合もありますので基本給を下げる場合は原則、テレワーク勤務者の同意をとるようにしましょう。)

 

2.諸手当

諸手当も基本給と同様、テレワーク勤務だからといって諸手当を減額することはできません(不利益変更)

ただし、テレワーク勤務によって勤務日数の変動や労働時間が短くなる場合には、その手当の性質に相応した処遇とすることはできます。

 

3.通勤手当

通勤手当はテレワーク勤務日については通勤手当を支給しないことが一般的です。

よって、「公共交通機関の通勤定期券相当額」と「実際に通勤した実費」を比較して、低額な方を支給するケースが多いです。

 

上記のように「基本給、諸手当、通勤手当」などテレワーク勤務者について通常勤務者と異なる賃金を定める場合は別途「テレワーク賃金規程」を定めておきましょう。

テレワーク勤務時の服務規律

テレワーク勤務時においては、物理的にテレワーク勤務者と離れているため、テレワーク勤務時の服務規律を定めておく必要性も高いといえます。

 

テレワーク勤務の性質上、ルール化しておかなければ「勝手に業務から離れる」ということが考えられます。

よって、服務規律を定めておくことにより「就業時間中の取り組み」、「業務の進め方」についてテレワーク勤務者へ注意喚起することが可能です。

 

例えば、以下のように規定しておくといいでしょう。

参考:テレワーク勤務規程(在宅勤務時の服務規律)の例

テレワーク勤務者は就業規則第○条及びセキュリティガイドラインに定めるもののほか、次に定める事項を遵守しなければならない。

  1. テレワーク勤務中は業務に専念すること。
  2. 業務中は上司への報告相談、上司からの指示なく業務から離れてはならない。

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1.の規定については通常の就業規則に記載されているケースが多いと思われますが、あえてテレワーク勤務規程に掲げることにより、職務専念義務について注意喚起する効果が期待できます。

 

さいごに

ここまでテレワーク勤務導入時における就業規則・雇用契約書のポイントを解説してきました。

 

実際、テレワーク勤務を導入してみたものの、運用が難しいといった声も少なくありません。

よって、テレワーク勤務が自社にとって、最善かどうか検討したうえで導入を慎重に進めていきましょう。

なお、テレワーク導入にあたって就業規則を新たに作成・変更する場合においては、必ず所轄労働基準監督署へ届出するとともに、従業員への周知は忘れないようにしましょう。

 

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