すべての労働者に適用される最低賃金額ですが、今年度も大幅な改定に向けた動きが進んでいます。
最低賃金の基本ルール、さらには「106万円の壁」撤廃をはじめとする企業実務への影響について解説します。
目次
令和8年度(今年度)の最低賃金額について
厚生労働省の発表によると、令和8年度の地域別最低賃金の改定額がすべての都道府県で答申されました。
全国加重平均: 1,177円(前年度1,121円から56円引き上げ)
引き上げ幅: 54円〜65円(昭和53年度の目安制度導入以来、過去2番目の引き上げ幅)
適用時期: 答申後の手続きを経て、令和8年10月1日から10月中旬にかけて順次適用(発効)される予定です。
今回の改定では、最高額(東京都の1,280円)に対する最低額の比率が84.8%となり、地域間の格差縮小に向けた動きも続いています。
令和8年度 地域別最低賃金 答申状況
地域別最低賃金
出典元 厚生労働省
「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」について
最低賃金には大きく分けて2つの種類があります。
地域別最低賃金
産業や職種にかかわりなく、都道府県内の事業場で働くすべての労働者とその使用者に対して適用される最低賃金として、各都道府県に1つずつ、全部で47件の最低賃金が定められています。
特定最低賃金(産業別最低賃金)
特定の産業(製造業や小売業の一部など)において、地域別最低賃金よりも高い水準の最低賃金が必要と認められた場合に設定されます(※一般的に「職種別」と呼ばれることもありますが、正しくは「特定最低賃金」です)。
地域別最低賃金と特定最低賃金の両方が適用される場合は、高い方の金額が優先されます。

出典元 厚生労働省
特定最低賃金の改定時期について
10月1日頃に改定される地域別最低賃金に対し、特定最低賃金は審議時期が異なるため、例年12月頃〜翌年3月頃にかけて順次改定・発効されます。
そのため、秋(10月)の改定タイミングではまず「地域別最低賃金」を上回っているかを確認し、年末から年明けにかけて特定の産業に該当する従業員の賃金が新しい「特定最低賃金」を満たしているか再度確認するステップが必要となります。
最低賃金に「含むもの」・「含まないもの」と計算方法
毎月支払われる賃金のうち、最低賃金の対象となるのは「毎月決まって支払われる基本給および手当(基本給+諸手当)」です。
最低賃金の対象から「除外される」賃金
支払い形態にかかわらず、以下の賃金は最低賃金の対象から除外して計算する必要があります。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)

出典元 厚生労働省
時給制以外の給与の計算方法
時給制以外の従業員(月給制や日給制など)の場合、上記の除外手当を差し引いた額を「1時間あたりの金額」に換算して比較します。
1.日給制の場合
日給 ÷ 1日の所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
ただし、日額が定められている特定(産業別)最低賃金が適用される場合には、
日給≧ 最低賃金額(日額)
2.月給制の場合
月給(対象手当を除く) ÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
※1か月平均所定労働時間 = (年間所定労働日数 × 1日の所定労働時間)÷ 12か月
3.歩合給制の場合
歩合給の総額 ÷ 総労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
4.出来高払制その他請負制によって定められた賃金の場合
出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払い制その他の請負制におって労働した総労働時間数で除した金額≧ 最低賃金額(時間額)
最低賃金引き上げが及ぼす影響:「106万円の壁(賃金要件)」は実質撤廃へ
最低賃金の引き上げは、単に「時給アップ」にとどまらず、パート・アルバイトの社会保険適用に大きな影響を与えます。
全国的に最低賃金が1,016円以上となると、週20時間以上働く労働者は全員が「年額換算で約106万円(1,016円 × 週20時間 × 52週)」以上の賃金条件を満たすことになります。
これに伴い、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入要件であった「月額8.8万円以上」という賃金要件(いわゆる106万円の壁)は撤廃される方向で法改正が進んでいます。
企業が押さえるべき今後のポイント
判断基準は「収入額」から「労働時間(週20時間)」へ
これまでは「年収を106万円未満に抑えたい」という調整が見られましたが、今後は「週20時間以上働くかどうか」が社会保険加入の唯一の境界線となります。
社会保険料の企業負担増への備えが必要です。
社会保険の適用対象者が増えることで、企業が負担する社会保険料や労務管理の手間が増加します。
企業規模要件も段階的に拡大されるため、事前の試算と計画的な準備が不可欠です。
まとめ
10月からの最低賃金改定に伴い、特に月給制の社員や各種手当を支給している従業員については、除外手当を引いた額が時間給換算で最低賃金を下回っていないか早めの確認が必要です。
また、年末にかけて順次発表される「特定最低賃金」の動きや、「106万円の壁」撤廃に伴う社会保険適用の見直しにも注意しておく必要があります。
毎年行われる最低賃金の改定や法改正に対し、企業として「自社の対応が万全か」「どこから着手すべきか」、あるいは「活用できる助成金はあるか」など、適切に把握・対応しなければならない課題は多岐にわたります。
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