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「試用期間きちんと理解していますか?」 意外と知らない試用期間の世界

なんとなく新入社員の雇用契約書に記載されてある『試用期間』。

読んで字のごとくなのであまり深く考えずに設定しており、気が付いたらその期間が終わっていたというケースがほとんどかと思います。

しかし、この試用期間、思わぬ落とし穴があり、いざ揉めた場合に大きな損害が発生してしまう可能性も十分にある注意が必要な期間なのです。

今回はそんな試用期間についてご説明していきます。

 

そもそも試用期間って何?

試用期間を簡単に説明すると『新たに採用した従業員の勤務態度、業務適性、人間性を観察し、本採用(正式採用)とするかどうかを会社が判断するために設けられている期間』となります。

 

驚くかと思いますがこの『試用期間』については、労働基準法をはじめその他の法律においても特段定められているものではありません。

つまりは、試用期間を設ける設けないは会社の判断によって決めることができ、設ける場合には、就業規則や雇用契約書に、試用期間を設ける旨を明記するすれば運用が可能となります。

 

なお試用期間とよく混同される制度として『試みの使用期間』というものがあります。

この制度は、解雇予告規定の例外として労働基準法第21条第4項に定められているものです。

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(労働基準法第21条)

前条の規定(解雇の予告)は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。

但し(中略)第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至った場合においては、この限りでない。

(中略)

四 試の使用期間中の者

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上記のように法令上は『試みの使用期間中の者が就労を始めてから14日以内であれば解雇する際、30日前の解雇予告をする必要がない』として即時解雇が可能となっています。

ですが、この記載にある「試みの使用期間中の者」とは「試用期間中の者」を指しているわけではなく、あくまでも『就労を始めてから14日以内の者』のみとなっています。

ですので、試用期間中であっても雇用後14日を経過後に解雇する場合は、通常の解雇手続きと同様に30日前の解雇予告等が必要となります。

※試用期間の解雇については後段にてご説明いたします。

 

試用期間のメリット、デメリット

次に会社が試用期間を設けるメリット・デメリットをご説明いたします。

メリット

会社が試用期間を設けるメリットの1つは、企業側が本当に求める人材を雇用できることにあります。

実際にどの程度のパフォーマンスしてくれるのかを現場で確認することができるので、

期待通りのパフォーマンスを発揮してくれた場合は、安心して本採用に進めることができます。

逆に、期待したパフォーマンスを発揮してくれなかった場合は、試用期間のみで契約を終了させる方向で調整することが可能です。

このため、企業とミスマッチな人材を長期雇用するリスクを抑制することができるます。

 

加えて人材配置のしやすさもメリットの一つとして挙げられます。

試用期間を通じて従業員の能力・適性・人間性を詳しく知ることができる為、試用期間終了後の人材配置や業務分担を行いやすくなります。

 

デメリット

試用期間を設けるデメリットとしては、せっかく採用した人材が早期離職するリスクがあることです。

試用期間を有効活用できるのは、なにも企業側だけではありません。

新入社員も試用期間を通じて「募集要項に書かれていた業務内容と違いはないか」

「社風が合っているか」「自分の能力水準にあった仕事か」等どのような企業なのかを見極めています。

そのため、もし想定と違った場合は、試用期間の終了後離職する可能性が高くなります。

また、いきなり本採用を希望する求職者がいる場合、試用期間を設定すると嫌煙され入社そのものを辞退してしまう可能性もあります。

 

企業側が「採用したい」と思っていても、試用期間があることで辞めてしまう又は入社を辞退してしまうリスクがあることを認識し、試用期間を設定する必要があろうかと思います。

 

試用期間の長さとその間の従業員の立場について

試用期間を設けるときに悩みどころとなるのが試用期間の『長さ』でしょう。

本採用に向けて履歴書や面接等だけでは見抜けない能力・適性・人間性を見極めるためにはどのぐらいの期間が適正なのか?

 

業種によりけりではありますがおおよそ『3ヶ月から6か月』程度の期間が一般的となっています。

ただ、1年間までは許容範囲とした裁判例もありますので6か月を超える試用期間が全く認められないわけではありません。

※ただしこの場合は高度な知識・技能、経験等が要求される職務での採用など、能力の把握に相応の期間が必要な場合等に限定されるものとなります。

 

そして間違ってはいけないところが試用期間中の従業員の立場です。

試用期間中の従業員であっても『雇用契約関係』は適法に成立しており立場的にはその会社の『従業員』として確立しています。

よって通常の従業員と同じく労働者としての法律が適用され、労働者として会社で定めてある就業規則に従うこととなります。

試用期間は「まだ採用選考中の人」という位置づけではありませんのでくれぐれもご注意ください。

 

ここまで読むと『試用期間中の従業員も通常の従業員と同じように扱わないといけないのだったら、じゃあ試用期間を設定する意味がないじゃあないか!』と思ってしまう人もいらっしゃるものと思います。

確かに上記で説明した通り試用期間中の従業員でも通常通り雇用契約を締結することには変わりはありません。

ただし、この雇用契約は通常の雇用契約と意味合いが少し違い、解約権が留保された雇用契約(これを『解約権留保付労働契約』といいます)を従業員と締結しているものと考えられています。

 

『解約権留保付労働契約』とは、使用者に特別な解約権が与えられている労働契約をいい、簡単に言うと通常の労働契約よりも広く解雇(解約権の行使)の自由が会社に認められる労働契約となっています。

この『解約権留保付労働契約』であることが、試用期間を設ける大きな意味となっています。

 

裏を返せば『解約権留保付労働契約』が締結されていることがきちんと認められるものでなければ試用期間を設ける意味はありません。

そのためにも就業規則、雇用契約書にはしっかりと試用期間についての文言を明記することが大切なこととなります。

 

試用期間を設けてもいい従業員とは?(パート、アルバイト、有期雇用契約労働者は試用期間を設けてもいい?)

試用期間は、新卒採用・中途採用どちらの場合にも適用できます。

そして正社員だけではなくパート・アルバイトや契約社員といった雇用形態でも試用期間の設定は可能です。

 

ただし、試用期間を設けることができるのは「1つの雇用形態において最初の一定期間」のみとなります。

つまりは「試用期間の〇か月は契約社員、本採用後は正社員」といった雇用契約は1つの契約では締結できないものとなりこの場合、最初の契約期間終了後に別契約として正社員の雇用契約を締結することとなります。

 

試用期間中の解雇について

前段④でご説明しました通り試用期間中の契約は『解約権留保付労働契約』であり、普段よりも解雇(解約権の行使)の自由が会社に広く認められている労働契約となっています。

しかし、だからと言って例えば「元気がないから」「仕事を覚えるのが遅いから」「社風に合わないから」といったような漠然とした理由では当然、解雇をすることはできません。

たとえ試用期間中であったとしても労働者には変わりはありませので、解雇するための理由が『客観的に合理的』であり、解雇することが『社会通念上相当』でなければその解雇は認められることはありません。

 

ではどのような理由であれば『客観的に合理的な理由で、社会通念上相当である解雇』と認められるのか?具体例としましては、

  • 重大な経歴詐称が判明した
  • 正当な理由なく遅刻・欠勤を何度も繰り返す
  • 勤務態度が極めて悪く、何度も指導・教育したにもかかわらず改善されない
  • 社員の立場を利用した犯罪(横領など)を行った
  • 私生活において、極めて重大な犯罪を行った

といったものが挙げられます。

ただし、これらの言動について、ケースバイケースです。

必ず認められるわけではありませんのでご注意ください。

 

もちろん試用期間の解雇についても労働基準法21条の『解雇予告』や『解雇予告手当』のルールは適用されますので、解雇する際には、原則として30日前に解雇予告をするか、予告できなければ、30日分以上の平均賃金に相当する解雇予告手当を、使用者が従業員に対して支払わなければなりません。

 

ただ前段②でも説明しました通り『入社日から14日以内に解雇する場合』は即時解雇が可能となり『解雇予告』や『解雇予告手当』のルールは適用されません。

しかし、たとえ試用期間中といえども、14日の短期間で解雇相当となるのは、よほど重大な事情があるケースに限られるものとなりますので、安易に即時解雇を行うのはおすすめできるものではありません。

 

また、一般的に『能力不足』を理由として試用期間中の従業員を解雇するのは極めて難しいものとなっています。

試用期間の途中の時期については指導によって改善できる可能性があるため、解雇の有効性は厳しく判断されています。

よほど重大な理由がない限りは試用期間途中の解雇は控えたほうがいいでしょう。

 

そして、試用期間終了後の解雇であっても通常の従業員を解雇させる場合と同様の手順を踏んで行く必要があります。

例えば、試用期間中に問題社員であることが判明し試用期間終了後の本採用を拒否しようとする場合、まず、どのような問題行動があったのか時間場所も踏まえて事細かに記録し続けていきます。

該当の従業員には試用期間終了前にきちんとそのことについて注意指導し、それが改善されなければ本採用はできない旨を、通知書を提示しつつ明確に伝え、これを書面にて詳細に記録します。

そして実際改善がされない時は解雇予告通知や解雇予告手当を支払い試用期間終了日をもって解雇する、という流れになります。

 

注意指導をするタイミングが試用期間終了日の直近となり問題点が改善するかどうか見極めるために、もう少し時間が欲しいというケースもよくあるかと思います。

この場合は『試用期間の延長』を検討すべきでしょう。

試用期間の延長を行うためには当然、就業規則に延長の記載があることが必須となり、この条文を根拠として試用期間の延長を検討することとなります。

そして、延長を行う場合は注意指導を行う際に「改善状況を見るために就業規則〇条に基づいて〇月〇日まで試用期間を延長する。

それまでに問題点が改善されなければ、本採用を拒否する」旨をきちんと(できれば書面にて)伝えなければなりません。

 

以上のように試用期間中や試用期間終了時の解雇においてもある程度の規制はあります。

仮にこれらの規制を無視した強引な解雇を行った場合『不当解雇』として訴えられる可能性も十分にあり、対応についてはくれぐれもご注意していただきたいと思います。

 

試用期間のトラブルを防ぐために注意すべきこと

試用期間は会社によってルールに若干の違いがありそのため誤解も多く、従業員とのトラブルも発生しやすくなります。

ここではトラブルを防ぐために対策しておくべき注意点をご紹介していきます。

 

1) 就業規則、雇用契約書に試用期間について明記し説明を行う

トラブルを防ぐための第一歩はやはり就業規則と雇用契約書となります。

就業規則にそもそも記載がない、記載内容が実態と違う、就業規則と雇用契約書の記載内容が違う等々、不備がないように今一度ご確認して頂ければと思います。

 

2) 試用期間中も通常の従業員と同様に扱う

「試用期間中なら解雇が簡単にできる」「試用期間が満了したら契約を終了させても大丈夫」といった認識は、大きなトラブルを引き起こすモトとなります。

基本的には通常の従業員と同様に取り扱うことが重要となります。

 

3) 試用期間中にミスマッチが判明してもどうにか社内で生かすよう検討を行う

いったん採用したら、その責任は会社にあります。

そのため、従業員の能力・適性・人間性を考慮し、社内で活躍できるように配属先を設定しなければなりません。

また、採用時に提示していた労働条件を変更する場合は、きちんと説明を行い十分に納得してもらったうえで合意をとることが必要です。

 

4)試用期間が過ぎた後の対応

試用期間の終了後、何もなければ通常は本採用になります。

その際の労働条件については、通常は試用期間の開始時に労働契約が取り交わされていますので、その契約内容が継続されることとなります。

ただし、試用期間開始時の雇用契約書や就業規則に特別な約束事が決められていた場合には、その内容により再度雇用契約について話し合う場合もあります。

試用期間開始時の契約内容を正確に従業員に伝えて本採用時にトラブルが起きないように注意しましょう。

 

終わりに

以上、今回は試用期間についてご説明してきましたが、いかがでしたでしょうか?

 

何度も言いますが、試用期間中の従業員も労働者には変わりはありません。

試用期間中だからと安易に行った言動が後々大きな労働紛争に発展することや、解雇する場合にも1つの対応ミスのため不当解雇とみなされてしまうことも十分にあります。

 

会社を守るためにも、試用期間について判断に迷った際は、是非とも社会保険労務士法人ベスト・パートナーズにお声がけいただければ幸いです!

 

※弊所では、労働トラブル等について、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。

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