退職と解雇における注意点を解説!

退職・解雇についての争いは頻繁に発生しうる労務問題の代表的な1つです。

退職・解雇は会社と従業員の雇用関係が解消されるというとても重要な事柄で、従業員にとっては職を失ってしまうという人生においても極めて重大なポイントとなり文字通り死活問題に発展する可能性も十分にあることです。

退職・解雇に納得できない従業員は当然のことながら会社に退職・解雇の撤回をするように会社に要求してきます。

そして、それを会社が受け入れなければ争いとなり、多くの場合は訴訟にまで発展していきます。

 

今回は退職・解雇の注意点をいくつか事例を挙げつつ紹介し、どのようにすれば問題が起こらないのか、また争いに発展した場合を見据えてどういう対応を事前にすべきなのかをご説明していきます。

 

 そもそも退職・解雇とは

退職・解雇といっても「辞職、合意退職、普通解雇、懲戒解雇」というように様々なものがあります。

こちらについては以前、詳細に説明した『退職と解雇の違いとは? 退職と解雇の種類は?』がありますので、こちらをご参照ください。

 

なお『懲戒解雇』についても争いが極めて多く発生しやすいものとなっておりますが、こちらにつきましては以前の記事『懲戒解雇とは』をご参照していただければと思います。

退職における注意点

皆様が退職と聞いて、真っ先に思い浮かべるものとしては、従業員が会社に退職する旨の意思表示を行い退職するものだと思います。

このような場合でありましたら会社が退職の申し出を受け入れればトラブルや争いごとが起きる可能性はさほどありません。

しかし退職もこの場合ばかりではありません。慎重に事を進めていかないと後々になって思わぬトラブルや争いが起こってしまうような場合の退職も存在します。

ここでは対応を慎重に進めていかないといけない代表的な退職のパターンを3つご紹介し、それぞれにおいて注意しなければならない事項についてご説明したいと思います。

 

1)従業員が退職を申し出てきた場合

まずは基本として従業員が退職の申し出をしてきた際の注意点からご紹介します。

  1. 退職日まで引継ぎや手続きは無理なく行えるか?
  2. 未消化の年次有給休暇の取り扱いについてきちんと話し合っているか?
  3. 退職後の社会保険や雇用保険等の手続きや、退職時の返却物についてきちんと説明をしているか?
  4. 退職者に退職金の支給がある場合は『退職所得の受給に関する申告書』の提出をしてもらっているか?

 

加えて少し特殊なケースではありますが、例えば退職するようなそぶりを全くしていない従業員が突然退職の申し出をしてきた場合など、従業員の退職に『違和感』を覚えるような場合は、退職理由も確認しつつ不審な点がないか調査をするほうがよろしいかと思います。

何らかの不正な行為を行って、それが明るみに出る前に自己都合退職で辞めようとしていたり、協業他社に転職が決まっており、機密データを持ち出そうとしていたりという可能性もゼロではありませんので、「おや?」と思う退職については念のために調査をすべきものと思います。

仮に、調査の結果、懲戒事由となる不正等が発覚した場合は退職日前に何らかの懲戒処分を検討する必要があり、時間との戦いとなってきます。

 

2)休職している従業員が復職できずそのまま退職となる場合

最近ではうつ病等のメンタルヘルスの不調を患う人が多くなってきており、私傷病による休職を申し出る従業員は増加傾向にあります。

メンタル不調による休職は長期休職となる場合が多く、さらに復職後すぐに再発する可能性もあり、結局傷病が回復せず『休職期間満了による退職』となる場合があります。

この時に注意しなければならないこととしましては、下記のものが挙げられます。

  1. 休職について対象者、期間、休職時や復職時の手続きについて就業規則にきちんと定めているか?
  2. 手続きは就業規則に沿ったものとなっており、休職申出書等の書類は全て保管してあるか?
  3. 休職者が復職を申し出てだが会社が復職不可と判断した場合において客観的理由とその証拠はあるか?
  4. 退職となることについて休職者が十分に理解し納得をしているか?

 

この中で特に注意すべきものは③の場合です。

休職者が復職を申し出ていたにもかかわらず、会社の判断にて復職不可としそのまま休職期間満了で退職となった場合、かなりの確率で不当解雇だと訴えられる可能性が高いです。

この場合において確かに、就業規則の明記や手続き等も大切とはなりますが、会社側がきちんと復職不可である客観的な証拠を出せるかどうかが極めて大切となります。

復職の申し出をするということは、従業員は主治医から診断書を作成してもらっており当然その診断書には程度の差はあれ労務可能と記載が入っているものとなります。

それを覆すだけの判断材料がなければいけません。

具体的なものとして

  • 従業員の同意(同意書の作成をし記録を残す)を得て主治医に直接従業員の病状に関して詳しく聞く。
  • 会社の業務に詳しい産業医等に別途受診してもらい、客観的な意見を得る。

ということが必要となります。

そして、ただ話を聞くだけではなく、聞いた内容について証明書等の書面をきちんと作成してもらい、署名捺印までいただくとさらに証拠としては強いものとなります。

 

なお、休職期間満了時の取り扱いを『退職』ではなく『解雇』としている会社も散見されます。

この場合は、休職期間が満了しても退職にはならず、別途、解雇の意思表示の通知と解雇予告等の『普通解雇』の手続きが必要となりますので、就業規則を確認し解雇となっている場合は退職に変更することをお勧めします。

加えて休職の原因となった傷病の再発に備え、就業規則に休職期間の『通算』については必ず記載すべき内容となりますので、こちらもご注意していただければと思います。

 

3)成績が悪い従業員に退職を進める場合

業務成績が悪い従業員に対していわゆる『退職勧奨』を行う場合についてですが、仮に訴訟となった場合、能力不足による退職や解雇が有効と判断されるには物凄くハードルが高いものとなっており、綿密な前準備と慎重な対応が極めて重要となります。

これを踏まえての注意点としましては、

  1. 退職勧奨実施前に単純な結果だけでなく、原因も含めて現在の詳細な状況を把握しているか?
  2. 退職勧奨の理由や必要性等について十分に検討したか?
  3. 退職勧奨にあたっては実施時間、回数や様態に注意しているか?
  4. 退職勧奨をしている従業員が「絶対に退職はしない、この話は今後しないでくれ」等、明確な拒絶をした後も引き続き退職勧奨を行っていないか?
  5. 退職勧奨を断ったことによる嫌がらせと判断されるようなことはしていないか?

というものが挙げられます。

 

②の退職勧奨する理由についてはその理由が普通解雇できるほどのものであるかという基準にて判断すべきでしょう。

また退職勧奨をする前に、退職を断られた場合、断られた後も働かせ続けることができるのか、普通解雇に踏み切ることが可能な状況なのかということも検討しておく必要があります。

そして、実際に退職勧奨を行う場面となったときは『退職強要』が疑われないよう、面談時間、面談時の言動には特に注意をし、1人で面談は行わず『立会人』を必ず同席させるようにすべきでしょう。

面談時間についてはおおよそ1時間を目安として、従業員が録音していることも想定し、感情的な言動は行わず、客観的な事実のみを伝えるようにしなければなりません。

また、従業員が退職勧奨について明確な『拒絶』があったにもかかわらず、なおも面談を続けると退職強要とみなされる可能性が高くなりますので、拒絶があったらその段階で退職勧奨は断念することとなります。

その後については、そのまま雇用を継続するのか、普通解雇とするのかという話へ進んでいきます。

(※能力不足による解雇については下記『4)の3⃣)』をご参照ください。)

 

4)解雇における注意点について

解雇(普通解雇)は、労働者の意思にかかわらず、使用者が一方的に雇用を終了させる、もっとも典型的な方法となっており、就業規則に必ず記載すべき事項(いわゆる『絶対的必要記載事項』)となっています。裏を返せば、就業規則に記載されてある内容以外では解雇はできないものとなっています。

しかし、たとえ就業規則の記載に該当するからと言って会社は軽々に従業員を解雇することはできません。それは、有名な労働契約法第16条『解雇権濫用の法理』によって規制がけられているからです。

労働契約法16条の本文には『解雇は、客観的に合理的は理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利を濫用したものとして、無効とする』とあり、解雇に関連する争いはおおよそ、この解雇権を濫用したかどうかが争点となってきます。

つまりは、解雇権を濫用してないと認められたら解雇は『有効』となり、解雇権を濫用していると認められると解雇は『無効』となります。

この有効か無効かの判断はケースバイケースとなっており、似たような事案でも真逆の判決が下ってしまうこともあり、こうすれば絶対に有効と判断されると言い切れないのが現状です。

では、どうすれば少しでも判決を自分の有利なほうへ持って行かせることができるか?それは、事実を証明することができる『客観的な証拠』をどれだけ出すことができるのかということに限ります。

そのためにも、就業規則はもとより労務管理や評価基準をしっかりと適法に整えておくことが大前提となり、解雇については何かあれば逐次、書面にて記録を残し重要なものについては署名捺印をするというスタンスで対応することが基本となります。

以上を前提としまして、トラブルや争いが起こりうる代表的な解雇パターンを3つ紹介しつつ、それぞれにおいて注意しなければならない事項についてご説明したいと思います。

 

1⃣試用期間終了時に解雇をする場合

多くの会社では新入社員が入社した際、入社後数か月間を『試用期間』として就業規則等で定めているものと思います。

この試用期間中の雇用契約は法律的な難しい言葉で表現しますと『解約権留保付き雇用契約』と呼ばれ、この期間については本採用より比較的緩やかに解雇の有効性が認められることとなっています。

もちろん解雇には変わりないので上記の『解雇権濫用の法理』は適用され、客観的に合理的は理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合でなければ解雇は有効とは判断されません。

そうならないために注意する点としましては、

  1. 対象となる従業員のどういった言動が問題なのかを精査し、改善策の提案や指導を行い、その経緯と内容を詳細に記録しているか?
  2. 指導等は単発ではなく問題行動があった都度行っているか?
  3. 問題行動が重大なものであった場合は即解雇ではなく懲戒処分も併せて検討しているか?
  4. 判断が難しい場合は試用期間の延長を行うことも検討しているか?(※就業規則に延長の記載は必須です)
  5. 試用期間を延長する場合は従業員に延長の目的やその期間について納得するまで丁寧に説明し、再度雇用契約書の締結を行っているか?
  6. 延長しても改善の見込みがない場合は、試用期間満了時に間に合うように解雇予告や解雇予告手当などの労働基準法上の手続きを完了させることができているか?

というものが挙げられます。

 

重要なのは何度も言うように客観的な証拠を集めておくこと、そして問題行動があったので即解雇とはせずに、行動を改善してもらえるよう教育指導をまず行い、それでも改善が見込めないので仕方なく解雇を行うという流れで進めていくべきです。

なお「⑥」については解雇予告を試用期間満了日の30日前までに行えない場合は解雇予告手当が発生してしまいますので、最終判断をいつにするのかはあらかじめ決めてから予定を立てる必要があります。

また解雇日を試用期間満了日よりも後に設定してしまうと『本採用後の解雇である』と主張される可能性がありますので、十分注意が必要です。

 

2⃣突然無断欠勤をし音信不通となってしまった従業員を解雇する場合

従業員がある日突然出社しなくなり、しかも音信不通となってしまういわゆる『バックレ』たときはどうすればよいのか?これも後々『不当解雇だ』と訴えられないためには注意しなければならない点がいくつもあります。

  1. 身元保証人に所在確認に協力をしてもらうよう連絡をしているか?
  2. 直接社員の自宅に行き、そこで現在も生活しているかどうか確認をしているか?
  3. 自宅にいることが確認出来たら解雇予告通知書を自宅に送っているか?
  4. 自宅にいない場合は『公示送達』の手続きを行っているか?

 

ここで重要なことは解雇の意思表示が本人に『到達』しているかどうかであり、法律的には従業員がその意思表示を知ることができる状態になることが必要です。

これは必ずしも従業員本人が直接意思表示を受け取ることを要するものではなく、従業員が自宅にいることが確認出来たのならば解雇予告通知書を自宅に郵送すれば意思表示が到達できたと認められるものとなっています。

この郵送方法としては『内容証明郵便』が代表的かとは思いますが、内容証明郵便だけだと受け取り拒否をされる恐れがあるため、万全を期すためにも出来れば『内容証明郵便と特定記録郵便』の同時送付をするほうがよろしいものと思います。

 

そして「④」で出てきております『公示送達』についてですが、公示送達とは民法98条で定められている公示による意思表示の制度となっており、対象の従業員の所在地を管轄する簡易裁判所に対し、公示送達を申し立て、必要書類を提出し裁判所の許可が下りると、裁判所の掲示場に掲示されるとともに官報にも掲載されます。

そしてこの掲載から2週間を経過したら、その対象の従業員に解雇の意思表示が到達したものとみなされます。

しかし、この制度は様々な書類を会社側が作成し届け出をする必要がありかなりの業務量となりますので、できる限り従業員の所在を見つけ出し通知書を郵送する方向で対応すべきでしょう。

 

このように所在不明で音信不通となった従業員を解雇させるためには実務上困難な点が多くあります。

そこで、例えば就業規則の記載内容を『従業員と連絡が取れなくなって〇日が経過した場合は自然退職とする』という文言に変更し、『解雇事由』ではなく『退職事由』にするということも検討すべきものでしょう。

解雇か退職かこの文言の違いだけで対応は大きく変わってきますので一度、自社の就業規則には『解雇』か『退職』のどちらで定められているのかご確認していただければと思います。

 

3⃣能力不足を理由とする解雇

解雇(普通解雇)において一番問題になるものとしましては能力不足が理由となる解雇であろうかと思います。

退職の項目でも申し上げた通り、能力不足による解雇も同様に解雇が有効と認められるにはかなり高いハードルとなっております。

大切なのは『従業員の成績不良が著しい程度にあることに加え、改善の見込みがない』ことをきちんと証明できるかというところにあります。

注意する点としましては、

  1. 能力不足を示す具体的なエピソードを可能な限り収集し、状況把握を行っているか?
  2. エピソードの裏付けとなる資料を確保しているか?
  3. 能力不足改善のための、教育指導を行い、その内容についても記録しているか?
  4. 配置転換の可能性も検討しているか?
  5. 解雇が妥当となった場合でもすぐに解雇を通知するのではなく退職を促しているか?(退職勧奨を行っているか?)
  6. 解雇した後も訴訟の可能性を踏まえて証拠となりうる書類・資料は大切に保管しているか?

というものが挙げられます。

 

争いとなった場合、従業員の能力不足が著しいものなのかどうかは個々の事実を総合的に考慮して判断される事となります。

ですので、関連する具体的な事実は可能な限り記録として残し主張することが重要となります。また、教育指導をした場合は内容や日時等を詳細に記録するのはもとより、教育指導を受けた従業員の反応も記録しておくべきでしょう。

そして、「⑤」は退職勧奨となりますので上記『③の 3)』で説明した注意事項に十分気を付けて進めていくものとなります。

 

まとめ

ここまで退職、解雇における注意点をパターン別に分けてご紹介いたしましたがいかがでしたでしょうか?

当然のことながら今回挙げたものだけを注意して進めていけば安心というわけではありません。

今回ご説明しましたものはそれぞれのことが起きた場合にまず初めに注意しなければならない、基本的なものばかりで、実際の状況によっては重要視するものも変化していきます。

1つのミス、1つの見落としが原因となって会社が大きな損害を被る可能性も十分にありますので、今回ご説明しました様な事案が発生しましたら、まずはお気軽に社会保険労務士法人ベスト・パートナーズまでご連絡いただけますと幸いです。

 

労務を全力でサポートします!

「労務相談や規則の作成についてどこのだれに相談すればよいのかわからない」
「実績のある事務所にお願いしたい 」
「会社の立場になって親身に相談にのってほしい」
といったお悩みのある方は、まずは一度ご相談ください。

実績2000件以上、企業の立場に立って懇切丁寧にご相談をお受けします!