復職とは
復職とは「病気・ケガ・メンタル不調・育児・介護」など労働者本人の都合で長期にわたり休業した後、原因が解消・軽減などしたことを受け再び仕事に戻ることをいいます。
一般的には、「主治医」の診断書を「直属の上司➡人事部門」に提出し、その後面談を行います。
ただ、診断書は該当者の意思・意見に基づいて作成しているケースが多いため復帰可能か最終的な判断を下すのは「人事部門」になります。
復職について会社が対応すること
復職・休職については労基法に定めがないため、「休職制度」を会社が独自に整備・ルール化し、就業規則に明記する必要があります。
多くは在籍期間により休職期間が決まっている定めが多くなっております。
特にメンタルヘルス不調者に向けた制度構築は極めて重要です。
上記記載のように診断書を職場に提出した後、上司、人事部門、産業医などと復職の段取りや復職後の働き方について打ち合わせを行います。
※診断書に関しての注意※
復職可能の診断書は業務遂行能力の回復を示しているとは限りません!
主治医は、
- 日常生活における病状の回復具合によって復職可否を判断している場合が多い
- 「早めに復職したい」という休職者の希望を考慮している場合がある
上記2点を留意していることが多くなっています。
(主治医はあくまでも求職者からのお話・体調面を考慮しているのであって、休職者の業務を把握して復帰可能かを判断していないと思った方がよいでしょう)
復職までの給与・その他控除について
休業中においても会社との雇用関係は継続しています。
社会保険に加入している場合、住民税を給与より控除している場合は給与がなくても引き続き支払う必要があります。
給与が発生している場合は給与より控除されますが、給与が無い場合は別途会社に支払う必要がありますのでご注意ください。
(休業が長引く場合は、会社によっては住民税を普通徴収(個人払い)に変更することもあります)
また、私傷病などの場合は健康保険より「傷病手当金」が支払われるケースもあります。
復職するまでの流れ
厚生労働省が策定した「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によると、下記の流れに従い復職および復職支援を行うことが推奨されています。
~職場復帰支援の流れ~(厚生労働省HP抜粋)
上記の流れを基準に各職場の実態に合わせて「職場復帰支援に関する体制」を整備・ルール化し、プログラムを作成します。
作成する際は、人事部門や現場責任者、上司、産業医、産業保健スタッフなどの意見を取り入れ偏りのないようにしましょう。
復職が決まったら対応すること
主治医から復帰しても問題ないとの診断が出され、会社としても職場に戻ってきて大丈夫だと判断した後に労使ともに休職者が再び仕事に励めるのはとても喜ばしいことかと思います。
ただし、長期的な休職に入っていた従業員がすぐに休職前の職場生活を送ってしまうと、再び調子を崩し再度休職に戻ってしまう可能性があります。
「お試し期間」と題して以下を参考に復帰後もフォローしていくことが重要になります。
- 通勤時間を変更する(ラッシュ時を避ける)
- 午前勤務のみ・午後勤務のみなど勤務時間を減らす
- 「軽作業のみ」や「残業禁止」にする
- 「出張禁止」など普段の職場以外の勤務を避ける
~慣れてきたら~
- 勤務時間を長くしていく
- 最終的にフルタイムで勤務する
上記以外に、様子をしっかりと記録しいつでも主治医や家族に報告できるような準備をしておくことが重要になります。
休職期間の満了について
今まで記載した様に復職できる方もいれば休職期間終了しても復職できない方もいるかと思われます。
復職できない場合は「解雇・退職」になるケースが多く、その際に労使の認識不足でトラブルのリスクになるケースが少なくありません。
裁判に持ち込まれない様に、休職期間が満了となるまでに職場復帰できない場合、雇用関係を終了することが就業規則に明記されている場合が多いです。
ただし、明記されていないこともあり、その場合には双方の合意の上で労働契約を解約するか、通常の解雇手続をとるかなどの対応が必要です。
多くは、
- 休職期間満了までに復職できない場合は退職扱いとする
- 休職期間満了までに復職できない場合は解雇する
のどちらかが記載されているパターンが存在します。
上記の①②の様に記載されていれば復職できなかった場合でも、退職扱いあるいは解雇について「適法」と判断する裁判例が多くなっています。
ただ、退職扱いの適法さは、休職期間がどの程度定められているかによるわけではありません。
冒頭記載した様に休職は法律に基づくものではなく、会社による任意の制度ですので、休職期間を数カ月程度にしている会社も多く存在します。
適法か否かは、休職期間の長さではなく、復職が可能か否かの判断が適切に行われたかによります。
そして、「休職期間満了による退職あるいは解雇」について、最も重大なトラブルは、退職あるいは解雇について従業員が不当解雇であると主張し、訴訟に発展するトラブルです。
裁判例を通じて
適法
「東京地方裁判所 平成24年3月9日判決」
適応障害で休職中の入社2年目の従業員について、就業規則に定めた90日の休職期間を終えても復職願を提出しなかったことを理由に退職扱いとしたことを適法と判断した事例
「東京地方裁判所 平成26年2月7日判決」
自律神経失調症で休職中の入社6年目の従業員について、就業規則に定めた1年6か月の休職期間を終えても復職しなかったことを理由に退職扱いとしたことを適法と判断した事例
「就業規則に定められた休職期間」を経過した後も復職できなかった場合は、退職扱いあるいは解雇することも適法と判断している裁判例が多い傾向にあります。
違法
「東京地方裁判所 平成20年4月22日判決」
うつ病により休職中の従業員について、1年6か月の休職期間を終えても復職しなかったことを理由に解雇したケースです
裁判所の判断は、解雇自体が無効であり、現在も雇用関係は継続しているとして、企業側に解雇されたことによって未払いとなっていた賃金及び慰謝料として「約2,900万円」を支払うよう命じました。
背景には時間外労働の平均が約70時間にのぼっており、うつ病の発症は「長時間労働が原因」であるとして、長時間労働が原因となったうつ病で治療中の従業員を解雇することは不当解雇であると判断しました。
セクハラ、パワハラや長時間労働による精神疾患の場合には、「業務起因性」が疑われる場合が多く、業務上の疾患と判断されれば、休職制度に基づく解雇は不当解雇と判断されることになります。
「大阪地方裁判所 平成20年1月25日判決」
自律神経失調症で休職していた従業員について、従業員が復職を希望し、医師も復職可能と判断していたが、会社が復職を認めずに休職期間満了により退職扱いとしたケースです。
裁判所は、復職が可能であるのに退職扱いとしたことは不当解雇であると判断し、現在も雇用関係は継続していると判断したうえで、退職により支払われなかった賃金等「約1100万円」を従業員に支払うことを命じました。
この裁判例からもわかるように、休職中の従業員が復職を希望し、医師も復職可能であると診断しているケースでは、解雇や退職扱いとするのではなく、復職に向けたサポートを会社で行うことが必要です。
復職支援の重要性
復職支援とは、傷病による休職もしくは産前産後休業・育児休業・介護休業などを取得し長期間職場を離れていた労働者に対し、円滑な職場復帰や再適応を支援するための制度です。
特に、メンタルヘルスの不調により休職している場合、精神疾患の難治性や再発率の高さから、適切な支援を実施しないと短期間で再休職や退職に至るケースもあります。
厚生労働省による労働安全衛生調査によると、メンタルヘルスの不調から職場復帰を果たした労働者がいる事業所の割合は 51.1%です。
2人に1人が復職できていないという結果であり、メンタルヘルス不調による休職者の復職・再適応には、適切な復職支援やフォローアップが必須であると認識できます。
※弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。
利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。