就業規則は作成・労働基準監督署に届け出するだけではなく、常時見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、書面で交付することその他の厚生労働省令で定める方法で労働者に周知させなければならないと労働基準法で定められています。
この義務を怠ると、指導や是正勧告、場合によっては30万円以下の罰金が科せられることもあるので注意が必要です。
作成した就業規則を「周知すること」は10人以上の従業員がいる事業主側の義務になるのです。
内容を従業員に知ってもらって初めて就業規則が有効になります。
就業規則とは別に作成した賃金規程なども併せて従業員がいつでも見られる状態にしなければなりません。
目次
厚生労働省令で定める方法とは?
厚生労働省令で定める方法とは、次の➀から③の方法によることとされています。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備えつけること
- 書面を労働者に交付すること
- 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
1~3に関して1つずつ解説します。
常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備えつけること
「常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備えつけること」は就業規則の周知をするときに、最もシンプルです。
例えば、「休憩室の本棚に置いておく」「総務課のキャビネットに置いておく」などです。誰もが立ち入ることができる場所に配架するこのやり方なら、従業員から「就業規則がどこにあるのかわからない」との不満が出ることはないでしょう。
大事なものだから、と社長室の社長のデスクの鍵付きの引き出しに格納しているような状況では、従業員が見たいときに見ることができないため、周知方法としては不十分です。
ですが、就業規則が会社にとって大事なものであることに変わりありません。
就業規則の保管を任されている課からの持ち出しを禁じたり、責任者が同席したうえでの閲覧とすることなどは問題ありません。
また、周知場所としての「各作業場」は、本社・工場・営業所等の建物が分かれている場合は、個々の建物をいいます。
本社には就業規則が備え付けられているけれど、工場にはないというようなケースでは周知義務を果たせていないことになります。
書面で交付する
「書面で交付する」とは、就業規則をコピーしたものを労働者に配布するやり方です。
労働者個人で確認できるため、とても親切な方法ですが、印刷代や配布コストなど事業主側に負担が大きくなります。
また、コピーを労働者が外部へ持ち出してしまうことも可能になるので、外部持ち出しを制限する等の対応が必要になります。
磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること
最近は③のやり方で、会社の共有サーバーやパソコンで就業規則を確認できるようにする企業も増えてきました。
これなら物理的に場所が離れている工場・営業所等があっても周知が可能です。
パスワードなどで閲覧制限がかかっている場合は、誰でもが閲覧できる状態とはいえず、周知しているとは認められません。
書面で交付するのと同様に、外部への持ち出しができてしまうので、会社情報を外部へ漏らしたくない場合はダウンロードの回数制限などの対応が必要になるかもしれません。
就業規則の閲覧に関する注意点
就業規則は社内文書の一つになります。会社として社外秘扱いにして持ち出し禁止にするのは法律で禁止されていません。
賃金についての条項など会社の機密情報も含まれているため、禁止しているケースもあるでしょう。
就業規則の周知・閲覧については社内のことであり、社外に持ち出すことについてはそれぞれの会社で定めることができます。
就業規則を周知する際に、管理職のみ、就業規則を見たいと申し出てきた従業員のみ、ある特定の事業所の従業員のみ、などの一部の従業員だけに知らせている場合は周知義務を果たせていませんので注意してください。
なお、全従業員に周知したとしても、それが口頭のみで伝えた場合は周知義務を果たせていません。書面で証拠を残しておきましょう。
就業規則を作成したとき、変更したときには従業員に周知すると労働基準法で定められていますが、どのタイミングで周知するかは特段触れられていません。
労働基準監督署へ届け出をして、従業員に周知することで就業規則の作成や変更の手続きが完了します。
いつから就業規則を適用させるのかを決めて、周知のタイミングをはかることが必要です。ゆとりをもって周知し、閲覧できるように準備をすることが大切です。
また、新入社員に対しても周知することを忘れないように、周知のタイミングを決めておくといいでしょう。
就業規則を周知する義務が事業主側にあるとはいえ、就業規則のデータが保存されたパソコンの使い方がわからないから見ない、その他、単に「文章を読むのはめんどうだから、まあいいか」というような、従業員サイドの理由で就業規則の内容が従業員に伝わっていないときには、就業規則を作成した事業主側は「きちんと周知した」とみなされます。
その際、就業規則の効力は問題なく生じることになります。
逆に、事業主側が「従業員に見られたくない」とか「就業規則の作成と労働基準監督署への届け出さえしておけば構わない」という認識で就業規則の周知をしない場合は、その内容の効力が発生しないことになってしまいます。
就業規則に基づいて従業員の懲戒処分や解雇をおこないたい場合など、その処分に従業員が「納得がいかないから会社を訴える」などと訴えを起こされた場合に、事業主側が不利になってしまうこともあるため、注意しましょう。
就業規則の閲覧に関してのよくある質問
就業規則の閲覧に関してよく以下のような質問を受けます。
従業員から共有サーバーなどで閲覧可能な状態にしてある就業規則を、書面に打ち出し(プリントアウト)を要求してきたとき、事業主側はこれに対応しなければならないのでしょうか?
すでにご説明しましたとおり、就業規則の周知の義務としては厚生労働省令で定める方法➀から③のどれかの方法であればよいので、必ずしも書面交付の対応をしないといけないわけではありません。
したがって、すでに共有サーバーなどで閲覧可能な状態にして周知義務を果たしていれば、プリントアウトの要求には対応しなくてもいいし、プリントアウト自体を禁止することも可能といえます。
また、従業員が就業規則のプリントアウトを勝手にしたり、スマートフォンで写真を撮っているようなケースがあります。
このあたりの対応はグレーなところにはなりますが、もし会社のコピー機を使ったとすると「会社の備品の私的利用」になりますし、事業場内で個人のスマートフォンの利用を制限していれば、別の処分を科すことになるでしょう。
ただ、就業規則はプリントアウトして配ることもできますし、本来なんの問題もないもののはずです。
それなのに、閲覧だけではなくコピーを取りたいと従業員から依頼されて、「なるべく書面では渡したくない!」と社長の頭を過ぎるのはなぜなのでしょうか。
それは労働日数であったり、固定残業についての取り決めと実態が就業規則や賃金規程の定めとはかけ離れている、などの問題が潜んでいることが往々にして見受けられます。
就業規則のプリントアウトを労働基準監督署に従業員が持ち込んで訴えを起こしたらたまらない、というような火種がくすぶらないように、就業規則や賃金規程を整えながら、実際の労働条件や労働環境と乖離していないかのチェックも同時におこなっていくことが肝要です。
まとめ
就業規則は社内で働く誰もが内容を知っておく必要があり、事業主は適切な方法で周知・閲覧対応することが求められるのです。