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従業員にパワハラを労働基準監督署に相談すると言われたときどうする?

厚生労働省が公表している「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、都道府県労働局と労働基準監督署に設置している総合労働相談コーナーに寄せられた、民事上の個別労働紛争相談件数28万4,139件のうち、1番多いのが「いじめ・嫌がらせ」86,034件となっています(以降、「自己都合退職」40,501件、「解雇」33,189件)。

(出典:厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)

 

また、過去10年間の推移を見ても、平成24年度以降「いじめ・嫌がらせ」が一番多く、右肩上がりに増加しています。

(出典:厚生労働省「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)

職場における「いじめ・嫌がらせ」とは、いわゆる「パワハラ」ですが、相談件数が増えてる要因の1つとして、「パワハラの理解不足による相談の増加」という現象が挙げられます(「職場のハラスメント防止に関するアンケート結果」(2021年経団連)5頁)。

例えば、「ハラスメントというより、従業員間の諍いごとといった内容の相談・訴え」「指導・指摘、あるいは上司や周囲の言動で、本人の意に沿わないという点のみで、ハラスメントを主張するケース」などです。

2020年6月(中小企業は2022年4月より適用)に改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が施行され、パワハラ防止の意識や相談窓口が浸透された一方で、何がパワハラであるかの理解が進んでいないことの表れだと考えます。

 

このようなパワハラの相談が、社内窓口や提携している社会保険労務士等の外部窓口に寄せられるのは特に問題ありませんが、労働基準監督署に持ち込まれるとどうなるのでしょうか。

会社に臨検や立ち入り調査が入るようなことはないのでしょうか。

従業員のお門違いな相談がきっかけで、煩わしい対応を迫られる調査にでもなったら、経営者や人事労務にとっては迷惑千万な話です。

そこで、今回は従業員がパワハラの相談を労基署に持ち込んだ場合にどうなるかについて、労働基準監督署と労働局の役割等を交えながら解説したいと思います。

 

社会保険労務士法人ベスト・パートナーズはパワハラなどのハラスメント対策に強い社会保険労務士事務所です。

パワハラ対応にお困り・お悩みの際はお気軽にご相談下さい。

※弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。
 利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。

 

1.労働基準監督署にパワハラ相談をすると

人事労務の分野で関わりがある行政機関といえば、労働基準監督署(労基署)、ハローワーク、年金事務所及び都道府県労働局です。

このうち、ハローワークは雇用保険、年金事務所は社会保険と役割が明確ですが、労働基準監督署と都道府県労働局(労働局)について理解している人は少ないと思います。

そこで、最初に労基署の役割について見ていきます。

 

①労働基準監督署の役割

労働基準監督署は、労働基準法その他の労働者保護法規に基づいて事業場に対する監督及び労災保険の給付、労働基準法違反の取締捜査、労働安全衛生法等による免許の選任、就業規則の検認、届出を行う厚生労働省の出先機関です。

労働基準監督署に配置されている労働基準監督官は、労働基準関係の法令違反事件に対しては司法警察員として捜査と被疑者の逮捕、送検(書類送検を含む)を行う権限もあります。

しかし、労基署による監督の対象になるのは、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、じん肺法、家内労働法、賃金の支払の確保等に関する法律などの「労働基準関係法令」と言われるものに限定されています。

逆に言えば、「労働基準関係法令」にならない、育児介護休業法や男女雇用機会均等法等に対する法律違反は労基署の監督の対象にはならないのです。

 

②パワハラの場合は労働局を案内される

パワハラについては、労働施策総合推進法が企業にパワハラ防止を義務付けていますが、労働基準関係法令には該当しません。

従って、従業員が労基署に相談したとしても「管轄じゃないので労働局に行ってください。」と言われ、「労働局」にたらい回しにされることになり、通常は会社に調査が入るような事態にはならないのです(なお、「労働局」については、後半で説明します)。

ただし、労基署にも「総合労働相談コーナー」という相談窓口が設けられていて、その従業員も話だけは聞いてもらえます。その際に残業代未払等、労働基準関係法令の違反が疑われる内容が伝わると、それをきっかけに臨検・立ち入り調査が行われる可能性はあります。

 

➂労災認定の場合は労基署

また、労基署の役割には、労災保険の給付があります。これは、労災給付の申請があった際に労災認定をして労災保険から必要な給付を行うものですが、パワハラによって労災事件が発生することがあります。

例えば、パワハラが原因で従業員が精神障害を発症、自殺に至ったようなケースです。

このような場合は、労災認定の調査のために、会社に対して労基署の調査が行われます。

なお、精神障害に関連する労災は、業務との関係が明確でないため、調査に半年程度の期間がかかると言われており、業務によるストレスの程度や残業の長さ、パワハラの有無などだけではなく、就業環境や本人の仕事内容、職場内の人間関係等についても詳細に調査されることがあります。

パワハラによる労災の事例は次のようなものです。

(出典:厚生労働省)

 

 

2.労働局にパワハラを持ち込むと

労働局は、「大阪労働局」「東京労働局」のように都道府県名を付されて、都道府県毎に設置されている労基署やハローワークの上部機関です。

上部機関なら労基署よりも、煩わしいところのように感じるかも知れませんが、会社と労働者との間に労働関係の紛争が発生した場合に、紛争解決に必要な助言や指導、あっせんを行うことが主な役割です。

 

①基本は相談と情報提供

パワハラについての理解不足で相談が持ち込まれることがあるように、当事者の法令や判例の理解不足や誤解によって労働問題が発生することがしばしばあります。

そこで、紛争に発展することを未然に防ぎ、紛争に発展した場合の早期解決を目的として、労働局は、当事者の相談に応じて、情報の提供を行っています。

第三者である労働局が提供する情報と丁寧な説明により、相談者が自らの思い違いを理解することもあるのです。

 

②ケースによっては助言・指導

相談と情報提供によっても解決しない場合は、会社に対して助言・指導が行われることがあります。

この助言・指導は、個別労働紛争の問題点を指摘し、解決の方向を示唆することにより、紛争当事者による自主的な解決を促進する制度ですが、会社や従業員に対し、一定の措置の実施を強制するものではありません。

パワハラについて従業員から労働局に相談が持ち込まれると、次のような助言・指導が行われます。

(出典:厚生労働省)

 

このような助言・指導は、労働局が会社に対して理解を求めるもの・理解不足を補うことを目的としており、それほど重いものではありませんが、従わない場合には1段と強い「勧告」が行われることがあります。

「勧告」にも強制力はありませんが、従わない場合は厚生労働省によって会社名が公表される可能性があるので注意してください(労働施策総合推進法第33条第2項)。

 

②ケースによってはあっせん手続

本人が金銭による賠償を希望している場合には、労働局が紛争調整委員会によるあっせん手続を案内することがあります。

紛争調整委員会は、弁護士や社会保険労務士等によって構成され、労働局に置かれる機関です。

当事者の間に、弁護士や社会保険労務士等の学識経験がある第三者が入り、双方の主張の要点を確かめ、紛争当事者間の調整を行い、話合いを促進することにより、紛争の円満な解決を図る制度があっせん手続です。

労働審判や民事訴訟と比較すると、無料で迅速かつ簡便に行われますが、当事者があっせん手続に参加する意思がない旨を表明したときは実施されない、つまり参加が任意であることが大きな特徴です。

なお、このあっせん手続には、特定社会保険労務士を代理人にして参加することもできます。

パワハラによるあっせんの実例は次のようなものです。

(出典:厚生労働省)

 

会社側は、あっせん手続に参加しないという選択も可能ですが、この事例のようにパワハラの場合のあっせん手続は、従業員が慰謝料等の金銭解決を求めて申し立てるのが一般的です。

従って、会社側が参加しなかった場合には、当該従業員が合同労働組合(ユニオン)や法律事務所に相談を持ち込み、より深刻な労使紛争(ユニオンなら団体交渉・法律事務所なら労働審判や民事訴訟等)に発展する可能が高くなります。

従業員からパワハラについてあっせん手続の申し出があった場合には、安易に判断さず、社会保険労務士等の最寄りの専門家に相談することをお勧めします。

 

3.おわりに

今回は、労働基準監督署にパワハラの相談が持ち込まれるとどうなるかについて、解説しました。

従業員が労働問題について相談する際、最初に労基署に駆け込むことが多いと考えられますが、パワハラ問題は所管ではないため、持ち込まれたところで労基署から調査・指導を受けることは原則としてありません。

しかし、これが契機となり、労働局から助言・指導を受けたり、あっせん手続が行われることもあります。

また、従業員の相談から法令違反と誤解されるような内容が伝わり、労基署による臨検・調査になることも考えられます。

こういう事態を避けるためにも、パワハラの相談窓口を社会保険労務士等の社外の専門家に委託することをお勧めします。

社会保険労務士法人ベスト・パートナーズはパワハラなどのハラスメント対策に強い社会保険労務士事務所です。

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