職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)対策にお困りの方も多いかと思います。
どのような言動がパワハラにあたるのか、そもそも、パワハラとはどういうものなのか。
今回はまず、パワハラの定義について、具体例をあげながらご説明します。
目次
1 職場におけるパワーハラスメントの概念
厚生労働省では以下の①~③のすべての要素を満たすものを職場におけるパワハラの概念としています。
- 優越的な関係を背景とした言動であること
- 業務の適正な範囲を超えて行われること
- 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
なお、客観的にみて業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。
「職場」とは
「職場」とは、通常働いているオフィスや作業場などのみを指すわけではなく、それ以外の場所でも業務を遂行する場所であれば「職場」に含まれます。
例えば出張先や取引先との打ち合わせ場所、業務のための移動中の車内なども「職場」にあたります。
業務中であれば会食や懇親の場なども「職場」といえますが、会食等が業務にあたるかどうかは個別の判断が必要です。
「労働者」とは
「労働者」とは、いわゆる正社員のみを指すのではなく、パートタイム社員、契約社員、アルバイトなど、非正規の労働者を含むすべての労働者のことをいいます。
また、派遣労働者については派遣元はもちろん、派遣先でも直接雇用の労働者と同様にパワハラ対策をしていきましょう。
2 職場におけるパワハラ3つの要素
それでは先に挙げたパワハラの3つの要素について、詳しく確認しましょう。
要素①「優越的な関係を背景とした言動であること」
まず一つ目の要素、「優越的な関係を背景とした言動」とは、当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができないであろう見込みが高い関係を背景として行われる言動のことです。
職場の上司や先輩など、地位が上位の者による行為が最も想像しやすいのではないでしょうか。
他にも、同僚や部下による行為でも、その行為者が業務上の知識や経験を有しており、その行為者の協力がないと業務の円滑な遂行を行うことが困難な場合も他の要素を満たせばパワハラであると考えられます。
具体例としては、専門的な知識や資格を持つ労働者がそれ以外の労働者に対しての行為などです。この場合、専門的な知識を持つ労働者が部下であったとしても優越的な関係といえます。
さらに、同僚や部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶が困難なものについてもあてはまります。
具体例としては、他部署から異動してきた上司に対して所属するほかの労働者が集団での行為、途中入社の社員などに対して同僚が集団で行う行為などです。
パワハラといえば上司から部下に、先輩から後輩に、というイメージがあるかと思いますが、そうではない場合もパワハラにあたる可能性があるということに気を付けましょう。
要素②「業務の適正な範囲を超えて行われること」
二つ目の要素、「業務の適正な範囲を超えて行われること」とは、社会通念に照らし、当該行為が明らかに業務上の必要性がなく、またはその状態や様子が相当ではないものであることです。
例としては、
- 業務上明らかに必要性のない行為
- 業務の目的を大きく逸脱した行為
- 業務を遂行するための手段として不適当な行為
- 当該行為の回数・行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える行為
が挙げられます。
要素②を満たすかどうかの判断は、個別のケースごとに慎重に行わなければなりません。
当該言動に至った経緯や状況、目的はもちろん、労働者側の問題行動の有無や属性、心身の状況、業務内容や行為者と労働者の関係性などを総合的に考慮する必要があります
労働者の行動に問題があった場合についても、その問題の内容・程度に対して行為者の言動が逸脱していないかなどに気を付けなければなりません。
また、行為者が労働者の人格を否定するような言動などをしていれば、業務上明らかに必要がない行為としてパワハラにあたる可能性が高まります。
たとえば学歴や国籍、疾患や傷害など、業務と関係のない内容に対する暴言があれば、パワハラにあたると考えられます。
また、問題行動に対して逸脱していないような指導であっても、それが何度も何度も繰り返されるような場合や複数人から執拗に行われるような場合については、許容範囲を超えるとしてパワハラにあたる可能性も出てきますので注意が必要です。
ただし、業務の適正な範囲内においての注意や指導は、その行為を受けた労働者が不満を感じたとしてもパワハラにはあたりません。
このあたりの線引きは個別の状況をしっかり確認したうえで判断していかなければなりません。
要素③「身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」
三つ目の要素、「身体的・精神的な苦痛を与えること」「就業環境を害すること」とは、当該行為を受けたものが身体的・精神的圧力によりまたは当該行為により職場環境が不快なものとなったため能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で見過ごすことができない程度の支障を生じることです。
わかりやすくイメージしやすいものでいうと、暴力・暴言などにより直接的に障害を負わせることや人格を否定する行為があります。
ほかにも、何度も執拗に怒鳴る・叱責を繰り返すなど、労働者に恐怖を感じさせる行為もパワハラにあたります。
直接的な行為以外では、長期間にわたる無視や、能力に見合わない仕事をさせて意欲を低下させる行為などもパワハラにあたる可能性があります。
能力に見合わない仕事、というのは本人の能力を上回る仕事のことだけでなく、明らかに能力にそぐわない簡単な仕事を与えるづけることも含みます。
大変な仕事を与え続けて心身を消耗させることも、簡単な仕事だけを与え続けてわざと暇にさせることもどちらもパワハラとなりえます。
要素③の判断については、「平均的な労働者の感じ方」を基準とします。
「平均的な労働者の感じ方」とは、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で見過ごせない程度の支障が生じたと感じるかどうかです。
同じような言動を受けたとしても、ひとりひとり受け止め方は異なります。
個々の心身の状況に応じてパワハラか否かを判断するのではなく、平均的に考えてパワハラか否かを判断しましょう、というのがこの考え方です。
行為を受けた側の主観のみでパワハラかどうかが決まることはありません。客観的な判断が求められます。
一方の意見だけではなく双方の意見を聞いたうえで、周囲の人たちからの情報提供も求めていく必要があります。
言動の頻度や継続性は考慮されますが、強い身体的・精神的苦痛を与える言動の場合は1度だけの行為でもパワハラとされる可能性があります。
3 パワハラにあたるかどうかの判断に迷ったら
今回はパワハラの定義についてご説明しました。定義がわかっても個別の案件がパワハラにあたるかどうかについての判断はとても難しいものです。
パワハラかどうかについては3つの要素をそれぞれ満たすかどうかを判断することが重要です。
パワハラだ!またはパワハラではない!とすぐに決めず、慎重に考慮して個別の案件に対応していきましょう。
次回以後、制定されたパワハラ防止法や具体的なパワハラ対策などについても解説をしていく予定です。随時更新いたしますのでまたぜひご確認ください!
4 おわりに
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズでは職場におけるパワーハラスメントのご相談ももちろんご対応可能です!
パワハラ対策について迷ったとき、パワハラかな?と困ったとき、パワハラだといわれてしまったときなど、一度お問い合わせください。
※弊所では、残業代請求を含む労働トラブルについて、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。
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