遺族年金については制定当時より複雑化しており、一般の方が理解するには難しい制度といえます。
一方で遺族年金は残された遺族の生活保障という観点から非常に重要な側面も持ち合わせております。
そこで今回は、複雑な遺族年金について知っておきたいポイントを解説したいと思います。
遺族年金とは
遺族年金とは主に家計を支えていた人が死亡した場合に、その遺族(家族)に対して支給される年金制度であり、亡くなられた方の年金の加入状況により「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」のいずれかまたは両方の年金が遺族に支給される制度となります。
以下、順番に「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」を解説していきます。
遺族基礎年金とは
遺族基礎年金とは、国民年金保険に加入していた人が死亡した場合に、一定の条件を満たす遺族に支給される年金のことをいいます。
遺族基礎年金の支給要件
支給対象である遺族が遺族基礎年金を受け取るためには、亡くなった者が次のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 国民年金の被保険者である間に死亡したとき。
- 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき。
- 老齢基礎年金の受給権者であった方(保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限る) が死亡したとき。
- 保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方が死亡したとき。
さらに上記①と②については、亡くなった者が国民年金保険料を納付していたかどうかなどの「保険料納付要件」が問われます。
具体的には死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの被保険者期間に、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要となります。
ただし、上記保険料の納付要件には特例が定められており、亡くなった者の死亡日が令和8年3月末日までにあるときは、次のすべての条件に該当する場合、納付要件を満たすものとされており要件が緩和されています。
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遺族基礎年金の支給対象者
次に遺族基礎年金の支給対象者としては「子のある配偶者」または「子」が対象となり、支給対象者が限定されています。
※ここでいう子とは、死亡当時、「18歳になった年度の3月31日までの間にある者」または「20歳未満で障害等級1級または2級の障害の状態にある者」が該当します。
上記のとおり、遺族基礎年金は子の生活を支えるために設けられた制度のため、遺族に子がいない場合は支給されません。
遺族基礎年金の支給額
遺族年金の支給額は、支給対象者である「子の人数」により変動し、下記のとおりとなります。
子のある配偶者が受け取るとき | 年額816,000円 +(子の加算額)
※昭和31年4月1日以前に生まれた方 ‥‥ 年額813,700円 |
子が受け取るとき | 年額816,000円 +(2人目以降の子の加算額)
1人目および2人目の子の加算額 ‥‥ 各 234,800円 3人目以降の子の加算額 ‥‥‥‥‥‥ 各 78,300円 |
遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、厚生年金保険に加入していた人が死亡した場合に、一定の条件を満たす遺族に支給される年金のことをいいます。
遺族厚生年金の支給要件
支給対象である遺族が遺族厚生年金を受け取るためには、亡くなった者が次のいずれかの要件を満たしている必要があります。
- 厚生年金保険の被保険者期間中に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日のある病気やけがにより初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金の受給者が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった者が死亡したとき(保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が25年以上である者に限る)
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした者が死亡したとき(保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が25年以上である者)
さらに上記①と②については、遺族基礎年金と同様に亡くなった者が国民年金保険料を納付していたかどうかなどの「保険料納付要件」が問われます。
具体的には死亡日の前日において、死亡日が含まれる月の前々月までの被保険者期間に、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要となります。
ただし、上記保険料の納付要件には遺族基礎年金のと同様に特例が定められており、死亡日が令和8年3月末日までにあるときは、次のすべての条件に該当する場合、納付要件を満たすものとされており要件が緩和されています。
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遺族厚生年金の支給対象者
次に遺族厚生年金の支給対象者としては、遺族基礎年金と同様に遺族の範囲が限定されており以下のとおりとなります。
- 子のある配偶者(夫の場合は55歳以上(60歳から支給))
- 子(18歳になった年度の3月31日までにある者、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある者。)
- 子のない配偶者(夫の場合は55歳以上(60歳から支給))
- 父母(55歳以上(60歳から支給))
- 孫(18歳になった年度の3月31日までにある者、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある者。)
- 祖父母(55歳以上(60歳から支給)
上記のとおり、遺族厚生年金の支給対象者は遺族基礎年金と比較してその範囲が広くなっています。
遺族厚生年金の支給額
遺族厚生年金の支給額は、亡くなった者の厚生年金の加入期間や報酬の額を基に計算されますが、具体的には以下のとおり、算出されます。
遺族厚生年金の額=亡くなった者の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4 |
ただし、65歳以上で老齢厚生(退職共済)年金を受ける権利がある方が、配偶者の死亡による遺族厚生年金を受け取るときは、次の次の①と②の額を比較し、高いほうが遺族厚生年金の額となります。
- 亡くなった者の老齢厚生年金の報酬比例部分の3/4の額
- 「上記①の額の2/3」と「本人の老齢厚生(退職共済)年金の額の1/2」を合計した額
※本人の老齢厚生(退職共済)年金の額については、子の加給年金額を除いた額となります。
また、次のいずれかに該当する妻が受け取る遺族厚生年金には、40歳から65歳になるまでの間、612,000円の「中高齢寡婦加算」が追加で支給されます。
- 妻が40歳以上65歳未満で、生計を同じくする子がいない場合。
- 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受け取っていた「子のある妻」(40歳に達した当時、子がいるため遺族基礎年金を受けていた妻に限る)が、子が18歳になった年度の3月31日に達した(障害の状態にある場合は20歳に達した)ため、遺族基礎年金を受け取ることができなくなった場合。
なお、中高齢寡婦加算については以下の留意事項がございます。
- 昭和31年4月1日以前生まれの妻が、遺族厚生年金を受け取ることができるようになった当時65歳以上であったとき、または中高齢の寡婦加算額を受け取っている方が65歳になったときは、中高齢の寡婦加算額が経過的加算額(生年月日に応じて減額)に変更となる。
- 遺族基礎年金を受け取ることができるときは、中高齢寡婦加算および経過的寡婦加算を受け取ることができない。
- 障害基礎年金を受け取っている間は、経過的寡婦加算を受け取ることができません。
寡婦年金
寡婦年金とは、夫が死亡した際に一定の条件を満たす妻に対して支給される年金です。
寡婦年金は、死亡日の前日において国民年金の第1号被保険者として保険料を納めた期間および国民年金保険料免除期間が10年以上ある夫が亡くなったときに、その夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にあり、死亡当時にその夫に生計維持されていた妻が60歳から65歳までの間受けることができます。
寡婦年金の支給要件及び支給対象者
寡婦年金の支給対象者は、以下の条件を満たす妻となります。
- 夫が国民年金の第1号被保険者として保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が10年以上であること。
- 妻自身が老齢基礎年金の受給権を持っていない(もしくは受給資格を満たしていない)こと。
- 夫婦の婚姻期間が10年以上あったこと(婚姻関係が事実婚含む)。
- 妻の年齢が60歳から65歳までであること。
- 夫が老齢基礎年金または障害基礎年金を受け取ったことがないこと。
寡婦年金の支給額
寡婦年金の支給額は、亡くなった夫の国民年金の加入期間を基に計算されますが、具体的には以下のとおり、算出されます。
寡婦年金の額=夫の死亡日前日までの第1号被保険者(任意加入被保険者を含む)期間から、老齢基礎年金の計算方法により算出した額の3/4となります。 |
支給期間
寡婦年金については、支給期間が定められており妻の年齢が「60歳から65歳になるまでの間」、支給がなされます。
ただし、妻がもし再婚した場合や妻自身が老齢基礎年金を受給できるようになった場合は、寡婦年金は支給ストップしますので、注意が必要です。
未支給年金
未支給年金とは、年金受給者が死亡した場合、その死亡した月までに支給されるべき年金がまだ支払われていない場合に、遺族や指定された人がその未支給の年金を受け取ることができる制度です。
年金は後払いのため、亡くなった人が亡くなった月分までの年金を受け取る権利がありますが、その年金がまだ支払われていない場合に該当します。
未支給年金の支給対象者
未支給年金を受け取ることができるのは、亡くなった年金受給者と生計を同じくしていた遺族で、具体以下の優先順位と定められています。
- 配偶者
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- それ以外の3親等以内の親族
未支給年金の請求方法
未支給年金を受け取るためには請求手続きが必要になり、下記の書類を年金事務所に提出する必要があります。
- 受給権者死亡届(報告書): 亡くなったことを報告する書類。
- 未支給年金・未支払給付金請求書: 未支給年金の請求を行うための書類。
上記書類の添付書類として、亡くなった方の年金証書、死亡の事実がわかる書類(死亡診断書など)、請求者の本人確認書類、請求者と亡くなった人の続柄を確認できる書類(戸籍謄本など)が別途必要となります。
なお、未支給年金の請求期限は定めれておりせんが、年金自体の時効が5年の消滅時効にかかるため、未支給が発覚した場合には早期に手続きを進めることが重要です。
併給調整
併給調整とは、遺族年金と他の年金(老齢年金や障害年金など)を同時に受け取る場合に、全ての年金をそのまま併給できるかどうかを調整する仕組みのことで、ざっくりまとめると以下のとおりとなります。
遺族基礎年金 | 遺族厚生年金 | |
老齢基礎年金 | 併給NG | 65歳以上の場合は併給OK |
老齢厚生年金 | 併給NG | 65歳以上の場合は遺族厚生年金が老齢厚生年金相当額部分について支給停止 |
障害基礎年金 | 併給NG | 65歳以上の場合は併給OK |
障害厚生年金 | 併給NG | 併給NG |
併給調整については大変複雑な制度のため、より具体的な併給調整の制度については最寄りの年金事務所へ照会しましょう。
まとめ
以上、遺族年金、寡婦年金、未支給年金、併給調整について解説してきました。
今後、遺族年金制度については改正が予定されているため、現行制度からどう変わりご自身の生活にどのような影響が出るかしっかり理解しておきましょう。