昨今、日本においても『離婚』というのは一般的な出来事になってきています。
令和4年の特殊離婚率(年間の離婚数を婚姻数で割った値)は、約35%となっており、実に結婚をした3組に1組は離婚を経験していることとなります。
年間の離婚件数は平成12年の26.4万件をピークとし、ここ数年は20万件前後で推移しており、この状態はこれからも続くものと予想されます。
離婚の際に大きな問題の一つとなるのが『お金』です。
財産分与、養育費、離婚慰謝料などなどすんなり話がまとまらないものばかりで、時には大きな争いに発展することもよくある事です。
上記の事項も大切ではありますが、実は離婚する際の取り決めや手続きによって老後にもらえる『年金額』が変わってくることがある事をご存じだったでしょうか?
この制度を一般的に『年金分割』と呼んでいます。
今回はこの『年金分割』についてその種類や制度の内容、注意しなければならない事をご説明していこうと思います。
老後の生活に大きな影響を与える『年金』の話となり、後で知ったとしても、取り返しがつかなくなってしまっている場合もあります、老後の自分のためにも是非ともご一読していただければ幸いです。
目次
年金分割とは
『年金分割』という制度は、離婚した場合に婚姻期間中の保険料納付額に対応する『厚生年金』を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。
特殊な考え方として夫婦が婚姻中に納めた厚生年金等は2人の『共有財産』とみなされていることです。
共有財産となりますので離婚時には財産分与として分割し、それぞれに分け合うものという考え方で『年金分割』は出来上がっています。
したがって専業主婦など厚生年金保険料の納付実績がない人でも、厚生年金を受け取ることができるため、夫婦のうち給料が低いほうに特にメリットがある制度となっています。
年金分割の種類とその仕組み
年金分割制度は2つに分かれておりそれぞれ『合意分割』、『3号分割』と呼ばれています。
合意分割
『合意分割』とは離婚をし、以下の条件に該当した場合、当事者の一方または双方からの請求により、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で分割することができる制度となります。
- 婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)があること。
- 当事者の合意または裁判手続きにより按分割合を定めたこと。
合意分割は結婚していた期間中、夫婦両方が厚生年金保険料を支払った記録がある場合が対象となり、一般的にはもらえる厚生年金額の少ない方が多い方に対して分割を請求します。
基本的に夫婦の話し合いにより分割割合が決まりますが、話し合いで決まらない場合は調停や審判で決めることになります。ただし、審判となった場合、基本的には50%ずつの割合となることがほとんどです。
合意分割のメリットは、夫婦間の合意があれば自由に割合を設定することができる点です。
また、合意によって決定するため、公平性が高くなる点もメリットの1つとなります。
逆にデメリットは、話し合って合意ができなければ調停や審判、裁判で争うこととなり、請求するまでに時間がかかってしまう可能性がある事です。
3号分割
次に『3号分割』についてですが、『3号分割』とは離婚をし、以下の条件に該当した場合、
国民年金の第3号被保険者であった方からの請求により、平成20年4月1日以後の婚姻期間中で、第3号被保険者期間中における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度となります。
1,婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間があること。
なお『国民年金第3号被保険者』とは、会社員や公務員など国民年金の第2号被保険者に扶養される配偶者で20歳以上60歳未満の人をいい、一般的には夫の扶養に入って『専業主婦』として暮らしている方がこれに該当します。
平成20年4月1日以降ずっと専業主婦だった方が離婚した場合などはこの『3号分割』を請求することができ、結婚当初は働いており途中から専業主婦になった場合は、働いていた期間分は『合意分割』、専業主婦だった期間分は『3号分割』を請求をすることができます。
3号分割のメリットは、相手の合意がなくても請求できる点と、1人で手続きを行える点です。
『合意分割』と違い『3号分割』を請求する際には当事者の合意等は必要なく、そして、その分割割合は『一律50%』と決まっており、当事者の一方または双方から申し出たとしても、その割合を変更することはできません。
デメリットは『3号分割』ができる期間が婚姻期間のうち自分が第3号被保険者でかつ『平成20年4月1日以降』の期間のみであるという点があげられます。
共働きするタイミング等、人によってはごく短期間分しか請求できない場合もあります。
『合意分割』『3号分割』の請求手続きの流れ
まず『合意分割』の請求手続きについてですが期限内に、
- 年金事務所へ行き、年金分割のための情報が記載された『情報通知書』を請求し発行してもらう。
- 夫婦で分割の割合を話し合う。
- 『標準報酬改定請求書』等の必要書類を年金事務所に提出する。
を行う必要があります。
1,年金事務所へ行き、年金分割のための情報が書かれた『情報通知書』を請求し発行してもらう。
年金分割の話し合いをするために、事前に必要な情報が記載された『情報通知書』を発行してもらうことができます。
年金分割の割合は自由に決めることができず、法律で定められる範囲内(上限50%)でなければなりません。
そのような法的な条件や期限などを確認するために『情報通知書』は必要となります。
2,夫婦で分割の割合を話し合う
年金分割の割合はまずは話し合いにて決定します。
しかし、話し合いによる合意ができなかった時は裁判所への審判や調停、または離婚訴訟における手続きによって按分割合が決定されます。
3,必要書類の作成・取り寄せを行い年金事務所に提出する。
提出に必要な書類は、
1)標準報酬改定請求書
2)請求者のマイナンバーカード等、または年金手帳、または年金基金番号通知書
3)婚姻期間を明らかにできる資料(戸籍謄本や戸籍の全部事項証明書など)
4)直近1ヵ月以内に作成された2人の生存を証明できる資料
(戸籍謄本や戸籍の全部事項証明書など)
5)年金分割を明らかにできる資料
(分割割合に合意したことがわかる公正証書や裁判所から発行される審判書の謄本など)
となっています。
特に『5』の年金分割を明らかにできる資料については発行に時間がかかってしまうものもありますので、期限内に提出できるよう余裕をもって取りそろえる必要があります。
次に、3号分割の請求手続きについてですが、
3号分割の場合、夫婦の合意は必要なく期限内に下記の書類を年金事務所へ提出するだけで手続きは終了となります。
1,標準報酬改定請求書請求者の「年金手帳」または「年金基金番号通知書」
2,婚姻期間を明らかにできる資料(戸籍謄本や戸籍の全部事項証明書など)
3,直近1ヵ月以内に作成された2人の生存を証明できる資料
(戸籍謄本や戸籍の全部事項証明書など)
ただし、3号分割は平成20年4月1日以降が対象となりますので、それ以前の期間分(平成20年3月31日以前分)については合意分割となります。
なお、合意分割の請求が行われた際、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、自動的に合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされ処理されることとなります。
手続きの請求期限について
年金分割の請求を使う際において一番注意しなければならないことはズバリ『請求期限』です。
年金分割請求の期限は、原則として次の事由に該当した日の翌日から起算して『2年以内』となっています。
1,離婚をしたとき
2,婚姻の取り消しをしたとき
3,事実婚関係にある方が国民年金第3号被保険者資格を喪失し、 事実婚関係が解消したと認められるとき
(事実婚関係にある当事者が婚姻の届出を行い、引き続き婚姻関係にあったが、
その後に『1または2』の状態に該当した場合は『1または2』に該当した日の
翌日から起算して『2年』を過ぎると請求できません。)
そして下記の2項目が請求期限の例外として定められています。
1,次の事例に該当した場合は、その日の翌日から起算して『6カ月経過』するまでに限り、分割請求することができます。
1)離婚から2年を経過するまでに審判申立を行って、本来の請求期限が経過後、
または本来請求期限経過日前の6カ月以内に審判が確定した。
2)離婚から2年経過するまでに調停申立を行って、本来の請求期限が経過後、
または本来請求期限経過日前の6カ月以内に調停が成立した。
3)按分割合に関する附帯処分を求める申立てを行って、本来の請求期限が経過後、
または本来請求期限経過日前の6カ月以内に按分割合を定めた判決が確定した。
4)按分割合に関する附帯処分を求める申立てを行って、本来の請求期限が経過後、
または本来請求期限経過日前の6カ月以内に按分割合を定めた和解が成立した。
2,分割のための合意または裁判手続きによる按分割合を決定した後、分割手続き前に当事者の一方が亡くなった場合は『死亡日から1カ月以内』に限り分割請求が認められます。
※この場合、年金分割の割合を明らかにすることができる書類の提出が必要です。
『離婚をしてから2年』と文字だけ見るとかなり時間があるように思えますが、離婚前後のごたごたを処理しつつ、その間に分割割合についての合意を行い、必要な書類を揃え、請求書を作成し提出することを考えると、そこまで時間に余裕はないものかと考えます。
また、例外の2の記載にある通り割合を決定した後、分割手続き前に当事者の一方が亡くなった場合は請求期限が『死亡日から1カ月以内』と一気に短くなり、特に注意が必要です。
年金分割は離婚したら自動的に行われるものではなく、上記の期間中に請求をして初めて適用される制度となります。
特に専業主婦を長期間で行っていた場合でありますとこの年金分割を行わなければ将来貰える年金額が大きく減少してしまう可能性があります。
一歩間違えると大きな損失を被ってしまう可能性もありうる制度ですので請求を行う際には必ず請求期限がいつなのかを確認し、余裕を持ったスケジュールを立てていくことがとても大切となります。
請求期限以外で注意しなければならないこと
請求期限以外にも年金分割制度には注意しなければならないことや、押さえておかないといけないことがあります。
大きなトラブルや争いに発展してしまうケースもありますのでこちらも注意が必要です。
1,年金分割制度によって分割できるものは『厚生年金と共済年金』のみ
年金分割は企業に勤める会社員(厚生年金)や、公務員(共済年金)などが対象となっている制度で、配偶者が自営業などで厚生年金や共済年金に加入していない場合は、そもそも利用することはできません。
また仮に厚生年金の加入期間があってもその期間が短期間である場合は、たとえ分割しても将来の貰える年金額がほとんど変わりないという可能性もあります。
また、年金分割は単に今まで支払った金額を半分にするのではなく、婚姻期間中に2人が納めた年金の金額を一定の割合で分け合います。将来受け取れる金額を分割するわけではないので注意が必要です。
2、分割してもらう側の年金保険料が未納である
レアケースではありますが、年金を分割してもらう側が自分の年金保険料を支払っていないケースも考えられます。
自分の年金保険料を支払った期間(保険料免除期間を含む)の合計が10年以上ないと年金の受給資格はありませんので、分割してもそもそも年金をもらえる資格がなく、分割の意味をなさないという場合もあります。
3,分割された年金はすぐにもらえるものではない
無事に年金分割が完了したとしても、年金ですのですぐに支給してもらえるわけではありません。
分割した年金は、自分の年金受給が開始されてから初めて受け取るものとなります。
年金の支給は障害年金等の受給権者に該当しない場合、老齢年金の受給が開始される年齢になってからとなります。
また、改定された標準報酬は、将来に向かってのみ効力を有するものとなりますので、
仮に現在年金を受給している場合においては、新しく金額が変わるタイミングは請求があった日の『翌月分』からとなります。
4,再婚しても年金分割には影響なし
年金分割をした側・された側のどちらも再婚によって分割割合や年金受給額が変更することはありません。
なお、年金分割に回数制限はないので再婚後、また離婚となっても再婚後の期間についても年金分割の請求をすることは可能です。
5,年金分割を受けた元妻が死亡しても分割はそのまま
年金分割を受けた元妻が仮に死亡したとしても、元夫の年金へ分割をした年金納付分が戻ることはなく、元妻が死亡によって、元夫の年金額が変わることはありません。
まとめ
以上が、年金分割の説明となります。
いかがでしたでしょうか?
年金は自身の老後の暮らしに重要なものです。
離婚当時は早く関係を終わらせたい、離婚を成立させたいからと思い、年金分割の手続きをやらないでいたり、理解しないまま、相手の言われたとおりに進めてしまっていたりすると、後々になって取り返しのつかない大きな損を被ってしまうかもしれません。
また、合意分割において分割の割合で争うこともしばしばあり、それが長期化・泥沼化することもよくあります。
もし、その時が来た場合は焦らず、まずは専門家の社会保険労務士法人ベスト・パートナーズへご相談いただけますと幸いです。
※弊所では、労働トラブル等について、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。
利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。