所定労働日数および所定労働時間通りに勤務した際に支給される固定給に対し、歩合給とは成果給とも呼ばれるもので、勤務日数や勤務時間にかかわらず労働者の成果・成績等に準じて支払われるものです。
例えば、
- その月の契約件数
- その月の売上高
等に応じて金額が随時決定され支払われるものが歩合給と言えるでしょう。
歩合給制度は保険、不動産等の営業マンやディーラーの販売員などに良く適用されることが多い制度で、社員のモチベーションアップや生産性向上に繋がることが期待されるものですが、一方で注意点やデメリットも存在します。
この記事では歩合給制度の適切な取り扱いについて解説します。
歩合給と最低賃金の関係
事業主は雇用契約を結んだ社員に対して、最低賃金法に基づき所定労働時間に対して定められた最低賃金額以上の給与を支払う必要がございますが、最低賃金の対象となる賃金は法で決められております。
※厚生労働省ホームページより抜粋
いくら高額な歩合給を支払っていても、それ以外の固定給の支払いがなければ、最低賃金を支払ったとはみなされない点において注意が必要です。
歩合給とは成果がなければ逆に支払われないこともある不安定な賃金につき、最低賃金の対象とはならないのです。
よって、雇用契約を結んだ労働者において、100%歩合給制というのは不可能であるということになりますね(業務委託契約であれば可能です)。
仮に成果がなく歩合給の支給額が0円であっても、所定の労働時間を勤務した場合は、最低賃金以上の基本給等を支払わなければならない、ということになります。
歩合給と残業代の関係
(1)以下は給与計算におけるNG例です。どこが間違いか探してみてください。
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所定労働時間160時間、残業時間10時間と仮定
①基本給:日給月給制:200,000円
※残業単価:1562.5円/時(月平均所定労働時間160時間、割増率25%の場合)
②残業代:15625円(残業時間10時間)
③歩合給:200,000円
総支給額・・・415,625円
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上記の計算においては、残業代を基本給のみで算出し支払っていますが、残業代は歩合給に対しても発生しますので、残業代の未払いが発生していることになります。
ただし、基本給に対する残業代の計算方法と、歩合給に対する残業代の計算方法は、異なる点に注意が必要です。
歩合給に対する残業代の計算方法は、以下の通りです。
『歩合給額÷その月の総労働時間(残業時間含む)×割増率』
通常の残業代計算と異なり、残業時間を含めた総労働時間で割って単価を出すことに注意が必要です(労働基準法施行規則第19条第1項第6号)。
上記計算を正しい形に直したものを以下に示します。
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所定労働時間160時間、残業時間10時間と仮定
①基本給:日給月給制:200,000円
※残業単価:1562.5円/時(月平均所定労働時間160時間、割増率25%の場合)
②残業代:15625円(残業時間10時間)
③歩合給:200,000円
④歩合給に対する残業代:2,942円(1円未満繰り上げ)
計算式:『200,000円÷170時間(所定160時間+残業10時間)×0.25×残業10時間』
総支給額・・・418,567円
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(2)ところで、上記の計算において一つ違和感はありませんか?ここで、上記計算において基本給に対する残業代と、歩合給に対する残業代を並べて比較してみましょう。
①基本給に対する残業代
200,000円÷160時間×1.25×残業時間
②歩合給に対する残業代
200,000円÷170時間×0.25×残業時間
どうでしょうか?割る時間数が違うのは前述の通りですが、割増率が異なっています。
このことについて以下紐解いていきます。
前述における基本給に対する残業代計算において使用する割増率1.25(125%)というのを紐解くと、時間単価(100%)と割増率(25%)という構成となっていることをまずご理解頂く必要があります。
いわば所定の労働時間を全て勤務して200,000円という固定給が支払われている形ですが、この所定の労働時間を超えて勤務した時間(残業時間)に対して支払うのが残業代ですね。
上記計算では1時間あたりの基礎賃金は1,250円(200,000円÷160時間)です。ここに割増率の25%を乗ずる形ですね。
※割増率は0%、25%、35%、50%など、状況によって異なりますが、ここでは解説を省略します。
一方で歩合給の残業代計算においては、×1.0(100%)の部分は、歩合給そのものにて、既に支払われているという考え方になるのです。
よって、割増率にあたる部分(25%)のみの支払いで足りるということになります(労働基準法関係通達・・・昭和23年11月25日基収第3052号)。
歩合給とみなし残業代について
一般的にみなし残業代(固定残業手当)を設ける場合、「〇〇時間分の残業代として○○円を支払う」という取り決めであることが多いと考えられますが、支給額と計算根拠である総労働時間が一定にならない歩合給の残業単価は毎月変わりますため、上記のようなみなし残業代の中にも含まれているという論理は当てはまりにくいものとなります。
歩合給に対する残業代を別途支給する等の対応が必要となります。
※みなし残業代(固定残業手当)は社会保険労務士に相談の上導入されることをおすすめ致します!
歩合給と社会保険料の関係
定時決定(算定基礎届)、随時改定(月額変更届)の届出においては、歩合給は報酬額に含めて届出をしなければなりません。
定時決定においては4月~6月において支給された報酬額の平均額で社会保険料の等級(標準報酬月額)が決まりますが、中には「4月~6月は繁忙期で、どうしても歩合給が膨れ上がってしまう…」という企業様もあるかと存じます。
その際は前年7月~6月の年間報酬の平均にて届出ることも可能です。
※参考(日本年金機構HP):
定時決定のため、4月~6月の報酬月額の届出を行う際、年間報酬の平均で算定するとき
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/todokesho/hoshu/20141002.html
なお、歩合給の金額の変動は固定的賃金の変動にあたらず、随時改定(月額変更届)の届出は不要ですが、歩合給の計算根拠を売上の3%と決めているような場合、3%→5%など計算根拠を変えた場合は随時改定(月額変更届)の届出が必要ですのでご注意ください。
歩合給制度における注意点やデメリット
(1)毎月コンスタントに成果が出せる職場環境や人材であれば良いのですが、そうでない場合は、収入が極めて不安定になりますから、長期定着させることが難しくなる可能性があります。
職種や能力等を見極めて固定給と歩合給のバランスを取ることが重要でしょう。
(2)売上の〇%等といったように歩合給の算出方法を一度約束した以上は、合理的な理由、システム無しには、原則本人の同意無しに変更することは出来ません。
諸経費なども加味して歩合給の計算方法を決定しましょう。不安定な部分は歩合給ではなく、賞与で加味して支給していく手もあります。
(3)個人の成果が支給額に結び付く以上、同じ企業で働く仲間、同僚であっても、ライバル企業と同じような関係になることがあります。
自身の成績が落ちることを恐れて、新人教育がなされない、社内にノウハウや情報の共有をしない、他の社員が困っていても意にも留めないといったように、職場の人間関係が悪化する可能性があります。
共通目標を掲げたり、売上以外の評価項目も設けたりといった工夫も必要です。ただしチーム評価を行う場合はパワハラが起こる可能性もありますので注意が必要です。
(4)成果を追い求めるあまり、オーバーワークになる可能性が高い傾向にあります。
適切な勤怠管理や、健康管理がなされず従業員の身に何かあった場合は、会社の安全配慮義務違反とされ損害賠償を求められる可能性もあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
歩合給制度は経営サイドから見て一見魅力的な制度に映ることも多いと考えられますが、導入に際しては気を付けるポイントがあることを本記事にて少しでもご理解頂けたなら幸いです。