社労士から見たIPO(株式上場)について

今年9月末時点で、日本全体の上場会社数は『約3,932社』となっており、その大部分は東京証券取引所(東証)に上場しています。

また昨年、新規で上場した会社数は『86社』、過去10年間(2014年~2023年)の平均上場会社数は『約88社(2021年の例外を除く)』となっており、上場企業は、日本全体の株式会社(約250万社以上)の『約0.2%』にとどまっている状況です。

株式会社の代表取締役の方だけでなく、事業主ならば一度ならずとも考えるこの『上場』、今回は上場(IPO)についてどのような流れで行われているのか、どのぐらいの時間がかかるものなのか、そして、社会保険労務士から見た上場するにおいて注意しなければならない事項について解説していこうと思います。

そもそも上場、IPOとは?

上場とIPOはどちらも『未上場企業が証券取引所に上場し不特定多数の投資家からの株式の売買を可能にすること』という点では同じですが、厳密には少し違いがあります。

上場とは、株式会社が保有・発行する株式が証券取引所での取引を認められることです。

新規の株式発行を伴う必要はありませんが、国内での新規上場の場合ほとんどのケースで新規の株式が発行されています。

一方でIPOとは、Initial Public Offeringの略語で、日本語では『新規公開株式』や『新規上場株式』と表します。

具体的には、株を投資家に売り出して、証券取引所に上場し、誰でも株取引ができるようにすることをIPOと言います。

つまりは上場=証券取引所が企業の株式の取引を認める状態。

IPO=未上場企業が初めて株式を証券取引所に公開するプロセス。

ということです。

ほとんど同じ意味ではありますが、本記事においても上記の意味合いによって上場とIPOを使い分けていきます。

IPOを行うメリット

次に会社にとってIOPを行う『メリット』ですが、おおよそ以下のようなものが挙げられます。

1,資金調達の拡大・多様化

株式市場にて広範な投資家から資金を調達できるようになります。
また、上場後も公募増資などで大規模な資金調達が可能になり、銀行借入以外の資金調達手段が増えます。

2,社会的信用・知名度の向上

上場企業は証券取引所の審査を通過しており、情報開示義務があるため、社会的な信用が格段に高まります。

これにより、取引先の拡大や金融機関からの借入の円滑化につながります。

3,優秀な人材の確保

知名度の向上や、上場企業という安定したイメージにより、優秀な人材の採用が容易になります。

また、従業員の士気向上にもつながります。

4,社内管理体制の強化

上場審査の過程で、監査法人による監査や内部統制の整備が求められるため、結果として経営管理やガバナンス体制が強化されます。

5,創業者利益の確保・事業承継対策

創業者や既存株主が市場で株式を売却し、キャピタルゲイン(売却益)を得ることができます。

また、事業承継や相続に関するリスク軽減にもつながります。

IPOを行うデメリット

反対に『デメリット』については下記のようなものがあります。

1,コストと時間の負担

上場審査や継続的な情報開示、監査など、準備期間から上場後まで多大なコストと時間がかかります。

2,情報開示の負担

財務報告や企業活動に関する情報を定期的に、かつ正確に開示する義務が生じます。

3,株主への対応

多数の株主の利益を優先する必要があり、株主総会や決算発表などでの説明責任が増します。

4,経営の柔軟性低下

ガバナンス強化により、意思決定に手続きが必要となり、かつての自由な経営が難しくなることがあります。

5,レピュテーション(評判・風評)リスクの増加

不祥事などがあった場合の影響が大きくなり、社会からの厳しい視線にさらされます。

IPOをするかどうかを検討する際には、上場が経営者の夢や目標、ビジョンを実現させるための重要な経営戦略であることを踏まえたうえで、そのメリット、デメリットを正しく理解し、検討することが大切です。

IPOの基本的な流れ

では実際にIPOを進めていくうえで、どのぐらいの期間が必要なのでしょうか?

準備開始時点にお行ける会社の規模や、業務の複雑性や内部管理体制の整備状況等によって各社で異なっていきますが、一般的に『3年程度』は必要となります。

IOP完了の目標時期(上場する目標時期)がある場合には、その年度の3年以上前には準備をスタートしたほうがいいです。

証券取引所に上場申請をする会計年度のことを『申請期』、その前の会計年度を『直前期』さらに前の会計年度を『直前々期』、といいます。

実際に上場準備を開始するのは直前々期のさらに前の年度であるので、申請期を『N期』として『N-3期』と言われていることが多いです。

次にIPOの意思決定から達成するまでの流れをご説明します。
1,~N-4期(前準備期間)
N-4期以上前に、会社としてIPOを行うことを意思決定します。
また、会計監査を受けるために監査法人又は複数の公認会計士(以下、監査法人等といいます)の選定を行います。IPOに向けた課題把握のため、監査法人等のコンサルティングを受けることが望ましいです。

2,N-3期(体制構築期間)
N-3期では、監査受入が可能となる人材確保など、会社規模に応じてIPOに必要な管理体制を構築することが求められます。
監査法人等による『IPO課題抽出調査(ショートレビュー)』を受け、IPO準備過程において検討すべき課題の洗い出しを実施します。
『IPO課題抽出調査(ショートレビュー)』で識別された課題は、優先順位をつけて順次改善を行い、監査法人等によるフォローアップ(改善状況の確認)を受けます。

3,N-2期:直前々期(整備/運用期間)
N-2期(直前々期)では、上場会社と同様な管理体制の整備、運用の段階に入っていることが求められます。
監査法人等との関係では、N-3期末からN-2期首にかけて『新規監査受託のための調査(予備調査)』を受けます。
この調査では、監査を受け入れるための体制が整備されていることやN-2期の期首残高を確認します。
その後、監査契約(準金商法監査)を締結し、N-2期に係る監査を受けます。
また、主幹事証券会社を選定し、証券取引所に提出する上場申請書類の作成を開始します。

4,N-1期:直前期(試運転期間)
N-1期(直前期)では、上場会社と同様な管理体制を『期首』から運用することが求められます。
上場申請書類及びその他申請書類のドラフトを作成したうえで、主幹事証券会社による審査が始まります。
また、監査法人等との関係では、N-2期に引き続き、監査契約(準金商法監査)を締結し、N-1期に係る監査を受けます。

5,N期:申請期(本格運用期間)
N期(申請期)では、N-1期の体制を継続して運用することが求められます。
上場申請書類及びその他申請書類を最終的に完成させ、証券取引所に上場申請を行います。
証券取引所による審査は通常2、3ヶ月の期間を要します。
証券取引所の審査を経て上場承認がおりると、晴れてIPO(株式上場)を達成することとなります。
IPO(株式上場)にあたって株式の公募・売出しを行う際は、有価証券届出書の作成が必要になります。
また、監査法人等との関係では、監査契約(準金商法監査、および金商法監査及び会社法監査)を締結し、N期に係る監査を受けます。

以上が大まかなIPOの流れとなります。
このように、3年以上前から準備を行っても正式に上場するまではものすごく時間と労力を費やすこととなりますので、それを考慮して動いていくことが重要となります。

終わりに

今回はIPOについての概要についてご紹介いたしましたがいかがでしたでしょうか?

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