うつ病などで休職する従業員の対応について

近年、メンタル不調による休職者は増加の一途を辿っています。

厚生労働所の令和5年労働安全衛生調査によると、メンタル不調により1か月以上休業した従業員または退職した従業員がいる事業所の割合は13.5%にのぼっており、2年前の超調査から実に『3%』以上も上昇しています。(令和3年調査では10.1%)

そして、現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安、悩みやストレスとなっていると感じる事柄があると回答した労働者の割合は実に82.7%(令和3年調査では53.3%)にまで上昇しており、今後も多くの場面においてメンタル不調による休職者が発生することが容易に予想されます。

メンタル不調による休職は往々にしてトラブルに発展することが多い事案です。

会社が対応を誤ると、休職と復職を何度も繰り返されたり、不当解雇であると訴えられたりして、会社に大きな損害が生じる可能性があるものです。

トラブルを未然に防ぐためにも、就業規則で休職制度をしっかり整備するなど、前準備を行い、いざ休職者が出た時には適切な手続きを行うことが非常に重要となります。

今回は、うつ病等メンタル不全で休職する従業員への適切な対応について詳しく解説していきます。

休職をさせる前に整えておくべきこと

休職の申し出をした誰もかれもが休職を取得できてしまうと会社は運営できなくなってしまいます。

そのためにもまずは、休職制度のルールを就業規則で明確に定めておく必要があります。

具体的には、以下のような項目を定める必要があります。

  1. 休職制度を設けること
  2. 休職する要件
  3. 休職制度の対象者の範囲
  4. 休職期間の上限
  5. 同様の傷病による休職について
  6. 医師の診断書を提出することの義務付け
  7. 状況を定期的に報告することの義務付け
  8. 休職中の賃金や社会保険料、税金の取り扱いについて
  9. 復職のルール
  10. 休職期間内に復職できない場合には『自然退職』となること

ただし、定めるだけでは効力は発生しません。

きちんと従業員へ『周知』を行い、従業員が10人以上在籍している事業場においては管轄の労働基準監督署へ労働者代表の意見書を添えて届け出をする必要があります。

 

なお『4,休職期間の上限』については、特段法律においての定めはなく、どのぐらいの期間を休職期間と定めるかは完全に会社側の裁量で決定することができます。

休職期間の上限は会社によって異なりますが、「6ヶ月~1年」とする企業が多く、大企業になればなるほど休職期間は長くなる傾向にあります。

また、勤続年数によって取得できる休職期間の上限を分けることも大切なことです。

昨日、入社した従業員と20年勤続している従業員の休職期間が同じというのも、不公平でありますので、そこまで細かく分ける必要もありませんが2~4つぐらいは分けるべきものと思います。

 

そして『10,休職期間内に復職できない場合には『自然退職』となること』については、必ず定めなければならない非常に重要な項目です。

この条文がなければ、たとえ休職期間が満了となっても、自動的に退職とはならず、解雇の問題へ発展していくこととなります。

以上の事項を就業規則にてきちんと定めることで初めて、休職をさせることが可能となります。皆様の会社の就業規則には上記の項目がきちんと網羅されていますでしょうか?

今一度、ご確認していただければと思います。

休職の際の対応

うつ病等を理由として従業員から休職の申し出があったときは、上記で紹介した『2,休職する要件』に照らして、休職を命ずべき場合であるか否かを確認する必要があります。

そのためには、まず従業員から『主治医の診断書』を提出してもらわなければなりません。

診断書を貰う理由としては、うつ病などの精神疾患は見た目だけで就業不可能であるかどうかの判断が難しいからです。

この場合の医師の診断書は『うつ病』や『うつ状態』といった病名、症状名が記載されているだけでなく、具体的に、『今後、1か月間の自宅療養を要する。』など、一定期間、休業の必要性が続くことが記載されたものであることが重要です。

 

そして要件に照らして、従業員を休職させるべきと考えた場合は、すみやかに休職を命じることが大切です。

仮に休職すべき状態であるにもかかわらず、休職命令が遅れうつ病等が悪化した場合、そのことについて会社側が責任(安全配慮義務違反)を追及される危険があります。

 

また、従業員と休職前の擦り合わせも必要です。後々に認識の食い違いにより揉めることを防ぐためにも従業員に「休職期間」「手当や給与」「社会保険料」「給付金」「休職中の連絡手段」などに関して説明、確認していくことが大切です。

なお、連絡のやり取りに関しては、休職する従業員の負担にならないようにメールか書面で行うほうがスムーズとなります。

 

そして休職は会社が休職を命じることによって開始となります。

従業員が休み始めれば自動的に休職が始まるのではなく、あくまでも会社が『休職命令』を出して初めて休職期間がスタートとなりますのでこの流れについてはくれぐれもご注意してください。

休職を命じたことを明確にするために、就業規則のどの条文を根拠に、いつから休職を命じるのかを記載した『休職命令の文書』を従業員に通知することが適切です。

なお、休職を命じることが明確になっていればメールなどで通知しても問題はありません。

 

加えて、休業する従業員が担当している業務の引き継ぎも大切なことです。

人事担当や上司が勝手に業務を割り振ると、トラブルになる可能性がありますので業務を割り振る際は、しっかりと担当する従業員へも情報を共有することが重要です。

休職中の対応について

休職期間中は、会社が解雇を猶予し、事業主負担分の社会保険料等を負担して雇用を維持している状態ですので、休職者に対し当然に、他社での就業等を禁じ、療養に専念することを義務付けるべきです。

ただし、会社としては休職者の私生活に過度に目くじらを立てるべきではありません。

過去の判例では、うつ病や不安障害で私傷病休職中の従業員が、オートバイで頻繁に外出したり、宿泊を伴う旅行をしたりしていた事案について、「うつ病や不安障害といった病気の性質上、健常人と同様の日常生活を送ることは不可能ではないばかりか、これが療養に資することもあると考えられていることは広く知られている」として、これらの行動を療養専念義務違反として問題視するべきではないとしています。(東京地方裁判所判決 平成20年3月10日『マガジンハウス事件』)

よって、過度に私生活には入り込まず、適度な距離感を持って事前に決定した連絡方法にて定期的なやり取りを行うだけに留めることが大切です。

 

なお、定期連絡の頻度についてはおおよそ『1ヵ月に1~2回』程度がよろしいかと思います。

適切な定期連絡を入れることで休職している従業員は「会社に支援されている」と、安心感を持ち、病気の早期回復のモチベーション向上にも繋がります。

復職の判断基準

休職者が復職を考える段階になった場合、会社からも必要に応じて、復職に向けたリワークプログラムを案内する等、スムーズな復職に向けた支援を行うことが望ましいでしょう。

リワークプログラムは、うつ病等の精神疾患による休職者に対し、職場復帰に向けた支援を行うプログラムです。

クリニック等において実施されるもの、地域障害者職業センターが実施するものなどがあります。

そのうえで従業員が復職の申し出をした場合は、主治医や産業医との面談を行って復職の可否を判断していきます。

休職時と同様で『診断書』を参考にしながら判断します。診断書に復職可能と記載があるかどうか、試し出勤の結果やリワークプログラムでの状況、就業の意欲等を踏まえながら、復職の可否、方法を判断していきます。

休職期間満了時について

就業規則上認められる休職期間が満了しても、復職できない場合は、解雇または退職扱い(自然退職)とする旨が就業規則で定められていることが通常です。

 

就業規則で「解雇」と定められている場合は、労働基準法20条1項により解雇を30日以上前に予告したうえで、解雇通知書を従業員に交付又は送付することが必要です。

一方、就業規則で「自然退職」になる旨が定められている場合は、そのような手続は不要ですが、従業員に退職の効力が生じたことを「休職期間満了通知書」などの書面で休職者に通知することが通常です。

なお、『解雇』とすると普通解雇となり助成金等にも影響が出てしまいますので、無理に解雇とはせずにこの場合は『自然退職』とすることをお勧めいたします。

 

そして休職においては、自然退職あるいは解雇について従業員が不当解雇であると主張し、訴訟に発展するケースが最も多くなっています。

裁判において不当解雇とみなされないためには、今までご説明してきた、就業規則をしっかりと整備した状態で、法的手続きを遵守し、復帰の可能性を踏まえ主治医や産業医の意見を聴取し十分検討したうえで判断すること、また、これらを客観的に証明できる証拠を残しておくことが非常に重要となります。

 

なお、まだ休業規則に定められた休職期間を使い切っていないのに、うつ病等の従業員を復職できなかったとして解雇や、自動退職とすることは、不当解雇になる可能性が高くなりますので要注意です。

また、休職期間満了後の対応について、従業員と十分なコミュニケーションを図ることも重要です。本人の不安や疑問に丁寧に答え、納得のいく形で手続きを進めれば、信頼関係を維持し、トラブルを防ぐことに繋がります。

休職期間満了時は会社と対象の従業員との雇用契約が終了となる重要な場面となります。

揉めることを前提としてしっかりと手順を踏み、事実を残して進めていくことが大切となりますので十分ご注意ください。

うつ病等を繰り返す人への対応

厚生労働省の調査によると、うつ病経験者の約60%が再発をしているとのことで、当然にうつ病等による休職を繰り返す従業員も多く、この対応に悩む企業も少なくありません。

2回目以降の休職については制限を設け、休職が際限なく繰り返されることにより、業務に支障が生じないようにすることも必要になるでしょう。

休職が何度も繰り返されることによる支障への対応として、以下のような制度設計が考えられます。いずれも就業規則で規定を設け、制度化しておく必要があります。

  1. 同一または類似の傷病での休職期間は再休職までの期間を問わず通算し、前回休職分を控除した残りの期間についてのみ休職を認める制度設計
  2. 例えば1年以内に休職を繰り返す場合の再度の休職期間は前回休職分を控除した残りの期間とする制度設計
  3. 例えば3か月以内に同一または類似の傷病での再休職が必要になった場合は、復職を取り消して、前回の休職の続きとして扱う制度設計

なお、これらを新たに就業規則にて定める場合は就業規則の不利益変更となりますので、変更については内容の合理性や手続きの相当性が問われることとなりますのでご注意ください。

うつ病など精神疾患を抱えた従業員がいる場合に避けるべき行動と、従業員がうつ病になるのを未然に防ぐための取り組み

うつ病の従業員がいる場合、会社が避けるべき行動はいくつかあります。

まず、主治医から休業が必要と診断されているにもかかわらず、無理に働かせることは避けましょう。

前述したとおり、従業員のうつ病が悪化した場合、会社の『安全配慮義務違反』として法的責任を問われる可能性があります。

さらに過重労働がうつ病等の発症原因であれば、労働基準監督署からの指導や是正勧告、刑事告発のリスクも伴います。

 

次に、うつ病等による作業効率の低下や遅刻、欠勤を理由に解雇や退職勧奨を行うことも避けるべきです。

法的紛争や企業イメージの低下を招く可能性があります。

こういった場合においても速やかに従業員の病状を把握し休職を命令することが大切です。

そして従業員がうつ病等になる前に、それらを防ぐための取り組みを積極的に行うことが大切です。

職場環境の改善や従業員のメンタルヘルスケアを重視し、早期対応を心がけることで、従業員の健康を守ることが可能となり、具体的な方法として次のようなものが挙げられます。

1,定期的なストレスチェックの実施

企業内で定期的にストレスチェックを実施し、従業員のメンタル状態を把握します。

実施後は結果に基づいて、必要な対策を講じることが求められ、例えば、ストレスの高い従業員には、カウンセリングや休養の機会を提供し、早期に対応することが大切です。

2,健康的な職場環境の整備

従業員が健康的に働ける環境を整えることも、うつ病等を未然に防ぐための効果的な方法です。職場環境の改善には、適切な業務負荷の調整や職場の人間関係の見直しも含まれます。

また、リラックスできるスペースを設けたり、従業員が気軽に相談できる窓口を設置することで、メンタルヘルスの不調を防ぐ環境作りが可能となります。定期的なアンケート調査を通じて、従業員の意見を反映させることも効果的です。

3,従業員の健康意識を高める教育と研修

従業員の健康意識を高めるための教育や研修を定期的に実施することも効果的です。

健康経営の一環として、食事や睡眠、運動の重要性を理解させるプログラムを導入する企業も増えています。

これにより、従業員の生活習慣が改善され、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐことが期待できます。

これらについては従業員のメンタルヘルスを守るための予防としてだけではなく、企業全体の生産性向上にも繋がりますので、ぜひご活用していただければと思います。

終わりに

今回は『うつ病などのメンタル不全で休職する従業員への適切な対応』をテーマとしてご説明してきましたがいかがでしたでしょうか?

現代の社会人は何かしらでストレスを感じており、うつ病を発症する可能性がほぼ全員にあるといっても過言ではないでしょう。

そして休職するケースも容易にあり、企業としては対応が求められ、事前にきちんと制度を整え、それに沿って進めていくことが非常に重要となります。

1つ間違えると不当解雇として賠償請求されることもあるものですので、ご不明な点等ありましたらまずは専門家の社会保険労務士法人ベスト・パートナーズへご相談いただけますと幸いです。

※弊所では、労働トラブル等について、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。

利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。

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