近年、企業や従業員を苦しめる「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」が社会問題化しています。
顧客からの理不尽な要求や暴言は、従業員の精神的健康や職場環境に深刻な影響を与え、企業経営や社会的評価にも多大なデメリットをもたらします。
2022年の厚生労働省調査では、約30%の企業が顧客からのハラスメントを経験しており、特に中小企業では対応が困難なケースも増加しています。
中でもサービス業におけるクレーム対応のうち約15%がハラスメントに該当するという結果を中小企業庁が発表しています。
2025年4月1日から東京都で施行される「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を背景に、今後、他の都道府県でも同様の条例が制定される可能性が高まっています。
本記事では、カスハラの定義や法律的観点、統計データ、条例の詳細、さらに企業が取るべき具体的な対策について詳しく解説します。
目次
カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客が企業やその従業員に対して、業務の範囲を超える過剰な要求や迷惑行為を行うことを指します。
厚生労働省の「あかるい職場応援団」では、以下のような行為がカスハラに該当するとされています。
カスハラの主な具体例
- 暴言や脅迫:顧客が従業員に対して侮辱的な言葉を浴びせたり、威圧的な態度を取る
- 過剰な補償要求:商品やサービスに対し、不合理な金銭や補償を求める
- 執拗なクレーム:長時間にわたり無理な対応を求め、業務を妨害する行為
- 身体的暴力:従業員に対する暴力や物の投げつけなど、身体に危害を加える行為
こうした行為は、従業員の精神的・身体的負担を増大させるだけでなく、企業全体の業務効率や士気にも悪影響を及ぼします。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の概要
東京都は2025年4月1日から「カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行します。
この条例は、従業員を不当なハラスメントから守るため、企業や事業者に防止策の実施を義務付ける内容です。
ただし、現行の条例には罰則規定は含まれていません。
条例の主なポイント
①カスハラ行為の禁止
顧客が従業員や事業者に対し、威圧的または迷惑行為を行うことを禁止しています
② 事業者の責務
カスハラ防止のために以下の措置を講じる必要があります。
- カスハラ防止の方針を策定する
- 従業員に対する教育や研修を実施する
- 被害発生時の相談窓口を設置し、迅速に対応する
③都の支援
東京都は、事業者向けに情報提供や相談対応、啓発活動などの支援を行います。
罰則がない理由
条例は現時点で罰則規定を設けていませんが、これは企業に対し柔軟に取り組みを促すためとされています。
一方で、社会的責任が問われることから、対応を怠った場合には企業のイメージや信用に悪影響が及ぶ可能性があります。
今後、全国での展開が期待されるカスハラ防止条例
東京都での「カスタマー・ハラスメント防止条例」施行を契機に、他の都道府県でも同様の条例が制定される可能性が高いと考えられます。
カスハラは全国的な問題であり、地域を問わず企業や従業員が被害を受けています。
全国的な条例制定が期待される背景
- ①社会的な関心の高まり
カスハラが従業員のメンタルヘルスや離職問題の原因となっていることが広く認識され始めています。
- ②厚生労働省の取り組み
厚生労働省がカスハラ防止のガイドラインや啓発活動を進めており、各自治体でも取り組みが促進されています。
- ③東京都のリーダーシップ
東京都の条例施行がモデルケースとなり、他の自治体でも参考にする動きが見込まれます。
企業は、今後の動向を注視し、どの地域で事業を行っていてもカスハラ対策を講じる準備を整えることが求められます。
カスハラが企業にもたらすデメリット
(1) 離職率の上昇
カスハラによる精神的負担が原因で従業員の離職が増加し、人材不足が深刻化する恐れがあります。
離職者が増えることで、新規採用や教育にかかるコストや時間が増大し、教育する立場の従業員までも疲弊してしまう可能性が高まります。
(2) 職場環境の悪化
カスハラへの恐怖やストレスが職場全体に影響を与え、モチベーションや士気が低下します。
結果として、職場の生産性やサービスの質が低下する可能性があります。
カスハラを受けた従業員の48%が精神的な不調を訴えたというデータもあり、不安障害やうつ病の原因となり、最悪の場合休職や退職に追い込まれることもあります。
(3) 企業イメージの毀損
SNSなどで「カスハラへの対応が不十分」との批判を受けた場合、企業の評判が損なわれるリスクがあります。
また、社会的責任を果たしていないと見なされることで信用を失う可能性があります。
一度失った顧客の信頼を回復するには、多大な時間とコストがかかります。
(4) 業務効率の低下
長時間のクレーム対応や特別な補償対応にリソースが割かれることで、他の顧客対応が疎かになり、業務全体の効率が低下します。
その結果顧客満足度が低下し、顧客離れにつながる恐れがあります。
(5) 法的リスク
企業が適切な対応を怠った場合、従業員が「安全配慮義務違反」として訴訟を起こす可能性があります。
また、悪質なカスハラ行為を放置することで二次被害が発生するリスクもあります。
企業が取るべき具体的な対策
(1) 社内ルールの策定と明文化
- カスハラ防止方針の策定:カスハラを許さない姿勢を明確にし、従業員と顧客に共有
- 対応ガイドラインの作成:従業員が困難な場面で判断に迷わないよう、具体的な手順を示す
(2) 従業員への教育・研修
- ロールプレイング研修:シミュレーション形式で対応スキルを高める
- 心理的ケアの講座:従業員が精神的負担を軽減できるよう、専門家によるサポートを実施
(3) 相談窓口とフォロー体制の整備
- 専用窓口や心理カウンセラーを設置し、従業員が問題を報告できる環境を整える
- エスカレーションフロー(上司や専門部署への相談手順)を整備し、問題発生時は迅速にフォローアップして二次被害を防止する
(4) 法的措置の活用
- 必要に応じて、警察や弁護士と連携し、悪質な顧客には毅然と対応する
- 出入り禁止措置や損害賠償請求を検討する
(5) 顧客への周知
- 店舗やウェブサイトに「カスハラ禁止」を明記し、未然に防止する
- 利用規約や行動規範を提示し、適切な利用を顧客に呼びかける
まとめ
カスタマーハラスメントは、従業員だけでなく企業全体に深刻な影響を及ぼします。
東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の施行を契機に、他の都道府県でも同様の取り組みが広がることが予想されます。
企業はこの動向を注視し、全国どの地域でも対応できる体制を整える必要があります。
また、従業員が安心して働ける環境を整えることが、顧客満足度を向上させ長期的なビジネスの成功につながると言えるでしょう。
ベスト・パートナーズでは、企業向けに包括的なサポートを提供しています。
問題に直面されている企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
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