会社が労働者に時間外労働をさせる場合に必要な「36協定」関連の書類には、「協定書」と「協定届」の2種類があります。
「書」と「届」で名前が似ていますが、「36協定書」と「36協定届」は異なるものです。
今回は「36協定書」と「36協定届」についてと、違反した場合にどうなるのかを解説します。
36協定について
「36協定書」は、労使が時間外労働・休日労働に関する事項について協議し、合意に至った内容が記載されます。
法定のフォーマットがあるわけではないので自由に記載することができます。
ただ、労使の合意書になるため、労使がそれぞれ署名ないしは記名押印をして、当該事業場に保存する必要があります。
一方の「36協定届」はこうして作成した「36協定書」の内容を会社が管轄の労基署に届け出るための書式です。
記載事項に漏れがあると無効になってしまうため、実務上は厚生労働省のホームページでダウンロードした様式を使用するのが望ましいかと思います。
【協定書】
会社(使用者)と労働者の過半数を代表する者との間で締結する書式
【協定届】
協定書の内容を労働基準監督署へ届け出する書式
本来は別々のものなので、協定書と協定届をそれぞれ作成する必要があります。
「36協定書」と「36協定届」を兼ねる場合には、合意がなされたことが明らかになるようにしなければいけないため、労使双方の署名または記名押印が必要となります。
厚生労働省が作成している36協定届の様式には、使用者と労働者代表の(印)の記載がありません。協定書を兼ねる場合は労働者代表の署名ないしは記名押印の漏れがないように注意しましょう。
36協定の届出
36協定は原則として、事業場ごとに作成しなければなりません。
(本社、支店、工場など)
したがって、各事業場の所在地を管轄する労働基準監督署へ届け出ることになります。
一定の条件を満たせば本社で一括して届け出ることも可能です。
一括での届出を可能とする要件は「本社と全部または一部の本社以外の事業場にかかる協定の内容が同じであること」です。
「事業の種類」「事業の名称」「事業の所在地」「労働者数」以外の事項が全て同一でなければなりません。
なお、「一括届出」はあくまでも「届出」を一括で行うだけで、締結自体は事業場ごとに行う必要があります。
届出の時期
労働基準法はそもそも法定労働時間を超える労働を禁止しており、36協定はその法定労働時間を超える残業や法定休日労働を例外的に認める、という性質があります。
例外的に認めてもらうためには労働基準監督署へ届け出ることが必須となります。
したがって、36協定を締結して適法な状態で残業を従業員に行わせるためには、有効期間の開始前に届け出を完了させなければなりません。
有効期間を過ぎると、その36協定は無効になります。毎年同じ時期に届け出が必要になりますので忘れないようにしましょう。
届出の方法
事業場を管轄する労働基準監督署へ持参して届け出るのが一般的です。
届け出用の原本と写しを用意して、原本は労働基準監督署に提出します。
写しに労働基準監督署の受理印を押してもらえるので、それを控えとして持ち帰ります。
郵送で提出することも可能ですが、その際は切手を貼った返信用封用を同封すれば返送対応してもらえます。
なお、届出内容に不備があった場合は受理されずに返戻されてしまいますので、提出は余裕をもっておこないましょう。
届出の保存
36協定は届け出るだけでなく、労働者に周知しなければなりません。
書類の保存方法は特段、法で定めはありませんが、紛失などがないようにファイリングして適切な場所に保管しましょう。
周知するのは労働基準監督署の受理印のある原本ではなく、コピーを閲覧用に準備するのが良いと思います。
労働者に周知する方法として、下記のいずれかの方法が推奨されています。
- 常時各事業場の見やすい場所へ掲示するか備え付けておく
- 書面で労働者に交付する
- 磁気テープや磁気ディスクなどの電子媒体に記録し、労働者がその内容を確認できる
- 機器を常時配備する。
周知されていない36協定は無効になります。
周知義務に違反すると労働基準法第120条に基づき30万円以下の罰金が科されることもあるため、周知を徹底するようにする必要があります。
36協定に違反した場合の具体例
36協定に違反した場合の具体例は次のようなものがあります。
- 36協定届を作成しないまま、労働者に残業や休日出勤をさせた。
- 36協定届を作成はしたものの、届出を失念していた。
- 36協定で定めた延長の限度時間を超えた時間や日数を、残業・休日出勤させた。
前述の行為はすべて労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられる場合があります。
こんな場合どうする?
1)36協定の限度時間を超えそうな場合
36協定の限度時間は厳守です。計画的に仕事をしようと思っていても、メンバーに欠員が出てフォローしないといけない、取引先から急に仕様変更の連絡が来る、など想定外の事態が起こりうるでしょう。
しかし、どのような理由があろうとも限度時間は守らねばなりません。
使用者は労働者の労働時間を適正に把握する義務があるので、勝手に労働者が残業していたという使用者の主張は通りません。
2)限度時間を超えてしまった場合
限度時間が守れずオーバーしてしまったときはどうなるでしょうか?
当然に労働基準法違反となりますので、労働基準監督署の調査が入った場合、是正勧告を受けることになっても申し開きできません。
緊急事態で、とか、繁忙期だったんです、などは理由として認められません。
二度と同じ事態に陥ることのないように対策を講ずるべきです。
なお、災害時に仕方なく時間外労働や休日労働を命ずるのは36協定がなくても可能です。
時間外労働と休日労働の合計が1か月100時間未満でなければならず、かつ2か月~6か月の平均が80時間以内とする規定は適用されると考えられますので、残業を無制限にさせられるわけではありません。
まとめ
36協定は、従業員1人が1分でも残業をする場合は作成や届出が必要になります。
残業発生のメカニズムは様々な要因があると思います。
残業の抑制を労働者まかせにしていると、後になって当該労働者から残業代請求を受けたり、長時間労働による健康被害を訴えられるような場合は、会社が責任を負うことになる可能性もあります。
「早く帰るように」と口頭注意をしていても、それ以上対策を取らなければ「業務過多で残業をしなければ仕方なかった」という労働者の言い分が認められてしまいます。
きちんと労働時間の管理をおこない、残業は上司から部下に命じておこなうものであることを周知徹底し、その形式に則った資料を残すことが肝要です。