副業・兼業は拒否できる?

近ごろでは副業や兼業を希望する従業員が増えつつあると言われています。従業員が副業・兼業を希望する理由としては、収入を増やしたい・スキルアップを図りたいなどさまざまです。

副業・兼業を希望する従業員は今後も増加していき、副業・兼業を推進する風潮も増していくだろうと予測されます。

しかしながら、会社としては副業や兼業をされると「業務がおろそかになるのでは?」「労働時間の計算方法はどうなる?」「社会保険の加入はどうなる?」など、気になる点がたくさん出てくるかと思います。

会社として、副業・兼業を希望する従業員にどのような対応をすればよいのか、そもそも副業や兼業は拒否できるのか、今回は確認していきましょう。

 

1 副業・兼業とは

副業・兼業とは二つ以上の仕事を掛け持ちで行うことをいいます。本業と同様に企業に雇用されるもの(パート・アルバイトなど)、起業や請負など個人事業主として行うものなどがあります。兼業の場合は一般的にはダブルワークなどと呼ばれています。

厚生労働省は、労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由であるため、業務時間外に副業・兼業を行うことは原則許される(憲法22条1項:職業選択の自由)ことから、副業・兼業を認めることを推進しています。

ただしこれは、副業・兼業を必ず認めなければならないと定められているわけではありません。

厚生労働省の出している『副業・兼業の促進に関するガイドライン』によれば「原則、副業・兼業を認める方向で検討することが適当」とはされているものの、会社としては本業をおろそかにされてしまうようでは困ります。

また、労働者にとっては副業・兼業をすることで所得の増加やキャリアアップへの経験を積めるなどのメリットもある一方、労働時間が長時間になるなどデメリットもあります。

 

2 副業・兼業は拒否できる?

会社は副業・兼業を一定の理由付けのもと拒否することが可能です。拒否するためには就業規則上でルールを定めること、またどのような理由により拒否するかを明らかにすることが必要です。

副業・兼業禁止の理由の一般的な例としては次の通りです。

  • 競業避止義務
  • 秘密保持義務
  • 安全配慮義務
  • 職務専念義務

上の二つについては退職時の誓約書などの項目として記載している会社も多いのではないでしょうか。

競業避止義務とは競合他社で雇用される・業務をすることを禁止するもの、秘密保持義務とは業務上知りえた秘密を守るものです。

これらは競合他社での副業や兼業により、会社の独自の技術や営業ルートなどの機密情報の流出を防ぐことが目的です。

安全配慮義務は、労働者の長時間勤務等が原因で体調を崩すことが無いよう、労働時間や業務量を管理しなければならないという会社に課せられた義務です。

副業・兼業のため労働時間が長時間になるなどの理由で体調を崩すようなことがないよう、会社は配慮しなければなりません。もう一つは職務専念義務です。

これは、勤務時間中は職務に専念するという至極当然の義務ですが、たとえば副業や兼業で夜遅くまで作業をし、本業の業務中にうとうと、本業の業務時間内に副業の作業を行う・・・などといったことがあれば職務に専念しているとはいえません。

これらの他にも、会社の社会的信用や名誉を侵害するような副業・兼業、たとえば犯罪に関わるような業務については禁止することができます。

副業・兼業を全面禁止することはできませんが、就業規則を整備することで、副業・兼業を制限することは可能です。

 

3 副業・兼業に関する会社側の対応

会社としては、副業・兼業を一律禁止とはできませんが、就業規則において許可制とし、会社に事前申請をしてきた場合に一定の条件をクリアしていれば認めるとする対応が現実的です。

許可しない場合の制限として、『副業・兼業の促進に関するガイドライン』に労働者の副業・兼業を制限することができる場合として挙げられている

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 業務上の秘密が漏洩する場合
  3. 競業により自社の利益が害される場合
  4. 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

の4つを列記しておけばよいでしょう。

競合他社での副業・兼業や副業・兼業により長時間労働となるような場合は以上の内容により従業員の申請を拒否することができます。

副業・兼業を希望する従業員が許可申請を出してきた際には副業・兼業先での業務内容・労働時間などの労働契約内容などをしっかりと確認しておくことが重要です。

 

4 副業・兼業を認める場合の注意事項

副業・兼業を認める場合、特に気を付けなければならないのは労働時間の通算です。

労働時間は異なる事業場での労働も通算されます(労基法38条1項)ので、本業と副業・兼業がいずれも企業に雇用されるものである場合は、二つの会社での労働時間の通算が必要です。

たとえば本業でフルタイム8時間の勤務であれば、終業後副業・兼業先で1時間労働したとしても副業・兼業先での労働は1日の法定労働時間(8時間)を超えますので25%の割増賃金が必要となります。

いくつか例を見てみましょう。(注:本業が先に労働契約を締結したものとする)

例①→本業:8時間 副業・兼業:1時間(1時間すべて25%割増)

例②→本業:7時間 副業・兼業:2時間(内1時間は25%割増)

例③→本業:6時間 副業・兼業:2時間(割増なし)

例④→本業:5時間 副業・兼業:2時間(割増なし)

 

また、このような場合でそれぞれの事業場で残業があるとどうなるでしょうか。先ほどの例で考えてみましょう。(注:本業が先に労働契約を締結したものとする)

例⑤→本業:8時間+残業1時間(残業は25%割増)

副業・兼業:1時間(1時間すべて25%割増)

例⑥→本業:7時間+残業1時間(残業は25%割増)

副業・兼業:2時間(内1時間は25%割増)

例⑦→本業:6時間+残業1時間(残業は25%割増)

副業・兼業:2時間(割増なし)

例⑧→本業:5時間+残業1時間(割増なし)

副業・兼業:2時間(割増なし)+残業1時間(残業は25%割増)

例⑦のように、本業の所定労働時間と副業・兼業の所定労働時間を足して法定労働時間の8時間以上となるの場合、本業だけであれば残業を含めて8時間未満であったとしても、残業時間分には25%の割増賃金が必要となります。

そのため、会社は本業と副業・兼業を足した労働時間数を把握しなければなりません。

副業・兼業先での労働契約で所定労働時間を把握し、かつ、残業の有無を都度確認しなければ、正確な労働時間を把握できませんので注意が必要です。

ちなみに、36協定は通算しませんので、36協定に記載した上限時間については自社の分のみで計算しておけば問題ありません。

 

一方、60時間超の法定外労働時間で割増賃金を50%で計算することについては2社以上で通算となります。

本業での法定外労働が数時間程度であったとしても、副業・兼業先での法定外労働時間を通算して60時間超となれば50%割増で計算しなくてはなりません。

先ほどの例5のように、本業で8時間フルタイムのような場合、副業先での労働時間はすべて法定外労働時間となりますから、注意が必要です。

 

5 おわりに

社会保険労務士法人ベスト・パートナーズでは兼業・副業に関するご相談ももちろんご対応可能です!

兼業・副業を希望する従業員についてはのご対応に迷ったとき、規程にどのように記載すればいいかわからないときなど、ぜひ一度お問い合わせください。

労務を全力でサポートします!

「労務相談や規則の作成についてどこのだれに相談すればよいのかわからない」
「実績のある事務所にお願いしたい 」
「会社の立場になって親身に相談にのってほしい」
といったお悩みのある方は、まずは一度ご相談ください。

実績2000件以上、企業の立場に立って懇切丁寧にご相談をお受けします!