労働基準監督署が企業に対する是正勧告が必要と判断したら、臨検監督の際に口頭で指導改善を要求したり、是正勧告書や指導票などの書面を交付したりします。
是正勧告書は、法令違反があるときに交付される書面であり、具体的な違反内容と是正の期日などが記載されています。
指導票は、法令違反ではないが改善が必要と判断されたときに交付されます。
是正勧告書と指導票の両方が同時に交付されるケースもあります。
是正勧告書が交付された場合、企業は指摘された内容を改善した上で、是正や改善に関する報告書を提出しなければなりません。
労働基準監督署の調査
労働基準監督署の調査は、次の3種類にわかれます。
- 定期監督
- 災害時監督
- 申告監督
調査の際に違反を指摘されないためにはどのような点に注意が必要なのか、ご説明していきたいと思います。
賃金台帳等の整備
まずは、賃金台帳等の帳票を整備する必要があります。
労働基準監督署が事業所を調査する場合にどんな種類の調査でも、まずは賃金台帳・出勤簿(タイムカード)・労働者名簿の帳票を調査します。
出勤簿には出勤・退社の時間が確実に記入されていて、それぞれの日の労働時間及び時間外労働時間、深夜労働時間等がきちんと管理されている必要があります。
労働時間を管理するのは事業主の義務ですので、「従業員がきちんとタイムカードを押してくれないから抜けがある」という言い訳はできません。
さらに、賃金台帳には賃金の内訳等を記入するのはもちろんですが、賃金台帳でよく指摘されるのが、勤務日数、総労働時間、時間外労働時間等の未記入です。
賃金台帳には給料の明細だけでなく、勤怠状況の記載も必須です。
最低賃金と割増賃金
賃金についての規定はいくつもありますが、よく指摘されるのは最低賃金と割増賃金についてです。
賃金は労働者にとって最も重要な労働条件なので、労働基準監督署の調査でも特に厳密に調べられます。
まず最低賃金は、都道府県ごとと産業別に最低賃金が定められているため、従業員に支給している給与が最低賃金を上回っている必要があります。
次に割増賃金についてですが、この割増賃金が、労働基準監督署の調査の中で最も重要と言えます。労働者からの訴えで最も多いのが賃金の不払いだからです。
特に時間外割増賃金(残業代)の不払いも数多く申告されていることは容易に想像できます。
割増賃金を法律に則って正しく支給するには、まず、正しい計算方法を理解することが肝要です。
小数点以下の端数の処理などにも注意を払いましょう。
36協定の届出
法定労働時間を超えて労働させる場合には、時間外労働及び休日労働に関する協定届(通称、36協定)を、労働基準監督署に提出する必要があります。
労働基準法では、法定労働時間が定められていて、1日8時間、1週40時間を超えて労働させることはできません。
この36協定を労働基準監督署に提出して初めて、労働者に残業を命じることができるのです。
労働者に残業をさせるということは、事業主の当然の権利ではありません。
36協定も提出していない=労務管理への意識が希薄な会社、という印象を労働基準監督官に与えてしまうとマイナスの影響は大きく、さらに厳しく調査されることは想像に難くありません。
また、36協定は1度提出して終わり、ではなく毎年の届出が必要です。必ず忘れずに提出しましょう。
就業規則
常時雇用する労働者数が10人以上の事業場には、就業規則の作成義務が定められています。
そのため就業規則が無い、従業員数が10人以上の事業場に労働基準監督署の調査が入ると、就業規則の作成が指導されます。
従業員数が10人以上になった場合には、なるべく早く就業規則の作成を検討されるのが良いでしょう。
衛生管理者・産業医・作業主任者等の選任
労働安全衛生法により、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者と産業医を選任する必要があります。
労働災害を防止するための管理を必要とする一定の作業については、その作業の区分に応じて作業主任者の選任が義務付けられています。
作業主任者には、必要な免許取得や技能講習を受講させるとともに、事業場内に氏名等を掲示する必要があります。
労働基準監督署の調査では、このような衛生管理者、作業主任者等の選任状況等も必ず調査されます。
少しずつ従業員が増えていつの間にか50人以上になっていた、ということがないように普段から従業員数を定期的に把握するようにしましょう。
健康診断の実施
労働安全衛生法により、常時使用する労働者を雇用する時、及び常時雇用する労働者に対して、1年以内ごとに1回の健康診断の実施が事業主に義務づけられています。
従業員が元気に働いてくれていると健康診断に意識が向かないかもしれません。
けれども、労働基準監督署の調査では必ず健康診断を実施しているか否かは確認されます。
1年に1度、10月に実施!など会社の行事として組み込んでしまいましょう。
まとめ
これまでご説明した点のほかにも、年次有給休暇などについても調査されることがあります。
労働基準監督署の是正勧告は、直ちにその場で罰金を科されたりはしません。
けれども、是正勧告を無視するようなことをして、悪質だと判断されれば検察庁に送検される可能性もあり、社名が公表されることもあります。
是正勧告で指定された期日までに法令違反の内容を確認して、必ず是正報告を提出しましょう。
指定された期日までに是正が難しい場合は労働基準監督署に相談して、誠意をもって対応することが結局は会社を守ることになるのです。