使用者が、不況や経営不振などにより経営上必要とし、人員を削減せざるを得ない場合に行う解雇を「整理解雇」といいます。
解雇は、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と、労働契約法16条にて定められています。
整理解雇については、労働者側の責任に帰すべき事由(能力不足や勤怠悪化、非違行為など)によるものではなく、使用者側の事情によるものとなりますので、その整理解雇が有効かどうかの判断は、より厳しいものであると解されています。
ただ単に、「最近売上もおち、会社の経営が赤字になってきて少し経営も危なくなってきたので、人員を減らそう」ということのみでは有効と判断されません。
目次
整理解雇とは
整理解雇とは、解雇の一種であり、企業が人員削減を目的に従業員を解雇することです。
整理解雇の4要件
では、どうしても経営上、人員を削減する必要があるという判断に至った場合に、無効と判断されずに整理解雇を行うには、どのような手順を考えればよいのでしょうか。
昭和50年代以降の裁判所の判断として、次の4つの要件を基準として、有効であるかどうかの判断をされているといわれています。
- 人員削減の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 人選の合理性
- 解雇手続きの妥当性
この4つの要件を最初に具体的に示した判例は、「大村野上事件(長崎地大村支判昭和50.12.24)」とされています。
①人員削減の必要性
整理解雇を行わなければ、企業を倒産に追い込むなど存続にかかわる程度に差し迫っている場合や、倒産とまではいかなくても、高度の経営上の危機に瀕し、このままでは経営状況を立て直すのが厳しい状態である等、やむを得ない措置であるとういことが必要となります。
先の「大村野上事件」の裁判では、「当該解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度に差し迫った必要性があること」と示されています。
どのくらいの人員を解雇することが、危機を逸するために必要であったのかを充分検討されていたとは言えず、また、解雇が行われたのちに、任意退職者が出たことにより人手不足となり、新規採用が行われています。
この事実を考えれば、少なくとも、実際行われたほどの人員整理(29名の整理解雇が行われていた)が必要であったとは認められないと判断されています。
②解雇回避努力義務の履行
労働者にとって、解雇 イコール 生活の糧を失うこととなります。
そのため、整理解雇を避けるための手を充分につくしているかどうか、ということをみられます。
解雇を回避するための使用者側が行うべき努力として、次の例が考えられています。
- 経費削減
- 役員報酬の削減
- 一時帰休の実施
- 配置転換の実施
- 出向の実施
- 労働時間の短縮
- 昇給の停止、賞与の支給停止
- 賃金の引き下げ
- 非正規雇用(契約社員・アルバイト・派遣)の雇止め
- 新規採用の中止
- 希望退職の募集
すべてを行うということではなく、企業の規模によってもどの措置をとれるのかは様々です。
また、1つの措置を行ったから、努力をしたと認められるということでもありません。
労働者の賃金の引下げを行っても取締役の役員報酬は高額のまま支給されている等、取れる措置がまだあり充分とは言えない場合は、努力したとは認められません。
尽くすべき努力はし、取り得る措置は併用して行い、労働者にとって、解雇されるよりも痛みの少ない方法をとれているかどうかということも、措置が講じられているかどうかの判断ポイントとなります。
③人選の合理性
整理解雇の対象者の人選にあたっては、客観的・合理的な基準かつ公正に適用する必要があります。
勤務成績・能力・勤務態度等の評価を基準とする、勤続年数などの会社への貢献度を基準とする、家族の扶養状況など生活への影響を基準とする、正社員・契約社員・パートといった雇用形態を基準とするなど、解雇者選定の基準を設定し、労働者への該当性を明確かつ公平とすることが必要となります。
説明を求められた際に、合理的な判断基準がしっかりとし、使用者の恣意的な感情を含んでおらず、労働者の納得が得られるようにすることも必要となります。
④解雇手続きの妥当性
以上3つの要件の手順を踏んでなされたとしても、「はい、会社としていろいろ尽くしましたが、経営上避けられないので、あなたを解雇します」としてもよいわけではありません。
①~③で検討してきた解雇の時期や方法を、それぞれの労働者に充分な説明や協議を行う義務があります。
会社の経営状況や解雇回避措置の内容の説明、人選の基準、それらの措置をどのように行ってきたかなど、誠意をもって、納得して頂けるよう何度も行う必要があります。
説明・協議が充分に行われていない場合は、整理解雇は解雇権の濫用にあたると判断され、無効であると解されています。
整理解雇の4要素
ただし、近年では、整理解雇の4要件ではなく4要素として、総合的に判断するケースも増えているようです。
4要件とすると、すべてを満たしていない場合は解雇無効と判断されるのに対して、4要素とすると、それぞれの要素をもって総合判断され、ある要素が欠けていたとしても有効とされる場合があります。
4要件はあくまで、法律で決められているものではなく、解雇が有効とされるか無効とされるかの判断をする際の要件であるにすぎませんので、すべての要件を満たしていることだけではなく、すべての要件(要素)を考慮して、使用者が誠意をもって、解雇に至らぬよう、また最小限であるよう手を尽くし、丁寧に何度も説明・話し合い等をもたれたのか、労働者に対しての配慮はされていたのか、解雇は最後の手段であったのか等を総合的に考慮し、解雇権の濫用であるかを判断されます。
4要素を総合的に判断した裁判として、「ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(東京地判平成11.1.29)」の判決があります。
特定の業務部門の廃止が決定し、その業務を担当していた従業員の賃金水準を維持したまま配置転換できるポジションがなかったため、特別に退職金を上乗せした上退職勧奨をしたが、従業員が拒否しました。
その後も、関連会社への転籍を提案したのですが、この案も従業員が拒否しました。
この解雇に至るまでには、銀行は関連会社への転籍(関連会社には契約社員がいたが、解雇して提案)の提案、賃金減少分の補助として退職後1年間は200万円の加算支給の提案、退職勧奨後に上乗せしての退職金支給、再就職先が見つかるまでの人材紹介サービスを受ける費用の負担の提案、など銀行が誠意をもって対応したと判断され、解雇権の濫用ではないと解されました。
このように、使用者が労働者に対して、解雇の必要性等の事情を誠意をもって説明し、解雇する前に出来うる提案をし、労働者にとって、相応の配慮を行ったと認められるよう、対応することが必要であると、解することができます。
整理解雇をするときの進め方
整理解雇は、企業が人員削減のために労働者を解雇する制度です。
法的な要件を満たさないと解雇は無効となるため、慎重に進めることが重要です。
整理解雇をする場合の進め方について解説します。
整理解雇の方針や基準を決定する
整理解雇を行うためには、客観的で合理的な方針・基準を策定することが必要です。
策定にあたっては、以下の点に留意する必要があります。
- 客観性
- 合理性
- 透明性
- 手続きの妥当性
解雇する従業員を選定する
人選の合理性に基づき、解雇対象者を選定します。
労働組合等への説明を行う
労働組合や労働者全員に対し、経営状況、人員削減の必要性、解雇対象者を選定した理由、整理解雇の手続きなどを説明します。
解雇予告・解雇予告手当の支払いを行う
解雇対象者に解雇予告を行います。
解雇予告期間は、原則30日以上であり、30日前まで
に解雇予告を行わなかった場合は、解雇予告手当を支払わなければなりません。
なお、解雇予告を行う前に「雇用調整助成金(労働者を自宅待機や出向させ、その支払った賃金の2/3などを国から助成金として受給するもの)や「希望退職の募集」を行うのが一般的です。
整理解雇の実施
解雇予告期間を経過した後、整理解雇を行う。
整理解雇を検討する前に知っておくべき注意点
整理解雇を検討する前に知っておくべき注意点についても解説します。
退職金の支給基準を定めている場合、退職金の支払い義務がある
退職金の支給は、労働者による自主的な退職だけではなく、会社による解雇の場合にも支給対象とされているため、整理解雇する場合でも基本的には退職金を支払う義務があります。
30日前までに解雇の告知を行わなかった場合は解雇予告手当を支払う義務がある
労働基準法第20条に定められている通り、30日前までに解雇の告知を行わなかった場合、解雇予告手当を支払わなければなりません。
解雇予告手当とは、労働者を解雇する場合に、会社が労働者に対して支払う義務のある金銭のことで、解雇によって労働者が収入を失うことに対する補償となります。
解雇予告を行わなかった日数分(解雇予告が30日以上前であれば不要。30日未満であれば30日ー解雇予告を行った日数。
具体的には、14日前に解雇予告を行ったのであれば、30日ー14日=16日分の解雇予告手当が必要です)×平均賃金の額を支払います。
※平均賃金とは、解雇予告日の直前の賃金締切日から過去3ヶ月間の給与額面金額の総額÷同期間の総日数で算出します。
解雇予告手当を支払わない場合、会社は労働基準法違反となり、罰則の対象となりますので注意しておきましょう。
有給休暇の未消化分についての対応を検討しておく
整理解雇において、有給休暇の未消化分は大きな課題となります。適切な対応を怠ると、労働者とのトラブルや法的な紛争に発展する可能性がありますので注意しましょう。
労働基準法第39条では、労働者は入社後半年経過すれば、会社から有給休暇を取得する権利があると規定されています。
(ただし、所定出勤の8割以上出勤した場合に限ります)
整理解雇における有給休暇の未消化分は下記のような方法で対応が可能です。
- 現金支払い(いわゆる「有給休暇の買い上げ」)
- 整理解雇日の調整
- 失効
まとめ
では、経営状況が悪化し、どうしても人員削減が必要になったら、どのように進めていけばよいのでしょうか?
そもそも人員削減をしなくても大丈夫な方法はあるのでしょうか?「退職金の上乗せ」って、経営の危機に瀕しているのに退職金は支給しないといけないのでしょうか?
疑問やお困りの事がありましたら、ぜひご相談下さい。
労務相談も承っております。