解雇の有効要件

解雇とは

解雇とは、使用者の一方的な意思表示による労働契約の解除です。

企業にとっては、従業員の勤務態度や勤怠が悪いことや、能力不足、病気などを理由に従業員を解雇したいというケースもあると思います。

しかしながら、労働者は働くことによって生活の糧として賃金を得て、家族を養い、人によっては働くことそれ自体が生きがいである方もいます。

ですので、労働者を簡単にやめさせることができると、労働者の生活が成り立たなくなります。

そのため、労働契約法等の法律において、解雇ができる場合は制限されています。

今回は、解雇の有効な要件、すなわち、どのような条件や理由があれば正当な解雇として認められるかをご紹介します。

 

解雇の種類は、主に普通解雇、懲戒解雇、整理解雇があります。

「解雇」というと普通解雇をさすことが一般的です。

懲戒解雇、整理解雇については、別コラムでより深堀りしてご紹介しますので、本コラムでは主に普通解雇についてご紹介いたします。

 

普通解雇とは

普通解雇とは、労働者が労働契約によって使用者と約束した内容に違反したことを理由として労働契約を解消することです。

労働契約の根底には労使間の信頼関係があります。

労働者が約束違反したことによって信頼関係が崩壊した場合に、普通解雇されることがあります。

 

普通解雇の理由としては、以下のようなものが考えられます。

  • 勤務実績が悪く、指導をしても改善の見込みがないこと
  • 無断欠勤や遅刻・早退が多いなど、職務怠慢および勤怠が悪く、指導をしても改善の見込みがないこと
  • 体調不良、病気、けがにより長期にわたって休んでおり、職場復帰が見込まれないこと

 

普通解雇の有効要件

普通解雇をするには、以下のような要件が必要となります。

  • 就業規則等で解雇事由を明示していること
  • 客観的かつ合理的な理由があること

それぞれ解説します。

就業規則等で解雇事由を明示していること

常時10人以上の従業員を雇っている会社は、就業規則を作成しなければなりません。

そして、就業規則には「退職に関する事項(解雇の事由を含む)」を記載する義務と(就業規則の絶対的必要記載事項)、その就業規則の周知義務がありますので、その両方の義務を果たしていなければなりません。

就業規則の周知義務を果たす方法として、「就業規則のコピーを配布する」、「事務所内の見やすい場所に掲示する」、「ネット上に就業規則のデータを載せて全従業員が閲覧できるようにする」等があります。

 

ともあれ、「就業規則に解雇の事由を記載していない場合」や「就業規則に記載された解雇の事由にあてはまる事実がない場合」は、普通解雇をすることはできません。

 

客観的かつ合理的な理由があること

就業規則に解雇の事由についての記載があるからといっても、その一点のみをもって解雇することは適当とはいえません。

労働契約法第16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と規定されています。

つまり、解雇の有効要件として

  • 客観的に合理的な理由があること
  • 解雇の事由が社会通念上相当であること

が必要となります。

 

ここで、「普通解雇とは」で述べた普通解雇の理由について、どのような場合に「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当」とみなされるかを見ていきたいと思います。

勤務実績が悪く、指導をしても改善の見込みがないこと

労働契約は、会社が賃金を支払い、労働者が賃金に見合った適正な労務の提供を行う契約です。

つまり、勤務実績不良や能力不足は、労働契約の不完全な履行とみなされて、解雇事由となり得ます。

ただし、客観的に合理的な理由とみなされるためには、人事評価制度等の運用などにおいて当該労働者に求められる職務遂行能力を明確にしたうえで、その達成度および実績が著しく低く、「雇用の継続が期待しがたいほどに重大な程度」だることが必要です。

無断欠勤や遅刻・早退が多いなど、職務怠慢および勤怠が悪く、指導をしても改善の見込みがないこと

無断欠勤や遅刻・早退は、労働契約で定められた就業時間の全部または一部の労務の提供を行わないことにつながり、普通解雇事由になりえます。

ただし、客観的に合理的な理由とみなされるためには、無断欠勤や遅刻・早退を頻繁に繰り返したり、上司からの是正指導を受けて反省の態度がなく改善の見込みがないなどの場合限られます。

体調不良、病気、けがにより長期にわたって休んでおり、職場復帰が見込まれないこと

このような場合も、労働契約で定めた労務の提供ができないため、解雇事由となり得ます。

ただし、客観的に合理的な理由とみなされるためには、健康状態の悪化によって長期間業務を行えない場合に限られます。

解雇制限期間中におこなわれた解雇でないこと。

労働基準法第19条1項により、次の期間は、原則として解雇を行うことが禁止されています。

  • 仕事中のケガや仕事が原因で病気になった場合に、その療養のために休む期間とその後30日間
  • 産前産後休業の期間とその後30日間

ただし、災害などやむを得ない事情によって、会社の事業を続けることが不可能な場合には、解雇禁止の適用を受けません。

また、従業員の仕事上のケガや病気について、会社が直接治療費などを支払ったり、労災保険を利用して補償を受けているケースで、療養から3年が経っても治らない場合は、会社がその従業員の平均賃金の1200日分を支払えば、解雇制限期間が適用されず、解雇が可能となります(打切補償)。

普通解雇までの手続きが適正であるか

労働基準法第20条では、労働者の解雇予告について定めています。

従業員を解雇する場合、少なくとも30日前に従業員に解雇する旨を通知しなければなりません。

また、解雇予告手当として、解雇予告を行った日の翌日から数えて実際に解雇する日までの日数が30日に満たない場合に限り、足りない日数分の平均賃金を支払わなければなりません。

ただし、以下の条件に該当する従業員を解雇する場合には、解雇予告手当の支払いは不要です。

  • 雇用期間が1か月未満の日雇い労働者をその期間内に解雇された場合
  • 14日未満の試用期間中の者
  • 季節的業務に4か月以内の期間を定めて使用される者
  • 2か月以内の期間を定めて使用される者

また、解雇予告除外認定といって、一定の場合に解雇予告をしないことについて労働基準監督署から認定を受けることができます。

この認定を受けた場合には、解雇予告せずに解雇をすることが可能となります。

解雇予告認定を受けることができるケースは

  • 天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能な場合
  • 労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合

に限られています。

 

以上に述べたような適正な手続きを経て行った解雇の場合にのみ、有効な解雇となり得ます。

 

まとめ

普通解雇の有効要件について述べてきました。

懲戒解雇ではなく普通解雇であっても、判断基準が難解であり手続きが煩雑です。

そのうえ、解雇された従業員から解雇無効・地位確認の訴訟を起こされて、万が一解雇が無効との判決に至った場合は、過去に遡って賃金を支払ったり、慰謝料の支払いもが生するリスクがあります。

社会保険労務士法人ベスト・パートナーズでは、普通解雇を含めた労働問題等も対応させていただいております。

そのような事案がございましたら、お気軽にご相談ください。

 

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