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従業員を解雇する場合の注意点について解説~解雇権濫用法理と雇止め法理~

解雇権濫用法理

「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という法理です。

これは、民法第1条第3項「権利の濫用は、これを許さない」を援用する形で、不当な解雇を無効とする判決が積み重なり、日本食塩製造事件(最高裁・昭和50年4月25日判決)にて判示されました。

 

そして、解雇権濫用法理は、旧労働基準法第18条の2に規定された後、労働契約法第16条に明記されました。

労働契約法第16条は、下記のように定められています。

第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

これは、解雇は労働者に与える影響が大きく、解雇に関する紛争も増大していることから、解雇に関するルールをあらかじめ明らかにすることにより、解雇に際して発生する紛争を防止し、その解決を図ることを趣旨としています。

解雇権の濫用により解雇が無効とされる場合には、労働者は使用者の責めに帰すべき事由によって労務を提供できなかったとされ、解雇期間中の賃金請求権を失わず、使用者に対し解雇時に遡っての賃金の支払いが命じられることも多くみられます。

 

一方で、「解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる」として、高知放送事件(最高裁・昭和52年1月31日判決)で述べられており、解雇権濫用法理における相当性の原則が明らかにされています。

実務上は、解雇に至る個別的な事情や理由を考慮する必要があり、解雇権濫用法理に該当するか否かを判断することは非常に難しく、同種の解雇に係る過去の裁判例を参考に判断することが求められます。

 

雇止め法理

有期労働契約において、契約期間満了をもって更新せずに契約を終了させることを「雇止め」といいます。

雇止め法理とは、簡単にいうと、「雇止めに対し、一定の条件を満たす場合に限り、雇止めを無効とする」という法理であり、労働契約法第19条に明記されました。

 

労働契約法第19条は、下記のように定められています。

第19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 

つまり、下記のいずれかに該当する場合であり、更新を希望する労働者を雇止めすることが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、労働契約法違反となります。

  1. 過去に反復して更新されており、無期労働契約と同視できる場合
  2. 労働者が契約更新を期待できる合理的な理由がある場合

 

「雇止め法理」は東芝柳町工場事件(最高裁・昭和49年7月22日判決)や日立メディコ事件(最高裁・昭和61年12月4日判決)を通して確立した法理です。

それぞれ、上記の①②にどのように該当するか解説していきます。

 

①東芝柳町工場事件

この判例での有期契約労働者は、契約期間が定められてはいるものの、契約期間が満了する都度、自動的に労働契約が更新され、実質的に無期労働契約と変わらない状態になっていました。

就業規則に定められている他の解雇事由に該当する事実も認められず、雇止めは無効とされました。

 

②日立メディコ事件

この判例での有期契約労働者は、契約期間の管理がしっかりし、正社員との区別も比較的明確でしたが、更新が繰り返され、さらなる更新の期待が客観的にあるとして争われました。

しかし、無期契約労働者とは異なり、簡易な手続きで採用されていたことや、従事する職務内容も簡易であったこと等から、契約更新の合理的期待があったとまではされず、雇止めは適法とされました。

 

労務管理上は、契約期間や更新回数の管理を徹底することが大切です。

そうすることで、従業員への更新の期待を抱かせづらくし、雇止め時のリスクを減らすことができるでしょう。

また、2024年4月以降は、有期労働契約の締結と更新の際に、更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容の明示が必要となります。合わせてご確認いただくことが望まれます。

一方で、雇用契約書で更新上限を明記した場合も、更新を期待させるような言動をしている場合などは、雇止めが違法とされる可能性がございますので、安易な言動は行わないことも注意が必要です。

 

法制定の背景及び趣旨

解雇権濫用法理・雇止め法理における「法理」とは、「判例法理」を指します。

「判例法理」とは、裁判所が示した判断の蓄積によって形成された考え方を意味します。

 

個別労働関係紛争が増加している中、それを解決するための労働契約に関する民事的なルールについては、民法及び個別の法律において部分的に規定されているのみであり、体系的な成文法が存在していませんでした。

 

このため、個別労働関係紛争が生じた場合には、それぞれの事案の判例が蓄積されて形成された「判例法理」を当てはめて判断することが一般的となっていましたが、このような「判例法理」による解決は、必ずしも予測可能性が高いとは言えず、また、「判例法理」は労働者及び使用者の多くにとって十分には知られていないものでした。

このような中、個別の労働関係の安定に資するため、労働契約に関する民事的なルールの必要性が一層高まり、今般、労働契約の基本的な理念及び労働契約に共通する原則や、「判例法理」に沿った労働契約の内容の決定及び変更に関する民事的なルール等を一つの体系としてまとめるべく、労働契約法が制定されました。

 

労働契約法の制定により、労働契約における権利義務関係を確定させる法的根拠が示され、労働契約に関する民事的なルールが明らかになり、労働者及び使用者にとって予測可能性が高まるとともに、労働者及び使用者が法によって示された民事的なルールに沿った合理的な行動をとることが促されることを通じて、個別労働関係紛争が防止され、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することが期待されるものとなりました。

 

解雇制限

解雇の理由として、勤務態度に問題がある、業務命令や職務規律に違反するなど労働者側に落ち度がある場合が考えられますが、1回の失敗ですぐに解雇が認められるということはなく、労働者の落ち度の程度や行為の内容、それによって会社が被った損害の重大性、労働者が悪意や故意でやったのか、やむを得ない事情があるかなど、さまざまな事情が考慮されて、解雇が正当かどうか、最終的には裁判所において判断されます。

また、一定の場合については法律で解雇が禁止されています。これを解雇制限といいます。具体的には次のようなものがあります。

 

(1)労働基準法による解雇制限

  • 業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇(第19条)
  • 産前産後の休業期間とその後の30日間の解雇(第19条)
  • 労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇(第104条第2項)

(2)労働組合法による解雇制限

  • 労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇(第7条)

(3)男女雇用機会均等法による解雇制限

  • 労働者の性別を理由とする解雇(第6条)
  • 女性労働者が結婚・妊娠・出産・産前産後の休業をしたことなどを理由とする解雇(第9条)

(4)育児・介護休業法による解雇制限

  • 労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇(第10条)

 

また、合理的な理由があっても、解雇を行う際には少なくとも30日前に解雇の予告をする必要があります。

予告を行わない場合には、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。

予告の日数が30日に満たない場合には、その不足日数分の平均賃金を、解雇予告手当として、支払う必要があります。

例えば、解雇日の10日前に予告した場合は、20日×平均賃金を支払う必要があります。(労働基準法第20条)。

※雇止めにおいては、3回以上更新されている場合や、最初の雇用から1年を超えて継続勤務している場合には、30日前の予告が必要となります。

 

まとめ

従業員の解雇や雇止めは、労使トラブルに発展するリスクが高く、裁判となると会社への負担もさらに大きくなります。

解雇や雇止めを行う場合は、次のポイントに注意しつつ、契約内容や個別的な事情を考慮し、過去の裁判例も参考にしながら慎重に検討する必要がございます。

 

解雇について
  1. 客観的に合理的な理由があること
  2. 解雇制限に該当しないこと
  3. 30日前に解雇予告をしていること(あるいは解雇予告手当を支払っていること)
雇止めについて
  1. 契約期間や更新回数の管理を徹底すること
  2. 契約更新の期待を抱かせないこと
  3. 正社員と有期雇用労働者の業務内容を区別すること

 

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