変形労働時間制とは?

「働き方改革」が進む現代において、企業は従業員の多様な働き方に対応し、生産性向上と労働時間の適正化を両立させることが求められています。

その中で注目されているのが、変形労働時間制です。

この記事では、変形労働時間制の基本的な考え方から、「1週間単位の非定型的変形労働時間制」「1ヶ月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」の3つの制度について、それぞれの仕組みや導入条件、残業代の計算方法まで、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説します。

この記事を通して、変形労働時間制への理解を深め、ご自身の会社で導入を検討する際の参考にしてください。

変形労働時間制とは

原則的な労働時間は1日8時間、1週40時間(特例事業の場合は44時間)以内とされていますが、一定の期間内にその配分を変えることにより、繁忙期の所定労働時間を長く、反対に閑散期の所定労働時間を短くすることで効率よく働き、残業時間を削減することができる。

この仕組みが変形労働時間制です。

変形労働時間制を採用するとどうなる?

変形労働時間制を採用することにより、一定の期間内に平均して週40時間(一部44時間)を超えない範囲で所定労働時間を決めることができるようになりますので繁忙期には1日の労働時間を10時間と設定することも可能です。

こうすることで、変形労働時間制を採用していなければ、8時間を超えた時間に対して残業代の支給が必要になりますが、変形労働時間制を採用すれば、所定労働時間を10時間と設定した日は10時間労働しても残業とはなりません。

その代わり他の閑散期の日の所定労働時間は6時間などと設定することで、全体での残業時間を減らし、効率よく働いてもらうことができます。

変形労働時間制の種類

変形労働時間制には下記の種類があります。

  1. 1週間単位の非定型的変形労働時間制
  2. 1ヶ月単位の変形労働時間制
  3. 1年単位の変形労働時間制
  4. フレックスタイム制

 

この記事では①~③の変形労働時間制について解説します。

④のフレックスタイム制に関しては別の記事で詳しく解説しておりますので下記URLをご参照ください。

フレックスタイム制とは

1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制について詳しく解説します。

1週間単位の非定型的変形労働時間制は、日々の繁閑の差が激しく、就業規則等で各日の所定労働時間を特定することが困難と認められる事業所に1週間単位で労働時間を効率的に配分することにより労働時間を短縮しようとするためのものです。

1週間単位の非定型的変形労働時間制を採用するためには

  1. 小売業・旅館・料理店・飲食店で常時働く労働者が 30 人未満の事業場であること
  2. 労使協定を定め、労働基準監督署へ届け出ること
  3. 1週間の労働時間が40時間以下となること※(特例事業の場合も40時間以下である必要があります。)
  4. 1日の所定労働時間の限度を10時間とすること
  5. 1週間の各日の労働時間を、当該1週間の開始する日までに労働者で通知すること

※労使協定に定めておけば緊急でやむを得ない場合前日までに労働者に通知することで、あらかじめ通知した労働時間を変更することができます。

1ヶ月単位の変形労働時間制

続いて1ヶ月単位の非定型的変形労働時間制について詳しく解説します。

1ヶ月以内の期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間(特例事業の場合は44時間)以内となるように労働日及び労働日ごとの労働時間を設定することにより、1日8時間、週40時間(特例事業の場合は44時間)を超えた労働時間を設定することが可能となる制度です。

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用するためには

  1. 労使協定又は就業規則に規定して労働基準監督署へ届け出る。
  2. シフト表やカレンダー等で対象期間すべての労働日ごとの労働時間を定めて労働者へ通知すること。

※1週間単位の非定型的変形労働時間制とは違い、定めた時間を変更することができないので要注意です。

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用した場合のシフトの決め方

変形期間の労働時間を平均して1週間の労働時間が週40時間(特例事業の場合は44時間)を超えないようにしなければなりません。

よって次の計算式の範囲内でシフトを組むこととなります。

1週間の法定労働時間×変形期間の歴日数(1か月以内)÷7日

 

例 3/1~3/31の31日間を変形期間とした場合

40時間(特例44時間)×31日÷7日=177.1時間(特例194.8時間)となります。

ですので3/1~3/31の期間中に労働時間が177.1時間を超えないようにシフトを組む必要があります。

 

Aさんのシフト表

10 6 7 7 10
10 5 6 7 10
10 7 5 6 5 10
10 7 6 10
10 5 7

 

1週目:40時間

2週目:38時間

3週目:43時間

4週目:33間

5週目:22時間

 

Aさんの3/1~3/31の労働時間は176時間に設定されており、177.1時間を超えていない為正しくシフトを組めていることとなります。

1ヶ月単位の変形労働時間制を採用した場合の残業の考え方

Aさんのシフト表をもとに残業時間を考えます。

 

  1. 1日単位で残業時間を見る
  2. 1週間単位で残業時間を見る
  3. 1ヶ月単位で残業時間を見る

 

第2週のシフト:38時間

10 5 6 7 10

 

実際の労働時間

12 7 9 7 10

 

①1日単位で残業時間をみると

日曜日:10時間→12時間 そもそもの所定労働時間が10時間と法定の8時間を超えているため、シフトで設定した10時間を超える2時間は全て法定外残業(1.25)となります。

月曜日:5時間→7時間 シフトで設定した5時間を超えていますが、法定労働時間である8時間は超えていない為シフトで設定した5時間を超える2時間は全て法定内残業(1.0)となります。

水曜日:6時間→9時間 シフトで設定した時間を3時間超えていますが、8時間までの2時間は法定内残業(1.0)となり8時間を超える1時間は法定外残業(1.25)となります。

 

1日単位でみた残業時間の結果 法定内残業(1.0)4時間 法定外残業(1.25)3時間

②週単位で残業時間をみると

この週はシフトでは最初38時間のシフトでしたが結果としては45時間労働をしています。

このうち①の1日単位でみた際に法定内残業(1.0)は4時間ありました。

そうするともともとのシフト時間38時間+法定内残業時間4時間=42時間となります。

①では法定内残業とされた4時間の内2時間は週単位でみると法定の週40時間を超えているため法定内残業(1.0)2時間と法定外残業(1.25)2時間となります。

 

1週間単位でみた残業時間の結果 法定内残業(1.0)2時間 法定外残業(1.25)5時間

 

③1ヶ月単位でみると

他の週はシフト通りに労働したとします。シフトでは1月の所定労働時間は176時間と設定されていました。

①②に法定外残業となった時間を除いて法定内残業が2時間ありますが、シフト時間の176時間+法定内残業2時間=178時間となり、1月の法定労働時間177.1時間を超えてしまいます。

よって①②により法定内残業となっていた2時間のうち178-177.1時間(177:06)=0:54 は法定外残業(1.25)となります。

 

1ヶ月単位でみた残業時間の結果 法定内残業(1.0)1時間6分 法定外残業(1.25)5時間54分

 

結果、この月は法定内残業(1.0)1時間6分 法定外残業(1.25)5時間54分の残業代の支給が必要となります。

 

このように1ヶ月単位の変形労働時間制では3段階に分けて残業時間の算出が必要となります。

 

1年単位の変形労働時間制

最後に1年単位の変形労働時間制について解説します。

1か月を超えて1年以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲で、業務の繁閑に応じた労働時間を設定できる制度です。

1ヶ月単位の変形労働時間制よりも期間が長くなるため、1ヶ月単位の変形労働時間制よりも条件が厳しくなっているのが特徴です。

 

1年単位の変形労働時間制を採用するためには

①労働日数は1年あたり280日までに設定すること(期間が3ヶ月を超える場合のみ)

1年未満の場合は次の計算式により計算した日数となります。

280日×対象期間の歴日数÷365日

②1日の労働時間は10時間以下で設定すること

③1週間の労働時間は52時間以下で設定すること

※ただし労働時間が48時間を超える週が連続できるのは3週以下です。また、期間を3ヶ月ごとに区分した各期間において、労働時間が48時間を超える週は3回以下とする必要があります。

④連続して労働する日数の限度は6日であること

※ただし特定期間は1週間に1日の休日が確保でれば良いです。

⑤労働日と労働日ごとの労働時間は1か月以上ごとに定めて各期間の初日の30日前以上前に過半数労働組合又は労働者の過半数を代表する者の同意を得て書面で定めること。

⑥労使協定を労働基準監督署へ届け出ること。

変形労働時間制のメリット・デメリット

変形労働時間制の導入は、企業に複数のメリットをもたらしますが、同時に注意すべき点も存在します。
それぞれ解説します。

変形労働時間制のメリット

変形労働時間制を導入することで、企業は業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に配分し、生産性の向上と人件費の最適化を図ることが可能です。

例えば、繁忙期には所定労働時間を長く設定することで、法定労働時間を超える残業の発生を抑制し、結果として残業代の削減に繋がります。

これにより、必要な時期に必要なだけ人員を配置し、人件費の無駄をなくしながら効率的な経営を実現できます。

また、閑散期には労働時間を短縮することで、従業員の休暇取得を促進し、労働環境の改善にも寄与します。

変形労働時間制のデメリット

変形労働時間制の導入と運用には、労働時間管理の複雑化や、従業員への制度周知と理解促進の必要性といったデメリットも存在します。

日によって労働時間が変動するため、従来の固定的な勤務体系と比較して勤怠管理が複雑になり、計算ミスや認識の齟齬が生じるリスクが高まります。

また、制度の内容や残業代の計算方法について従業員に十分に理解してもらえない場合、不信感や不満に繋がる可能性もあります。

導入後の適切な運用には、精度の高い勤怠管理システムの導入や、従業員への丁寧な説明、そして労使間の十分なコミュニケーションが不可欠です。

変形労働時間制の導入手続き

変形労働時間制を導入するには、労働基準法に基づいた所定の手続きを遵守する必要があります。

これらの手続きを適切に行うことで、制度の有効性が確保され、導入後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
変形労働時間制を導入する際の手続きは、主に以下の3つのステップで進めます。

  1. 労使協定の締結及び就業規則への記載
  2. 労働者への周知
  3. 労働基準監督署への届出

以下に、それぞれのステップについて詳しく解説します。

労使協定の締結または就業規則への記載

変形労働時間制を導入するにあたり、最も重要なステップの一つが、労使協定の締結、または及び就業規則への必要事項の記載です。

これは、労働時間の原則的なルールを変更するための根拠となるものです。

労使協定の締結(推奨)

事業場の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者(労働者の意思に基づき選出された者)との間で、書面による協定を締結します。

労使協定には、対象となる労働者の範囲、対象期間(1週間、1ヶ月、1年など制度の種類に応じた期間)、労働時間の特定方法(各日の労働時間や休日など)、協定の有効期間などを明確に記載します。

特に1年単位の変形労働時間制では、労働日数の限度、1日の労働時間や1週間の労働時間の限度、連続労働日数の限度など、細かな法定要件をすべて明記する必要があります。

就業規則への記載(1ヶ月単位の変形労働時間制のみ可能)

1ヶ月単位の変形労働時間制に限り、労使協定の締結に代えて、就業規則に必要な事項を記載し、労働基準監督署に届け出ることも可能です。

ただし、就業規則に記載する場合でも、対象となる労働者への十分な説明と理解を得ることが重要です。

このステップは、後のトラブルを防ぐためにも、労働基準法の要件を正確に満たす形で丁寧に進める必要があります。

労働者への周知

労使協定の締結または就業規則への記載が完了したら、次に制度の内容を労働者に周知する義務があります。

これは、労働者が自身の労働時間や給与について正しく理解し、安心して働けるようにするために不可欠です。

周知方法

就業規則や労使協定を事業場の見やすい場所に掲示する、または備え付ける。

書面を交付する。

パソコンなどのデジタルデータで閲覧できるようにする。

口頭での説明会を実施するなど、労働者がいつでも内容を確認できるように周知を徹底します。

特に、変形労働時間制は日々の労働時間が変動するため、労働者一人ひとりが自身のシフトや労働時間を正しく把握できるような仕組みを整えることが重要です。

労働基準監督署への届出

最後に、締結した労使協定または変更した就業規則を、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

この届出が完了して初めて、変形労働時間制が法的に有効となります。

届出書類

1週間単位の非定型的変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制を導入する場合は、「労使協定届」を提出します。

1ヶ月単位の変形労働時間制を労使協定で導入する場合は「労使協定届」を、就業規則に記載して導入する場合は「就業規則(変更)届」を提出します。

添付書類

届出書類には、労使協定書や就業規則、変形期間における労働日および労働時間を特定したシフト表やカレンダーなど、制度に応じた必要な書類を添付します。

これらの手続きをすべて完了させることで、企業は法的に有効な変形労働時間制を導入し、業務の繁閑に応じた柔軟な労働時間管理が可能になります。

導入にあたっては、各制度の要件や手続きが異なるため、専門家である社会保険労務士に相談するなどして、慎重に進めることを推奨します。

変形労働時間制の注意点

変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせて柔軟な労働時間の設定を可能にする一方で、導入・運用にあたってはいくつかの重要な注意点があります。

これらの点を見落とすと、法的な問題や従業員とのトラブルに発展する可能性があります。

法定要件を厳守する

変形労働時間制は、労働基準法によってその導入要件や運用方法が厳格に定められています。
これらの法定要件を遵守しない場合、制度そのものが無効と判断されるリスクがあります。

例えば、1年単位の変形労働時間制では、対象期間における労働日数の上限や、1日の労働時間、1週間の労働時間の限度などが細かく規定されています。
また、特定の変形労働時間制では、労使協定の締結や労働基準監督署への届出が義務付けられています。

これらの要件を一つでも満たさない場合、たとえ企業が変形労働時間制を導入しているつもりでも、法的には無効となり、原則的な労働時間制(1日8時間、週40時間)が適用されます。
その結果、過去に遡って多額の残業代が発生し、企業に予期せぬ経済的負担が生じる可能性があります。

制度導入前には、必ず最新の労働基準法の内容を確認し、すべての法定要件を満たしているか、専門家である社会保険労務士に確認を依頼するなどして、綿密に準備を進めることが不可欠です。

労働時間管理を徹底する

変形労働時間制では、日々の労働時間が変動するため、通常の固定的な労働時間制に比べて労働時間の管理が複雑になります。
正確な労働時間管理を怠ると、未払い残業代の発生や、労働基準法違反に繋がる恐れがあります。

シフト制を採用している場合は、シフト作成時に法定労働時間を超えないか、特定の労働者に負担が偏らないかなどを十分に考慮しなければなりません。
労働時間の管理を適切に行うためには、高性能な勤怠管理システムの導入や、管理担当者への十分な教育が有効です。

健康と安全への配慮が必要

変形労働時間制を導入する場合、繁忙期に労働時間が集中する可能性があるため、従業員の健康と安全への配慮がより一層重要になります。
過度な長時間労働は、従業員の心身の健康を損ない、生産性の低下や休職、離職に繋がるリスクを高めます。

例えば、労働基準法では、1年単位の変形労働時間制において、特定の期間に連続して労働できる日数や、週あたりの労働時間の上限が定められています。
これらの法定要件に加え、企業は従業員の健康状態を定期的に確認し、必要に応じて面談や医師による指導を行うなどの健康管理体制を強化する必要があります。
また、シフト作成時には、休憩時間の確保や十分な休息期間の設定、特定の従業員への負担の偏りを避けるなどの配慮も求められます。

従業員への十分な説明と理解促進が必要

変形労働時間制は、従業員の労働時間や生活リズムに直接影響を与えるため、制度の内容や変更点について従業員への十分な説明と理解を得ることが不可欠です。
説明が不十分な場合、従業員からの不満や誤解が生じ、労使間の信頼関係を損なう可能性があります。

特に、残業代の計算方法が複雑になるため、従業員が自身の労働時間に対する対価を正しく理解できるよう、具体的な事例を交えながら丁寧に説明する場を設けることが望ましいです。
例えば、制度導入前には説明会を開催し、質疑応答の時間を設ける、あるいは制度内容を分かりやすくまとめた資料を配布するなどの工夫が考えられます。

まとめ

残業時間を削減するためにとても有効な変形労働時間制ですが、上記の通り、変形労働時間制度にはそれぞれルールが存在します。

変形労働時間制を導入して、残業時間を削減し、残業代の削減を行ったつもりなのに、ルールに従って運用していなければ、過去の判例では変形労働時間制が無効とされたケースがあります。変形労働時間制が無効となると、原則通り1日8時間、週40時間を超えた部分に対して全て残業代の支給が必要となってしまい、せっかく変形労働時間制を導入したにもかかわらず、想定よりも多額の残業代を支払うことになってしまいます。

ですので変形労働時間を導入する際は専門家に相談するなどして慎重に行いましょう。

社労士法人ベスト・パートナーズでは変形労働時間制の導入のご相談や就業規則の整備・協定届の作成や、変形労働時間制を導入した後に勤怠の集計間違いが発生いない為の勤怠システムの導入のお手伝いも行っております。ぜひご相談ください。

 

 

 

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