目次
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制とは、1日の労働時間を定めず一定期間(上限3か月)について総労働時間を定め、労働者はその総労働時間の範囲で各労働日の始業・終業・労働時間を「自ら」決める事ができる制度です。
(労働基準法第32条3)
総労働時間の計算の仕方
総労働時間は下記計算式を上限にして、定める必要があります。
「1週の法定労働時間40時間×清算期間の歴日数÷7」
例:1か月が「31日」の場合 40時間×31日÷7=177.1時間
(週44時間までの場合は「40時間」を「44時間」へ変更)
しかし、完全週休2日制で4週の場合は所定労働日数が「31日―8日=23日」になります。
「23日×8時間=184時間」となり、上記計算式を超えてしまいます。
平成30年の法改正で「労使協定」を締結することにより、総労働時間が「184時間」に広がり
時間外労働が発生しなくなります。
もしその月の実労働時間が190時間の場合、「190時間―184時間=6時間」が時間外労働になります。
コアタイム・フレキシブルタイムとは?
一般的なフレックスタイム制は、1日の労働時間帯をコアタイム(必ず勤務すべき時間)とフレキシブルタイム(その時間であればいつでも出社・退社してもよい時間)に分かれます。
コアタイムを必ずしも定めなくてもいいので、全ての時間をフレキシブルタイムにすることができます。
閑散時期は遅く出社し早く帰る、繁忙時期は長く働くといった労働者は自身に合う時間の使い方ができ、会社は時間外労働分の賃金を可能な限り抑えることができるといった労使にメリットがある働き方と言えます。
フレックスタイム制の注意点
会社は下記を定めた場合、フレックスタイム制とはみなされないことがありますのでご注意ください
- コアタイムがほとんどでフレキシブルタイムが極端に短い場合
- コアタイムの開始→終了までの時間が標準となる1日の労働時間とほぼ一致している場合
- 開始・終了のどちらか片方だけ労働者が決める事ができる場合
- 開始・終了は労働者が決めていい!としながら必ず8時間は勤務と決められている場合
フレックスタイム制の導入の要件
導入する場合は、下記の①②が必要になります。
- 就業規則等で規定を定める(1か月を超える清算期間の場合は労働基準監督署へ提出が必要)
- 労使協定で所定の事項を定める
下記①と②について説明します。
就業規則その他これに準ずるものにおいて始業と就業を労働者の決定にゆだねる旨を定めます。
【就業規則の例】
(適用労働者の範囲)
第●条 第●条の規定に関わらず、○○部に所属する従業員にフレックスタイム制を適用する。 第●条 フレックスタイム制が適用される従業員の始業および終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は、午前7時から午前10 時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午後3時から午後8時までの間とする。 ②午前10 時から午後3時までの間(正午から午後1時までの休憩時間を除く。)については、所属長の承認のないかぎり、所定の労働に従事しなければならない。 (清算期間及び総労働時間) 第●条 清算期間は1箇月間とし、毎月1 日を起算日とする。 ②清算期間中に労働すべき総労働時間は、160時間とする。 (標準労働時間) 第●条 標準となる1日の労働時間は、8時間とする。 (その他) 第●条 前条に掲げる事項以外については労使で協議する。
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②労使協定にて所定の事項を定めます。
「必要な情報」
- 対象となる労働者の範囲
- 清算期間
- 起算日
- 総労働時間
- 標準となる1日の労働時間
- コアタイム
- フレキシブルタイム
【労使協定の例】
●●株式会社と●●株式会社労働組合(又は労働者代表●●)とは労働基準法第32条の3の規定に基づき、フレックスタイム制について、次のとおり協定する
(フレックスタイム制の適⽤社員) 第●条 ●●部及び●●部に所属する従業員にフレックスタイム制を適⽤する。 (清算期間) 第●条 労働時間の清算期間は、 4⽉、7⽉、10⽉、1⽉の1⽇から翌々⽉末⽇までの3か月間とする。 (総労働時間) 第●条 清算期間における総労働時間は、1⽇8時間に清算期間中の所定労働⽇数を乗じて得られた時間 数とする。 総労働時間=8時間×3箇⽉の所定労働⽇数 (1⽇の標準労働時間) 第●条 1⽇の標準労働時間は、8時間とする。 (コアタイム) 第●条 必ず労働しなければならない時間帯は、午前10時から午後3時までとする。 (フレキシブルタイム) 第●条 適⽤社員の選択により労働することができる時間帯は、次のとおりとする。 始業時間帯=午前7時から午前10時までの間 終業時間帯=午後3時から午後8時までの間 (超過時間の取扱い) 第●条 清算期間中の実労働時間が総労働時間を超過したときは、会社は、超過した時間に対して時間外 割増賃⾦を⽀給する。 (不⾜時間の取扱い) 第●条 清算期間中の実労働時間が総労働時間に不⾜したときは、不⾜時間を次の清算期間にその法定労 働時間の範囲内で繰り越すものとする。 (有効期間) 第●条 本協定の有効期間は、●年●⽉●⽇から1年とする
●●株式会社 代表取締役 ●● ●●株式会社労働組合 ●● 又は労働者代表 ●● |
- 就業規則作成・変更時は労働基準監督署へ届出しなければなりません。
- 労使協定は「1か月を超える清算期間」の場合は「労使協定届(様式3の3)と労使協定の写し」を届出しなければなりません。
(1か月の場合は届出の必要なし)
フレックスタイム制に関するよくある疑問
フレックスタイム制に関するよくある疑問についてお答えします。
①残業代はどうなるのか?
フレックスタイム制は一定期間の総労働時間が基準となるため、1日8時間を超える勤務時間であっても総労働時間を超えていなければ残業扱いになりません。
例えば、清算期間が1カ月以内である場合は、清算期間内で法定労働時間を超過した労働があった場合に時間外労働手当の支給が必要です。
(時間外労働が発生する場合は、36協定を締結する必要があります)
②労働時間に不足が生じた場合は?
フレックスタイム制の清算期間における実労働時間が不足している場合は欠勤になります。
不足時間の賃金を控除する方法があります。
③遅刻や早退はありえるのか?
フレキシブルタイム内での遅刻や早退の概念はありません。
就業規則でコアタイムを設定している場合は、コアタイム内の遅刻・早退は欠勤控除の対象とされる場合があります。
社内でルールを規定し、予め就業規則に記載する必要があります。
④有給休暇の取り扱いは?
もちろん取得可能です。就業規則等で標準となる1日の勤務時間を「8時間」と設定している場合は「8時間働いた」として取得可能です。
⑤フレキシブルタイム外で勤務する従業員は?
通常の定時制での残業と同じく、会社で管理を行う必要があります。
労働時間への加算や、時間外手当を支払う必要があります。
コアタイム以外のフレキシブルタイムで労働に従事せずに、業務に支障をきたした場合は、業務命令違反として懲戒処分の対象になる可能性があります。
⑥スーパーフレックスタイムとは?
コアタイムがないフレックスタイム制を「スーパーフレックスタイム」といいます。
コアタイムがないことにより出勤・退勤・1日の勤務時間はほぼ完全に労働者の自由になります。
ただし、スーパーフレックスタイム制を導入すると、社内コミュニケーションに注意して環境を整備する必要があります。
⑦全社ではなく、一部の部署や個人でも対応可能か?
可能です。
例えば「本社・営業部・製造部」がある会社で「営業部」のみフレックスタイム制を導入することは可能ですし、「営業部の〇〇」といった個人のみも対応可能です。
その際、就業規則に記載する必要があります。
⑧月の途中で入社・退職があった場合は?
冒頭の①②であった計算式を使い、計算した時間を上限に総労働時間を設定します。
例:4月1日入社5月20日退職の場合(歴日数50日)
40時間×50日÷7=「285.7時間」が上限になり、超えた時間は時間外労働になり割増賃金が必要
になります。
最後に
厚生労働省:令和3年就労条件総合調査によりますと変形労働時間制を採用している企業は全体の「約60%」ほどですが、フレックスタイム制を採用している企業は「約6.5%」と非常に少ない傾向にあります。
採用企業割合が少ない原因として挙げられるのは「取引先との時間が合わない」「勤怠管理が難しい場合がある」など、企業側にとって難しい部分があります。
ただ、フレックスタイム制をうまく活用すると、「残業時間、労働負担の削減につながった」「通勤ラッシュなど勤務負荷が軽減された」「優秀な人材の確保につながった」など、労使ともにメリットが多くあります。
フレックスタイム制を上手に活用し、効率の良い働き方を目指しましょう!!