年俸制とは?導入時に知っておきたい基本知識と社会保険・退職金の注意点

近年、働き方改革や人事評価制度の見直しを背景に、「年俸制」を導入・検討する企業が増えています。

しかし、年俸制には月給制と異なる特徴や注意点があり、正しく設計しなければトラブルの原因にもなります。

本記事では、年俸制に関する基本的な理解から、社会保険・退職金制度の実務的な対応について、押さえておきたいポイントを解説します。

年俸制とは?

年俸制とは、従業員の年間の報酬額をあらかじめ契約で定め、その総額を12分割や14分割して月々支給する給与体系です。

たとえば、年俸720万円であれば、12分割で月額60万円を支給するという形になります。

年俸制といっても、「月給の合計を年俸と呼ぶ」ケースもあれば、賞与込みで年収ベースの支給額を設定する企業もあり、その運用は企業によってさまざまです。

重要なのは、年俸に何が含まれているか(賞与・残業代など)を明確にし、労働契約書や就業規則に記載しておくことです。

年収ベースで給与が決まるため、月給制に比べて成果主義との相性が良く、評価制度と連動しやすいという特徴があります。

年俸制は以下のような職種・業種で多く導入されています。

  • 営業職や管理職など成果を測りやすい職種
  • ベンチャー企業や外資系企業
  • フラットな組織で柔軟な人事制度を志向する企業

しかし、年俸制を導入する際には、社会保険の算定や退職金制度との整合性について、従来の月給制とは異なる点に注意が必要です。

年俸制と月給制の違い

項目 年俸制 月給制
賃金の決め方 年収を基準に決定 月額を基準に決定
評価頻度 年1回の見直しが一般的 年1回または半期ごとに改定
賞与の取扱い 年俸に含まれることが多い 別途支給されることが多い
労働時間管理 必須(年俸でも残業代は原則必要) 必須

特に誤解が多いのが、「年俸制にすれば残業代を支払わなくてよい」という認識です。

これは誤りであり、年俸制でも労働基準法は適用されます。

年俸制における社会保険料の取扱い

年俸制を導入する際に忘れてはならないのが、社会保険料の算定への影響です。具体的には以下の点に注意が必要です。

月額報酬として扱われる

年俸額を12ヶ月で分割して支給する場合、その月額分が「標準報酬月額」の基礎となります。

これに基づいて、健康保険・厚生年金・雇用保険の保険料が決まります。

賞与扱いの支給がある場合

年俸を14分割し、2回分を賞与として支給するケースでは、その「賞与」も社会保険の対象となり、賞与支払届の提出も必要となります。

但し、年俸額に賞与を含み、12分割で支給する場合(賞与として明確に支給額などが取り決めされていない場合)は、すべて月額報酬として取り扱われることになります。

注意点

年俸制=賞与なし、とは限りません。

就業規則や給与規程に「年俸に賞与相当分を含む」かどうか、支給方法を明記することが重要です。

年俸制と退職金制度

年俸制を導入する企業の中には、退職金制度をどう扱うか迷われるケースも多く見られます。

年俸に退職金を含める場合

年俸に退職金相当分を含める場合は、「退職金制度を設けない代わりに、年俸にその分を上乗せしている」という設計になります。

要は在職中に退職金を前払いしているような形となり、月々の給与に含めて支給する形となるため、社会保険料も発生します。

新たに制度を導入する場合は、制度変更とみなされるため、既存従業員に対しては以下が必要です。

  • 就業規則の改定
  • 従業員への丁寧な説明
  • 同意の取得(場合によっては個別同意)

この変更が「労働条件の不利益変更」とされる可能性もあるため、慎重な対応が求められます。

退職金制度を別に維持する場合

年俸制でも、退職金制度を維持することは可能です。

以下のような設計が一般的です。

  • 勤続年数や最終給与をもとに算出
  • 勤続ポイント制などの制度と連動
  • 中小企業退職金共済(中退共)との併用

長期雇用の維持や従業員満足の観点から、退職金制度を維持する企業は少なくありません。

年俸制導入時に押さえておきたいポイント

年俸制を導入する際には、従来の月給制や賞与制度とは異なる点が多く、就業規則・労働契約・賃金体系・社内説明など、さまざまな角度からの整備と配慮が必要です。

以下に年俸制導入時に必ず押さえるべきポイントを記載しております。

  1. 法的整備:労働契約書・就業規則・賃金規程の明確化
  2. 実務運用 :社会保険・税務・給与計算方法の確認
  3. 従業員説明:制度の目的・支給内容・評価制度を丁寧に説明
  4. トラブル防止:残業代や退職金の扱いに関する誤解を防ぐ工夫
  5. 制度設計:評価制度や等級制度とセットでの導入が理想

上記以外にも様々な注意点があります。

まとめ

年俸制は、柔軟な人事制度として多くのメリットがありますが、導入にあたっては「給与」「労働時間」「社会保険」「退職金」といった複数の要素が絡むため、慎重な設計が必要です。

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