賞与とは、毎月固定的に支払われる月例賃金とは別に年に数度支払う一時金のことをいいます。「ボーナス」ともいわれています。
月例賃金とは異なり、本来賞与は支払義務がありませんが、従業員のモチベーション向上のために賞与の制度を設けている会社も多いかと思います。
今回は、賞与の支給要件、一般的な賞与額の決定方法、一般的な支給月等について解説いたします。
目次
支給日在籍要件
賞与の支給については、支給日に会社に在籍していることを要件と定める取扱いが一般的です。
賞与の支給義務は、労働契約上当然生じるものではなく、労働契約締結時の労使の合意によって生じるものであり、このような合意をするかは自由なので、賞与支給を行う場合に一定の条件を付けることも可能なのです。
「賞与対象期間経過後、支給額決定前までに退職した場合の賞与はどうする?」などの問題を避けるためにも、就業規則で支給日在籍要件、計算期間のすべての在籍を要件とする等の規定を設けておくことをおすすめします。
賞与の算定期間に欠勤がある場合
欠勤に応じて賞与額を控除することについて問題はないのでしょうか?
出勤率は、会社への貢献度や労働意欲等を判断する一要素といえますので、欠勤、遅刻・早退を賞与の勤務態度等を査定する際に考慮することは問題ありません。
減額処理を行うときのルールについては、給与規程に明記しておきましょう。
それでは、一定割合のカットではなく、一定の出勤率を支給の要件とする(欠勤が多いので賞与不支給とする)ことができるのでしょうか?
この点、賞与というものはいかなる基準を設けるかは使用者の裁量に任せられており、労働者の出勤率低下の観点から、支給要件として、著しく出勤率の低い者について賞与を支給しないとすることは可能であるといえます。
賞与の算定期間に産前産後休業・育児休業がある場合
産前産後休業(以下、「産休」といいます)は労働基準法第65条、育児休業(以下、「育休」といいます)は育児・介護休業法で制度が規定されていますが、賃金の支払いを義務付けてはいませんので、産休・育休の期間も欠勤として取扱い、減額の要素にすることは可能であると考えます。
ただし、賞与の支給・不支給を決定する際、前述の一定の出勤率を支給の要件とする場合に産休・育休を出勤率算定の際に欠勤として取り扱うことは、従業員が産休・育休を取得しただけで賞与を受けられなくなる可能性が高く、産休・育休を取得する権利を差し控えるような機運を生じさせることから、出勤率においては算定の基礎としない方がよいでしょう。
よって算定期間中の産休・育休期間については、ノーワーク・ノーペイの原則による減額で対応し、その余の就労日がある場合はその日数に応じた金額をきちんと支給すべきです。
なお、育児介護休業法第10条では、「事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」とされており、厚生労働省の指針によると「減給をし、または賞与等において不利益な算定を行うこと」もされています。
休業した日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、「不利益な算定を行うこと」に該当するので注意しましょう。
一般的な賞与額の決定方法
賞与は、就業規則(給与規程)に基づき支給がなされ、その賞与算定方法の基準については、使用者が自由決定することができます。
具体的な決定方法は企業により異なりますが、一般的なものを下記ご説明します。
基本給の〇ヶ月分
「基本給の1.5ヶ月分」「基本給の2ヶ月分」というような基準で賞与額を決定する方法です。
日本企業で古くから採用されている方式です。
【メリット】
- 従業員にとっては賞与額の見通しが明らかでよい
【デメリット】
- 賞与額が年功的になりやすい
- 画一的であり個人の頑張りが反映されないため、従業員のモチベーションアップ・成長につながりにくい
従業員個人の業績評価および査定
従業員の業績を個人単位で細かく評価し、賞与に反映させる方法です。
「売上を上げて業績に貢献した」「業務に関連する資格を取得した」「自己研鑽のため通信教育講座を自主的に受講し修了した」などが評価対象となります。
また、業務上のミスなどマイナス評価も反映し得ます。
【メリット】
- 個人の頑張りが反映されるため従業員は納得感が得られる
- 固定給は一度上げると簡単には下げづらいため、インセンティブとして賞与に加味することで固定給を上げることなく評価を反映できる
【デメリット】
- 従業員にとって賞与額の見通しがつきづらい
なお、前述①の基本給の〇ヶ月分(固定部分)+②の〇ヶ月の範囲で個別の査定(変動部分)を組み合わせるケースも多いです。
ポイント制
あらかじめ等級・役職や人事評価に基づいて付与ポイントを設定しておき、そのポイントに1ポイント当たりの単価を乗じることで、各人の賞与額を算出する方法です。
個々の従業員の貢献度や業績に基づいてポイントが付与され、最終的にこれらのポイントが賞与額に換算されます。
なお、ポイント単価は各期の会社業績や部門業績によって変動するのが一般的です。
(ポイント制のイメージ)
(1)ポイント表作成、(2)賞与原資とポイント単価の決定、(3)社員別の賞与額算出の流れで賞与額を決定します。
「賞与額=個人ポイント×ポイント単価」
個人ポイント:等級と評価係数の組み合わせで設定されたポイント数
ポイント単価:賞与原資÷全社員の合計ポイント
ポイント表イメージ(単位:ポイント)
等級\評価 | S評価 | A評価 | B評価 | C評価 | D評価 |
5 | 160 | 140 | 120 | 100 | 90 |
4 | 150 | 130 | 110 | 90 | 80 |
3 | 140 | 120 | 100 | 80 | 70 |
2 | 130 | 110 | 90 | 70 | 60 |
1 | 120 | 100 | 80 | 60 | 50 |
【メリット】
- 会社業績によってポイント単価を細かく調整しやすいため、あらかじめ算出・決定した賞与原資の中で過不足なく配分をしやすい
【デメリット】
- 社員にとって分かりづらい
一般的な支給月
一般企業の賞与の支給日は会社によって異なります。
一般的には夏季および冬季の年2回に設定されるケースが多く、夏季賞与を7月、冬季賞与を12月とするケースが多いでしょう。
中小企業の賞与額の相場
厚生労働省の調査によると、令和6年夏季賞与については、支給事業所における労働者一人平均賞与額は5~29人規模の事業所では414,515円(事業所規模30人以上は478,814円)(調査産業計)となっています。
また令和6年冬季賞与については、支給事業所における労働者一人平均賞与額は事5~29人規模の事業所では413,277円(事業所規模30人以上は478,373円)(調査産業計)となっています。
出典:毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査):結果の概要
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/30-1a.html
おわりに
夏季賞与の支給日が近づいてきたという企業様も多いのではないでしょうか。
賞与計算や「被保険者賞与支払届」の提出等、賞与に関してお困りのことがあれば、どうぞお気軽に社会保険労務士法人ベスト・パートナーズにご相談くださいませ。