人事異動とは?有効性や関連する法令について解説!

人事異動とは

人事異動とは、企業が命令することによって、社員の勤務地や職務内容などを変更することを言います。

これは、労働基準法などの法律で明確に定義されているものではなく、労働契約上の勤務地・職務内容の決定権限に基づき行われます。

裁判例では、就業規則に定めがあり、勤務地あるいは職務内容を限定する旨の合意がない場合には、企業が労働者の同意なしに勤務地あるいは職務内容の変更を伴う人事異動を命じることが広く認められています。

 

人事異動の有効性

人事異動には、勤務地はそのままに所属する部署や業務内容が変わる「配置転換」や、同じ企業の中で勤務地が変わる「転勤」などがあります。

これらの有効性について、参考となる最高裁判例として、「東亜ペイント事件(最高裁:昭和61年7月14日判決)」が挙げられます。

ここでは、「配置転換(転勤を含む)」の有効性について、判断枠組みが示されました。

 

配置転換の有効性は、次の要件をもとに判断されます。

  1. 業務上の必要性の有無
  2. 不当な動機・目的の有無
  3. 通常甘受すべき限度を著しく超える不利益の有無

以上の要件を踏まえて、配置転換を命じる特段の事情がなければ、権利の濫用として無効とされます。

ここでの「業務上の必要性」は、余人をもって容易に替え難いといった高度の必要性は不要であり、「企業の合理的運営に寄与」する点が認められる限りは、「業務上の必要性」の存在が肯定されます。また、①および②については労働者の立証が難しいため、③が主に争われる論点となります。

 

人事異動に関する法令

育児・介護休業法第26条は、企業が就業場所の変更を伴う配置の変更をしようとする場合に、これにより育児や介護が困難となる男女労働者がいるときは、その育児や介護の状況に配慮することを規定しています。

 

育児・介護休業法第26条

事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。

 

前述の「東和ペイント事件」では、71歳の母親、28歳の妻、2歳の長女と共に居住していたが、それを理由に人事異動を拒否したところ、通常甘受すべき限度を著しく超える不利益は無いとされ、人事異動は有効とされました。

しかし、昨今の考え方としては、育児・介護休業法第26条で定められている「子の養育や家族の介護の状況の配慮」を根拠に、人事異動は無効とされることも考えられます。

人事異動の考え方として参考になる重要判例ではありますが、時代に応じた配慮なども求められます。

特に、育児や介護については毎年のように法改正も行われているように、これまで以上に配慮が求められることが想定されます。

 

人事異動を命じるための要件

人事異動を命じるための要件として、次の3点が挙げられます。

  1. 使用者に人事異動を発する根拠があること(就業規則等の定め)
  2. 勤務地(あるいは職務内容)限定の特約がないこと(雇用契約書、労働契約成立時の合意)
  3. 人事異動が頻繁に行われていること

人事異動を命じる際は、まずはこれらの要件を確認することが望ましいです。

特に①および②の要件に反する場合は、社員の同意を得ずに人事異動を行うことは認められません。

 

限定特約について

勤務地(あるいは職務内容)限定の特約がある場合は、その勤務地(あるいは職務内容)が何らかの事情でなくなるときであっても、社員の同意を得ずに人事異動をすることは認められません。

企業は、一方的に勤務地(あるいは職務内容)を変更する権限がないので、「他の勤務地(あるいは職務内容)への変更」または「一定の条件(退職金の割増など)での退職」を提案し、いずれの提案も拒否した場合に限っては、普通解雇が可能であると考えられます。

勤務地や職務内容を変更せざるを得ない状況であっても、従業員に適切な提案をして選択させることが望ましいと言えます。

 

人事異動の内示

人事異動の内示を伝えるタイミングは、法令上の定めがないため、企業によって異なります。

頻繁に人事異動が行われている企業と、滅多に人事異動が行われない企業とでは、伝えるタイミングも異なることが当然と言えます。

 

まずは、勤務先が変更となるのか、それは引っ越しを伴うのか、これらの観点から伝えるタイミングを決めていただくと良いでしょう。

引っ越しを伴う場合は、異動する2か月前にはお伝えいただくことが望ましいと考えます。

 

伝える際は、個別面談等で話し合っていただきます。他の従業員には伝わらないように注意していただく必要があります。

配置転換の有効性で解説した通り、業務上の必要性や目的をお伝えいただくことが重要です。

 

人事異動を受け入れていただける場合は、書面に署名をいただきます。

口頭だけで済ましてしまうと、後からトラブルとなる可能性があるので、忘れずに署名をいただきましょう。

人事異動を拒否された場合は、配置転換の有効性をもとに、権利の濫用ではないと判断される場合は、業務命令として同意なく人事異動を命じることも可能です。

従業員は、有効な人事異動である業務命令を拒否することはできません。

ただし、ここでの有効性の判断を誤ると、労使紛争に繋がることも考えられますので、専門家である社労士への相談などが有効とされます。

 

また、同意を得て人事異動を命じる場合も注意が必要です。

人事異動に関する説明が不十分な場合や、メリットだけを説明してデメリットを説明しない場合などは、同意を得たとしても、自由な意思による同意とは認められず、人事異動が無効となる可能性があります。

説明をする側が十分だと判断していても、説明を受ける従業員が十分に理解できていない可能性もあるので、注意が必要です。

 

まとめ

人事異動は、従業員の生活にも大きく影響します。

できるだけ早いタイミングで十分な説明を以って内示することが大切です。

そもそも人事異動を命じることができる契約内容になっているのか、不当な目的がないか、慎重に判断することが求められます。

企業運営にとって有効な人事異動のはずが、想定外のトラブルになっては本末転倒です。いま一度読み返していただき、人事異動の判断に役立てていただければ幸いです。

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