皆さまは『賃金支払5原則』をご存知でしょうか。
賃金とは、企業が従業員に対して、従業員が働いた分、労働の対価として支払うものです。
この賃金の支払いについて労働基準法で定められているのが『賃金支払5原則』です。
この五原則には、当たり前と思われるようなこともあれば、実は知らなかった……といった内容もあるかもしれません。
従業員からの信頼にもつながるので、賃金払い関連の法令や注意事項をご確認いただき、正しい賃金支払いができているかチェックしてみましょう。
目次
1.『賃金支払5原則』とは?
労働基準法第24条において、『賃金は(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならない』と規定されており、これを『賃金支払5原則』と呼びます。
通貨払の原則
賃金は原則として、通貨(現金)で支払わなければなりません。
通貨ではないもので支払うのは、価格が不明瞭で換金にも不便であり、弊害を招く恐れが多いため、原則として認められていません。
直接払の原則
賃金は原則として、労務を提供した従業員本人に直接支払わなければなりません。
他者を介して賃金を支払うことは中間搾取につながるため、従業員本人以外の者に賃金を支払うことを禁止されています。
全額払の原則
賃金は原則として、全額を支払わなければなりません。
労働の対価を残りなく従業員に帰属させるため、控除を禁止するものです。
毎月払の原則
賃金は原則として、毎月1回以上支払わなければなりません。
賃金支払の間隔が開き過ぎることによる従業員の生活上の不安を除くことが目的です。
一定期日払の原則
賃金は原則として、一定の期日ごとに支払わなければなりません。
賃金支払日は「翌月15日支払、当月25日支払、翌月末日」といったように定める必要があります。「第3金曜日」や「25~30日の期間内」では毎月の日付が異なるので認められていません。
支払日が一定ではないことによる従業員の計画的生活の困難を防ぐことが目的です。
※5原則のうちどれかを守らなかった場合、罰則として「30万円以下の罰金」が課されますので注意が必要です。
2.『賃金支払の5原則』の例外と対応
賃金支払の五原則は基本的に守らなければならないのですが、例外が存在します。実務上どのように対応すればよいか見ていきましょう。
(1)「通貨払の原則」の例外
多くの会社が賃金を口座振込にて支払っていると思います。
これは本来、通貨払の原則に反しているのですが、本人の同意や労使協定があれば通貨以外での支払いが認められます。
■どう対応すればよい?
口座振込にて支払うことを伝えたうえで、賃金振込先の口座情報を書面で回収することが一般的です。
(2)「直接払の原則」の例外
①使者に支払う場合
使者に対して賃金を支払うことは差し支えないものとされています。
使者とは、社会通念上、従業員本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否かによって判断することとなります。
■どう対策すればよい?
本人が会社に来られない事情がある(病気、入院など)、本人の意思が確認できたうえで配偶者などが会社に給料を受け取りに来るなど、条件が揃ったときは使者として判断しても問題ありません。
しかし、使者であるか否かを区別することは困難な場合もあるため、特別な事情がなければ従業員本人へ直接支払った方が無難です。
②裁判所の決定により賃金が差し押さえられている場合
従業員の賃金が差し押さえられた場合には、債権者が債権の取り立てをすることができるようになっています。
例えば、従業員が金融機関から借金をしていて、これを支払わなかったために金融機関(債権者)が従業員(債務者)を相手に貸金請求の訴訟を提起してその判決をもらい、この判決に基づいて従業員の賃金債権の差押をしたとします。
この場合、差押をした金融機関は直接会社(「第三債務者」)から取り立てることができます(民事執行法155条)。
■どう対応すればよい?
会社はこの差押債権者に賃金を支払わなければならず、その分は従業員に重ねて支払う必要はありません。
但し、賃金のうち4分の3は差押が禁止されています(民事執行法152条)ので、賃金の4分の1までしか差押をすることはできません。
(3)「全額払の原則」の例外
所得税・住民税や社会保険料の本人負担分控除など、法令に別段の定めのあるものは例外として控除しても問題ありません。
気を付けなければならないのは、上記以外の項目で控除を行う場合です。賃金から社宅賃料や積立金などを控除する場合、労使協定を締結する必要があります。
■どう対応すればよい?
従業員の過半数を代表する労働組合や代表者と労使協定を締結すれば問題ありません。
(4)「毎月払の原則」の例外
この原則については例外といえるものがなく、特別な事情があったとしても毎月支払いができないと違反となってしまうのでご注意ください。
臨時で支払われる賃金(賞与や表彰金など)はこれに当てはまりません。
(5)「一定期日払の原則」の例外
賃金支払日が休日で振込等ができないという場合は、支払日を前倒しにするなど日付を変更することができます。
また、労働基準法で定められている出産・急病などにより従業員から費用の請求があった場合には、支払期日前の賃金支払いをしなければなりません。
■どう対応すればよい?
就業規則等に賃金支払日が休日だった場合の内容を定めておくと良いでしょう。
3.賃金のデジタル払い
賃金は現金払いが原則ですが、従業員が同意した場合、銀行口座などへの賃金振込が認められてきました。
キャッシュレス決済の普及や送金手順の多様化のニーズに対応するため、従業員が同意した場合には、一部の資金移動業者の口座への賃金支払いも認められることになります。
今後必要となる可能性もあるので、デジタル払いの注意事項についてご紹介します。
事前にやっておくべきこと
①労使協定の締結
賃金のデジタル払いを事業所に導入する場合には、まずは、雇用主と従業員で労使協定の締結が必要です。
その上で、従業員へ説明を行い、個別の同意を得る必要があります。
②従業員への説明事項
- 受取額は、1日あたりの払出上限額以下の額とする必要があります。
- 口座の上限額は100万円以下です。上限額を超えた場合は、あらかじめ従業員が指定した銀行口座などに自動的に出金されます。
- ATMや銀行口座などへの出金により、口座残高を現金化することもできます。
- 口座残高については、最後の入出金日から少なくとも10年間は、申し出などにより払い戻してもらうことができます。
注意点
- 現金化できないポイントや仮想通貨での賃金支払いは認められません。
- 賃金のデジタル払いは、賃金の支払・受け取り方法の選択肢の1つです。賃金のデジタル払いを導入した事業所においても、全ての従業員の現在の賃金支払い・受け取り方法の変更が必須となるわけではありません。
- 従業員が希望しない場合は、これまでどおり銀行口座などで賃金を受け取ることができます。また、雇用主は希望しない従業員に賃金のデジタル払いを強制してはいけません。
- 従業員本人の同意がない場合や賃金のデジタル払いを強制した場合には、雇用主は労働基準法違反となり、罰則の対象となり得ます。
- 賃金の一部を指定資金移動業者口座で受け取り、その他は銀行口座などで受け取ることも可能です。
まとめ
いかがでしたか?
賃金の支払いに関する法律やその対応策など、意外とご存じでないこともあったのではないでしょうか。
賃金や労務でお困りのことがございましたら、ぜひベスト・パートナーズにご相談ください。