6割弱の従業員が対象に?! 健康診断受診後の対応について

先日、予定よりも大幅に遅れてしまいましたが健康診断を受診し、全項目、正常値ギリギリではありましたが『所見なし』という結果が通知され今年もほっと一安心しつつ、自身の健康についてもう少し目を向けなければと反省するばかりです。

 

さて、皆さんの会社では毎年きちんと健康診断を実施していますでしょうか?

そして、従業員に『所見あり』との結果が出た場合の対応をきちんと把握できていますでしょうか?

 

厚生労働省の『定期健康診断結果報告』によると、定期健康診断で異常の所見があった人の割合は年々上昇の傾向にあり、2022年は58.3%となっています。実に、6割弱の人が大小はあれ何かしら健康上の所見が見受けられる状態となっているのです。

有所見者への対応はもはや特殊な事ではなく、高い確率で起こりうるものとなっています。

 

そこで今回は、健康診断の結果『所見あり』と診断された場合に、会社や従業員が行わなければならない事、行ったほうがいい事を中心とし、そのほか診断後の役所への届け出、書類の保存期間、そしてここ最近話が出ています歯科健診の義務化についてもご説明したいと思います。

 

そもそも健康診断とは?

健康診断とは『労働安全衛生法第66条』に定められているもので、事業者は従業員に対して、法律で定められた項目について医師による健康診断を実施しなければなりません。

従業員に健康診断を受診させることは事業規模を問わず、会社の義務となっており、毎年1回、必ず実施しなければならないこととなっています。

 

そして従業員には、事業者が実施する健康診断を必ず受けなければならないと義務付けられています。

健康診断の対象となる従業員は、雇用形態ごとにそれぞれ、

  • 正社員:全員が健康診断の実施対象者となります。年齢による例外などはありません。
  • パート、アルバイト:週の労働時間が正社員の3/4以上で、1年以上継続して雇用する

場合は、健康診断の対象となります。年齢による例外はありません。

  • 契約社員:1年以上雇用することが見込まれる人、および更新により1年以上雇用されている人で、所定労働時間が正社員の3/4以上の者が対象となります。

年齢による例外はありません。

となっています。

 

なお役員が健康診断の対象になるかどうかは『労働者性の有無』によって判断されます。

取締役や監査役は労働者性がないため、健康診断の実施対象外となり、一方で、部長や支店長などを兼務している役員や執行役員などは、労働者性があるとみなされ、健康診断の実施対象者となります。

 

また、健康診断の実施は会社の義務と定められていますので、その実施にかかる費用については全額『会社負担』としなければなりません。

ただし検査が義務付けられていない項目、わゆる『オプションの検査』については、実施するかしないかは本人の自由となっており、実施を希望した場合その分については従業員本人が自己負担することになります。

 

なお、健康診断は種類・検査項目にかかわらず医療保険が適用されない『自由診療』となります。

よって医療機関ごとに設定されている費用が異なるため、健康診断を受診する場所を決める際には事前に費用を確認することをお勧めいたします。

(診断項目によって料金は異なりますが、大体『8,000円~10,000円程度』が相場となっています。)

 

健康診断を実施しないとどうなる?

労働安全衛生法第66条によって健康診断の実施が義務付けられているにも関わらず、会社がそれに従わず健康診断を実施しない場合は法律違反となり『50万円以下の罰金』が科せられる可能性があります。

ただし、健康診断を実施しなかったら即 罰金が科されるということは考えにくく、健康診断を受けさせていない実態が明らかとなり、労働基準監督署の指導を受けてもそれでも対応しないでいると罰金が科される、という流れになることが一般的です。

 

では逆に、事業主は健康診断を実施し、従業員に健康診断を受けるように言っているにもかかわらず、忙しい等の理由により従業員本人の判断で健康診断を受けていない場合、従業員には何かしらの罰則が科せられるのでしょうか?

 

答えは『No』です。

 

『①』でご説明した通り、労働安全衛生法では従業員に対しても健康診断を受診する『義務』を課しています。

しかし、会社と違いこの義務に違反したとしてもこれに対する罰則は特段定められてはいないのです。

「なぜ?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、こういった場合は法律による罰則ではなく、会社の就業規則に基づいて『懲戒処分』を行う流れとなるため法律による定めは存在していません。

 

実務としましては、いきなり懲戒処分としますと揉める火種となりかねませんので、まずは健康診断を受けるように呼びかけを行い、それでも受けない場合は従業員に対して健康診断は受けることが法律で義務付けられているもので、かつ就業規則でも定められているものとなっており、このまま健康診断を受けない状態が続くと業務命令違反となり懲戒処分の対象となる旨を伝える、といった流れで進めていくとよろしいものと思います。

 

診断の結果『初見あり』があった場合の対応

健康診断の結果が所見なしの場合は特段問題ありませんが、『所見あり』となった場合、会社はどのように対応すべきでしょう?

 

『所見あり(『有所見』など言い方は様々です)』とは健康診断等の結果、なんらかの異常が認められた場合をいい、異常の有無は、一般的に基準範囲を外れているか否かで判断される場合が主です。

しかしご存じのとおり、一概に『所見あり』といってもその度合いは様々です。

健康診断を受けた医療機関によってもその区分は違っておりはっきり定義することはできませんがおおよそ『医療上の措置不要』『要観察』『要医療』に区分されるものとなります。

重大度のレベルは『医療上の措置不要<要観察<要医療』となります。

 

健康診断の結果が届いたら、事業者は健康診断の受診者全員に所見の有無にかかわらず健診結果を文書で確実に本人に通知するよう定められています。

そして事業者には健診項目に異常所見がある従業員に対して、産業医・保健師による『保健指導』の実施をするように努力義務が課せられています。

健康診断の結果によっては、現時点では就業上の措置が必要ない場合であっても、放置することで将来的に健康状態が悪化することも考えられます。

従業員が自身の健康状態を把握し、改善に向けた自発的な行動を取るよう促すためにも、産業医や保健師による保健指導の実施は大切なものとなりますので、是非とも実施することをお勧めいたします。

 

加えて事業者は、健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員に対しての就業上の措置について『3ヶ月以内に産業医や医師等の意見』を聞かなければいけないと定められています。

なお産業医の選任義務のない労働者50人未満の事業場の場合も意見を聞くことが定められていますので注意が必要です。

この場合は産業医に単発で依頼するか、面接指導の相談や健康相談窓口の開設を行っている『地域産業保健センター』を活用すべきでしょう。

地域産業保健センターは原則、利用料は無料のため、産業医がいない会社では意見聴取の体制を整えるために積極的に活用するとよろしいものと思います。

 

意見聴取を行う際には適切に行うためにも、必要に応じ従業員の労働環境等の情報を産業医や医師等に伝える必要があります。提供する代表的な情報は以下の通りです。

『作業環境・労働時間・労働密度・深夜業の回数および時間数・作業態様・作業負荷の状況・過去の健康診断の結果等に関する情報・職場巡視の機会 等』

 

また、健康診断の結果のみでは従業員の身体的または精神的状態を判断するのが難しい場合は、産業医や医師等と従業員を直接面接させる機会を設けることも重要なことです。

 

医師等の意見聴取を行った後は、その意見を勘案し必要があると判断した場合には、従業員の就業場所の変更や作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じていきます。

 

なお事後措置に対する医師等の意見は

  1. 通常勤務:通常勤務のままでよいもの
  2. 就業制限:勤務に制限を加える必要のあるもの
  3. 要休職:勤務を休む必要があるもの

に区分されます。

 

『就業制限』の内容は、勤務による負荷を軽減するため、出張の制限や時間外労働の制限、労働負荷の制限、昼間勤務への転換等の措置が含まれます。

さらに『要休業』は、療養するために休暇・休職等を取り、一定期間勤務させない措置を講じることです。

有所見者に対してどのような措置が適切か医師等に聞き、必要な対策を講じていくことが重要です。

 

なお、講じる措置を『就業制限』または『要休職』とする場合は、まず衛生委員会等へ『報告』を行い、そして対象の従業員からも意見を聴取した後に措置を決定することとなります。

措置が決定したら産業医にその旨の報告を行い、その後に措置の実施を行うこととなりますので、この流れを間違わないよう勧めていくことも重要ですのでご注意ください。

 

以上が、有所見者がいた場合に会社が行う必要がある対応でありましたが、では逆に所見ありと言われた従業員はどのようなことを行ったらいいのでしょうか?

 

当然のことながら要医療や要再検査、要精密検査と診断された場合は速やかに『二次検査』を受けるべきです。

受診先は『健康診断を受けた医療施設、かかりつけ医や近所のクリニック等、総合病院や大学病院』のいずれかがよろしいかと思います。

 

二次検査にかかった費用については、基本的には受診者側(従業員側)の負担となりますが、健康保険が適用されることとなります。

 

なお、二次検査については要件に該当すると労災保険から『二次健康診断等給付』を受けることができます。

『二次健康診断等給付』とは、対象者に該当すれば、健康診断から3ヶ月以内に、労災病院もしくは都道府県労働局長が指定する病院・診療所で直接受診することにより、指定の検査や医師・保健師による特定保健指導(栄養、運動、生活)を無料で受診することができる制度となっており、自己負担費用を出さずに二次検査を受けることができる制度となります。

 

そして、所見ありではあるが再検査等までとはならなかった『医療上の措置不要』や『要観察』であっても、そのまま放置せず早期に『二次検査』を受けることをお勧めします。

知ってのとおり、早期発見により症状悪化を抑えられる傷病はたくさんあります。

三大疾病の『がん、心疾患、脳血管疾患』は急に発生するものではなく何かしらの小さなサインが体のどこかに発生するものです。

このようなサインを見落とさないためにも、ささいな所見であっても『二次検査』を受けることは大切なものと思います。

 

書類の保存期間、役所への提出物について

健康診断実施後は有所見者への対応も重要ではありますが「健康診断結果の保管」と「健康診断結果の報告業務」も大変重要な義務となっています。

具体的にどのような義務を果たす必要があるのか、以下でご説明いたします。

 

1)健康診断結果の保管義務

会社には、従業員の健康診断結果を保管する「保管義務」があります。

保管期間は検査結果の個人表が作成されてから『5年間』、その間は適切に保管をする必要があります。

さらに、検査結果を保管するにあたっては従業員本人から承諾を得る必要がありますが、こちらについては健康診断結果の保管に関する取り決めとして就業規則へ盛り込んでおくことで手間が省けます。

 

2)健康診断結果の労基署への報告義務

50人以上の従業員を常時雇用している会社は、健康診断を行った後、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ健康診断結果を報告しなくてはなりません。

なお、ここでいう「常時雇用している従業員数」とは、労働時間の長短関係なくアルバイト・パート社員を含めた従業員数を指します。

つまりは健康診断を受信した従業員が50人未満であっても常態として従業員数が50人以上となっていれば、報告義務があることとなりますので注意が必要です。

 

なお、義務ではありませんが、健康診断の結果を通知した従業員に対して自分自身においても書類を毎年の推移が分かるようにきちんと保管する旨をお伝えすることも大切です。

健康診断を受けたきりにしては何の意味もありません。

毎年の体の変化を本人自身が見比べることによって健康の保持増進を図るためにも、従業員自身が書類を保管し続けることはとても重要なことです。

 

これから全企業で義務化? 歯科健診について

現在『有害な業務(塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄りん、その他歯またはその支持組織に有害な物のガス、蒸気または粉じんを発散する場所における業務)』に従事する労働者以外については、歯についての健康診断は義務化されておりません。

そのため、実施している企業は少ないのが実状です。

 

しかし歯科・医科における重要性を鑑み、歯科健診についても『国民皆歯科健診』として、企業での実施を義務化する動きがここ近年活発となっています。

 

2022年度の『骨太の方針』で、年代関係なく国民全員が定期的に歯科健診を受けることを目標とする『国民皆歯科健診』制度の検討が発表されました。

 

現在、乳幼児から高校生までのお子様に対しては、各自治体や保育所・幼稚園、学校において歯科健診の実施が義務付けられています。

しかし、大人の歯科健診は上記の「有害な業務」に従事する場合を除き受診の義務はなく、日本歯科医師会の2020年の調査によれば、日本で歯科に通っている人は約44%(治療中10%・歯の定期チェックを受けている人34%)にとどまっているのが現状です。

歯や口の健康は全身の健康にも重要であるため、国民皆歯科健診では、年代関係なく国民全員が定期的に歯科健診を受けることを目標としています。

 

政府は、国民皆歯科健診の制度の『2025年導入』を目指しており、具体的な時期や仕組みについては今後定かになっていくものと思われます。

 

もし国民皆歯科健診が導入された場合、従業員に対して毎年の歯科健診を実施する義務がほぼ全ての企業に生じるものと考えられ今後の動向が注目されるところです。

 

終わりに

いかがでしたでしょうか?

健康診断は受けたら終わりというわけではなく、その結果を会社と本人が今後にどう活かしていくかということがとても重要となります。

そして、繰り返しとなりますが対象者となる従業員全員に健康診断を受けさせることは会社の義務であり、対象者となる従業員については健康診断を受けることが義務となっていますので必ず実施・受診することが非常に大切なこととなります。

 

仮に健康診断を実施していない状態の時に、労災事故等が発生したりしますと、

健康診断を受けさせていない事をもって『送検』までされることも十分にあります。

 

また、健康診断の受診を拒否した従業員をそのまま放置し、その後に健康に異常が生じた場合は、安全配慮義務を怠ったとして会社側が損害賠償を請求される可能性さえあるのです。

 

事が起きてからではすでに手遅れというケースも多々あります。

自社の健康診断の実施状況、診断後の対応について今一度見直してはいかがでしょうか?

そして、もし健康診断の実施方法やその後の対応についてお困りごとがある場合は、お気軽に社会保険労務士法人ベスト・パートナーズにお問い合わせいただけますと幸いです!

 

※弊所では、労働トラブル等について、会社経営者様からのご相談(会社側のご相談)のみをお受けしております。

利益相反の観点から、従業員・労働者側からのご相談はお受けしておりませんので、予めご了承ください。

 

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