定年などで退職する60歳以上の社員を、引き続き嘱託として継続再雇用するようなケースはよくあると思います。
この場合、社会保険の手続きはどうすればよいでしょうか?
同日得喪
嘱託として再雇用後の給与は、再雇用前よりも下がることが多いかと思います。
この場合に、従前の給与に応じた高い社会保険料を納付するとなると、従業員にとっても会社にとっても負担となります。
そこで、退職後に継続再雇用(※)された場合、事業主が該当者の『被保険者資格喪失届』および『被保険者資格取得届』を同時に年金事務所へ提出することにより、再雇用された月から、再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に決定し、被保険者と事業主が負担する社会保険料を下げることができる手続きがあります。
この手続きを同日得喪といいます。
継続再雇用により給与が下がり、標準報酬等級が現在よりも下がることが確認できたら、同日得喪の手続きを検討してみてください。
※退職後継続再雇用とは、1日も空くことなく同じ会社に再雇用されることをいいます。
書類の記載方法について
まず、『被保険者資格喪失届』は通常どおりの記載方法で構いません。
「喪失日」は退職日の翌日、「喪失原因」は「退職等(令和 年 月 日)」を選択し退職日を記載します。
続いて『被保険者資格取得届』についてですが、「報酬月額」は継続再雇用後の月の給与額を記載します。
次がポイントなのですが、「備考」のうち「4.退職後の継続再雇用者の取得」を選択します。
添付書類について
- 「就業規則のうち定年退職の箇所の抜粋」や「退職辞令」等の写し(退職したことがわかる書類)
- 「再雇用後の雇用契約書」や「再雇用後の労働条件通知書」等の写し(継続して再雇用されたことが客観的に判断できる書類)
を添付します。
なお、法人の役員等が対象の場合は、
- 「役員規程」「取締役会の議事録」等の写し(役員を退任したことがわかる書類)
- 「再雇用後の雇用契約書」や「再雇用後の労働条件通知書」等の写し(退任後継続して嘱託社員として再雇用されたことがわかる書類)
を添付します。
もし上記書類の用意が難しい場合は、「事業主の証明(退職日、再雇用日が記載されているもの)」を作成のうえ添付してください。
※日本年金機構ホームページより抜粋
協会けんぽの事業所は、年金機構(管轄の年金事務所)へ『被保険者資格取得届』『被保険者資格喪失届』および上記添付書類を提出してください。
健康保険組合の事業所や、厚生年金基金に加入している事業所は、当該健康保険組合、基金へも同様の手続きが必要となります。
健康保険組合・基金独自の手続き書類がある可能性がありますので、詳細は当該健康保険組合・基金へお問い合わせください。
なお、手続きが終了すると新しい健康保険証が届きます。古い方の保険証は従業員から回収のうえ、返却しましょう。
同日得喪のメリット:従業員・会社ともに社会保険料の負担が減る
同日得喪の手続きは必ずしないといけないわけではありません。
雇用関係が続くわけなので、同日得喪の手続きを取らずに随時改定(月額変更届)に該当するのを待って手続きをすることも可能です。
ただし、随時改定は
- 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
- 変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
- 3カ月とも支払基礎日数が17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上である。
上記①~③すべての要件を満たす必要があります。
また、改定のタイミングは、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4カ月目の標準報酬月額からとなります。
例えば、継続再雇用により4月に支払われる給与から金額下がり、かつ上記①~③を満たした場合は、7月から標準報酬月額が改定され社会保険料が変更となります。
この点、同日得喪はただちに4月から標準報酬月額が変更となるため、随時改定より3ヶ月分早く社会保険料を下げることができます。
少しでも早く社会保険料の負担を少なくしたい!という場合は、同日得喪の手続きを取ることをおすすめします。
同日得喪のデメリット:厚生年金の受取額・傷病手当金に影響あり
標準報酬月額が下がるわけなので、将来の厚生年金の受取金額は、従前の標準報酬月額での計算より少なくなります。
また、健康保険の傷病手当金を受給することになった場合にも影響があります。
再雇用後の期間にかかる傷病手当金は、支給開始日以前12カ月間の標準報酬月額をもとに給付額の計算が行われることになるため、やはり従前の標準報酬月額での計算よりは少なくなります。
おわりに
65歳までの雇用確保が義務となり(高年齢者雇用確保措置)、定年後の継続雇用制度を導入されている事業所様も増えているかと思います。
同日得喪のメリットとデメリットを正しく理解して、必要に応じて手続きを取ってください。