毎年、年金制度については改正が行われますが令和7年度についても、6月13日に「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」として改正がありました。
「国民年金が65歳までになる」「標準報酬月額の等級の上限があがる」「年金の受給開始が65歳よりも遅くなる」など、年金については、いろんな予想がテレビなどでも飛び交います。
やはり、老後の生活の基盤として必要なものであり、また、人生設計にも関係してくるため関心のある内容であります。
では、今回の改正ではどのような見直しがあったのでしょうか。ご紹介させていただきます。
被用者保険の適用拡大
①短時間労働者の適用要件のうち、賃金要件を撤廃する
現在、特定適用事業所の短時間労働者の適用条件の1つとして、所定内賃金月額8.8万円以上という要件がありますが、こちらは3年以内に撤廃となります。
最低賃金が上昇しており、週所定労働時間20時間以上の要件を満たすのであれば、時給1,016円以上であると月額88,000円以上を満たすこととなります。
現在の全国平均賃金は1,055円であり、今年の最低賃金の上げ幅もさらに上昇の予定で、全国平均でも1,100円台となる予定です。
来年・再来年とさらに最低賃金が上がれば、すべての労働者が時間を満たせば賃金も満たす状況となり、月額賃金の設定の意味がなくなります。
②特定適用事業所の拡大
現在、企業規模要件としては、社会保険被保険者が50名以上在籍している事業所が特定適用事業所として認定されています。
この要件についても、令和9年以降、段階的に規模人数を少なくしていき、令和17年に向けて撤廃していきます。
また、個人事業所については、5人以上の従業員を使用する事業所のうち、一部の業種を除いて非適用とされています。
こちらについても、令和11年に適用とすることとなりました。
③保険負担割合の調整措置
今後、小規模な事業所も適用拡大の対象となり、短時間労働者の取得が必要な従業員が増えてきます。
ただ、一部の従業員については、自身で保険料等の負担が発生することを避けるため、働き控えもでてきます。
今まで適用事業所となった事業所以上に、小規模な事業所で就業調整を行われることは影響が大きいです。
そのため、一定期間、社会保険料の負担を軽減することで就労調整を減らしてもらおうという、支援的な経過措置を設ける予定です。
やはり人材不足の今、既存の従業員に今まで通りの時間で就労してもらえることが望ましいです。
措置を利用して続けてもらえるのなら、ぜひとも活用すべきです。
在職老齢年金制度の見直し
厚生年金保険に加入しながら厚生年金を受給する場合、(厚生年金)基礎月額と収入(標準報酬月額)の合計額により、一定額を超えると年金が支給停止となります。
現在、この基準額は50万円(実際の支給停止額は、賃金・物価により計算の上、毎年改定)ですが、こちらを62万円に引き上げます。
こちらも、年金が減らされてしまうのであればと、働き控えがありましたが、人材不足の今は、経験を積んできた人たちにも、どんどん就労を続けてほしいという事業所も沢山あります。
支給停止額が上がれば、65歳を過ぎても、もう少し働こうという人が増えるかもしれません。
遺族年金の見直し
遺族年金についても、何点か改正となる点があります。
昔の制度そのままとなっており、基本が「働く男性と専業主婦プラス子供」という家族を基に考えられているところがあります。
そのため、女性が受給しやすい、女性のみの加算がある、若い女性は有期年金などの複雑なルールがありました。
今は、女性も働いている人が増えてきています。そのため、基本的には有期(5年)での給付とする、性別での要件をなくすといった見直しが行われました。
また、子に対する支給要件も複雑で子自身の理由に関係のないところで支給停止となる場合があったところを、受給できるようにするとされています。
基本的には、子供も含め、遺族年金は有期年金となります。
厚生年金保険の標準報酬月額の上限の引き上げ
現在、65万円等級が上限ですが、今後、段階的に上限の引き上げを行います。
まずは令和9年9月に68万円、令和10年9月に71万円、令和11年9月に75万円が上限となります。
保険料の負担も増えますが、もちろん、給付額にも反映します。実際の賃金がかなり高かった人にも、本来の賃金に応じたものに近づくようになります。
また、厚生年金制度全体の財政が改善を図れるようになり、賃金が高い人だけでなく年金額の低い人も含めた全体の給付水準も底上げになるとされています。
被用者適用拡大と併せ、保険適用される被保険者の範囲や、標準報酬月額の適用となる上限が拡大されることにより、保険料のの徴収が増え財源が確保されることにより、将来の給付額にも反映され、少しでも生活の基盤となる年金の底上げにつながります。
私的年金制度の見直し
私的年金制度の一つとして「iDeCo」制度への加入があります。
企業型確定拠出年金制度のない会社に勤務する場合や、制度がある会社に勤務する場合でも、一定の金額内で公的年金等の上乗せとして資産形成のための上乗せ年金として利用ができる制度となっています。
iDeCoについても、加入者の要件、掛金額、受給開始時期など何度か改正が行われ、資産形成の機会が広がってきていますが、更に定年年齢の引き上げなどによ就労の期間が延長される現況にあわせ、iDeCoへの拠出期間を継続することを認めるように見直しがされます。
年金受給者への加算の見直し
晩婚化の影響もあり、子を養育中の老齢年金受給者も増えています。
子を養育しながら年金を受給している人への支援を強化するため、加給年金の額が引き上げとなります。
また、障害年金・遺族年金について、現在は基礎年金に対して子の加算がありますが、厚生年金についてもこの加算額が創設されます。
また、併せて女性の社会進出が進み、夫婦共働き世帯が増えているため、配偶者に対する加算額についても引き下げへの見直しが図られます。
まとめ
年金制度については、受給額のもととなる財政や、受給者の生活の基盤となり国民の生活に直結することもあり、定期的に改正が行われます。
そのため、自分自身にどのような影響があるのか、制度が複雑すぎてわかりにくいです。
また、事業主や労務関連の担当者にとっても、自社が保険加入の対象となるのか、どの従業員が保険加入をする必要があるのか、どの賃金額の人たちの保険料が引き上げとなるのか、準備も必要なためわからないと放置しておくことはできません。
頻繁にある年金の法改正で、制度・準備にお困りであれば、年金の専門家である社会保険労務士法人ベスト・パートナーズへ、ぜひ、ご相談ください。
どんな些細な質問でも構いません。改正となる内容について、貴社で必要となる準備内容についてなどご案内させていただきます。いつでもご連絡お待ちしております。