近年、日本では労働人口の減少に伴い、外国人労働者の受け入れが急速に進んでいる。
厚生労働省によると、2024年時点で日本国内で働く外国人労働者数は約200万人を超えており、その多くが製造業、介護、飲食業などの人手不足が深刻な分野で活躍している。
こうした状況の中で、外国人労働者にも日本人と同様に社会保険および厚生年金の加入義務が生じるが、その仕組みや手続き、将来的な給付に関して十分に理解されていないことも少なくない。
本稿では、外国人労働者に適用される社会保険制度と厚生年金制度について、その概要、加入要件、給付内容、脱退一時金、二重加入問題、各国との社会保障協定の有無などを中心に解説する。
社会保険とは
社会保険とは、疾病、障害、失業、老齢、死亡などの生活上のリスクに備えるための公的保険制度であり、日本では主に以下の五つに分類される。
- 健康保険(医療保険)
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
このうち、外国人労働者にも適用されるのは原則として日本人と同様である。
ただし、在留資格や労働条件により一部の保険に加入しないケースもある。
健康保険と厚生年金保険の加入義務
外国人であっても、日本国内の企業に雇用されている場合には、原則として「被用者保険」(健康保険と厚生年金保険)に加入しなければならない。
これらは企業と労働者が保険料を折半で負担する仕組みであり、労働時間や契約形態によってはパートやアルバイトであっても加入対象となる。
- 健康保険は、医療費の自己負担を3割に抑えたり、出産育児一時金、傷病手当金、出産手当金などの給付が受けられる制度である。
- 厚生年金保険は、老後の年金、障害年金、遺族年金などを給付する制度である。
雇用保険・労災保険
外国人労働者も、週20時間以上の労働が見込まれる場合には、雇用保険の対象となる。
失業時に給付を受けるためには、一定の被保険者期間などの条件を満たす必要がある。
また、労働災害が発生した場合には、労災保険によって治療費や休業補償が支払われる。
脱退一時金制度
厚生年金は老後に受給できる年金制度であるが、短期で帰国する外国人労働者にとっては、保険料を納めても実際に年金を受給できない場合がある。
このため、日本の制度では、保険料を一定期間以上納めて帰国した外国人に対し、「脱退一時金」が支給される制度が設けられている。
- 脱退一時金は、原則として帰国後2年以内に請求する必要がある。
- 支給額は保険料の納付期間や平均報酬額に基づいて計算される。
- ただし、脱退一時金を受け取った場合、それまでの保険期間は将来年金受給資格に通算されなくなる。
社会保障協定
外国人労働者の中には、日本の制度に加入する一方で、自国の社会保障制度にも加入義務がある者もおり、「二重加入」の問題が生じることがある。
これを解消するために、日本は複数の国と「社会保障協定」を締結している。
この協定により、
- 保険料の二重払いを防止できる
- 年金の通算が可能となる(最低加入期間を満たすために、日本と相手国の保険加入期間を合算できる)
たとえば、アメリカ、ドイツ、韓国、フランス、フィリピンなどとの間では、社会保障協定が結ばれており、該当者は必要に応じて申請手続きを行うことで適用を受けられる。
実務上の課題
実際の現場では、外国人労働者が社会保険や厚生年金の仕組みを十分に理解していないことも多く、企業側が丁寧に説明する必要がある。
また、企業が意図的に加入を怠る「未加入問題」も報告されており、行政の監督強化が求められている。
制度の適用判断には、在留資格、労働契約、勤務時間など多くの要素を総合的に判断する必要がある。
おわりに
外国人労働者が日本で安心して働き、生活を築いていくためには、社会保険や年金といった社会保障制度への適切な加入が不可欠である。
制度の複雑さゆえに、労働者自身の理解だけでなく、企業側の説明責任も重要となる。企業側は専門家のサポートを受けながら対応することも一つの手である。
今後も多様な背景を持つ外国人の増加が予想される中、制度のさらなる整備と情報提供の充実が求められる。