特別支給の老齢厚生年金の制度、受給

老齢厚生年金は、厚生年金保険の被保険者期間を有する者に対して、原則として65歳から、老齢基礎年金に上乗せして支給される報酬比例の年金です。

昭和60年の改正により老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳とされましたが、いままでの法律(旧法)の60歳からいきなり65歳に引き上げると国民に大きな不利益を与えることとなるので、経過措置として、60歳から65歳まで特別に支給する、いわゆる「特別支給の老齢厚生年金」を支給することとしました。

今回はこの特別支給の老齢厚生年金について解説していきます。

特別支給の老齢厚生年金の概要

まず初めに、この特別支給の老齢厚生年金ですが、支給開始年齢を平成6年改正及び平成12年改正により段階的に引き上げ、最終的に、廃止されることとなっております。

その段階的な引き上げについては、下記の図を参照ください。

  • 平成6年改正

平成6年改正では、特別支給の老齢厚生年金のうち、定額部分の支給開始年齢を生年月日に応じて段階的に引き上げ、報酬比例部分の額のみの特別支給の老齢厚生年金に切り替えることとしました。

<日本年金機構HPより>

  • 平成12年改正

平成12年改正では、報酬比例部分の額のみの特別支給の老齢厚生年金について、その支給開始年齢を段階的に引き上げて、特別支給の老齢厚生年金を廃止することとしました。

<日本年金機構HPより>

なお、一定の障害者や厚生年金保険の長期加入者については、報酬比例部分と定額部分とを合わせた額の特別支給の老齢厚生年金を支給する特例が設けられています。

支給要件

続いて、支給要件についてはどのようになっているのでしょうか。

特別支給の老齢厚生年金を支給するためには、下記の要件を満たしている必要があります。

  • 男性の場合、昭和36年4月1日以前に生まれたこと。
  • 女性の場合、昭和41年4月1日以前に生まれたこと。
  • 老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。
  • 厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。
  • 生年月日に応じた受給開始年齢に達していること。

 

年金額

年金額についても解説していきます。

①報酬比例の部分と定額部分とを合わせた額の老齢厚生年金の額は、次の通りです。

老齢厚生年金の額=報酬比例部分+比例部分の額+(加給年金額)

②報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金の額は、次の通りです。

老齢厚生年齢の額=報酬比例部分の額

③加給年金額の加算

①60歳ないし64歳から定額部分の支給を受ける者

報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金には、加給年金額は加算されず、定額部分の支給開始年齢に達した当時、加給年金額の要件を満たしているときは、その年齢に達した月の翌月から加給年金額が加算されます。

②65歳に達するまで報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金の支給を受ける者

報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金には、加給年期額は加算されず、65歳に達して本来支給の老齢厚生年金の受給権を取得した当時、加給年金額の要件を満たしているときは、その月の翌月から加給年金額が加算されます。

(※加給年金の支給要件を下記に簡単に説明いたします。

老齢厚生年金の受給権者が老齢厚生年金の額の計算の基礎となる被保険者期間の

月数が240月以上となり、その権利を取得した当時、

  1. 65歳未満の配偶者
  2. 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子
  3. 20歳未満で障害等級1級または2級に該当する障害の状態にある子

の生計を維持していた者が加給年金額の対象者となります。)

 

支給開始年齢

続いて、支給開始年齢になります。

この支給開始年齢は年齢・性別・実施機関の事務区分により異なり、少々複雑となります。

それぞれ、下記の表にてご確認ください。

(1)

  • 男子又は第2号~第4号女子であって昭和16年4月1日以前に生まれた者
  • 第1号女子であって昭和21年4月1日以前に生まれた者

⇒60歳に達した時から65歳に達するまでの間、報酬比例部分と定額部分とを合わせた額の老齢厚生年金が支給されます。

(2)

  • 男子又は第2号~第4号女子であって昭和16年4月2日~昭和24年4月1日までの間に生まれた者
  • 第1号女子であって昭和21年4月2日~昭和29年4月1日までの間に生まれた者

⇒60歳に達した時から報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金を支給し、生年月日に応じて61歳ないし64歳に達した時から報酬比例部分と定額部分とを合わせた額の老齢厚生年金が支給されます。

 

支給開始年齢①

生年月日 支給開始年齢
男子・第2~第4号女子 第1号女子 定額部分 報酬比例部分
S16.4.2~S18.4.1 S21.4.2~S23.4.1 61歳  

60歳

S18.4.2~S20.4.1 S23.4.2~S25.4.1 62歳
S20.4.2~S22.4.1 S25.4.2~S27.4.1 63歳
S22.4.2~S24.4.1 S27.4.2~S29.4.1 64歳

 

(3)

  • 男子又は第2号~第4号女子であって昭和24年4月2日~昭和28年4月1日までの間に生まれた者
  • 第1号女子であって昭和29年4月2日~昭和33年4月1日までの間に生まれた者

⇒60歳に達した時から65歳に達するまでの間、報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金が支給されます。

(4)

  • 男子又は第2号~第4号女子であって昭和28年4月2日~昭和36年4月1日までの間に生まれた者
  • 第1号女子であって昭和33年4月2日~昭和41年4月1日までの間に生まれた者

⇒生年月日に応じて61歳ないし64歳に達した時から報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金が支給されます。

 

支給開始年齢②

生年月日 支給開始年齢
男子・第2~第4号女子 第1号女子 定額部分 報酬比例部分
S28.4.2~S30.4.1 S33.4.2~S35.4.1   61歳
S30.4.2~S32.4.1 S35.4.2~S37.4.1 62歳
S32.4.2~S34.4.1 S37.4.2~S39.4.1 63歳
S34.4.2~S36.4.1 S39.4.2~S41.4.1 64歳

 

(※第1号~第4号の区分について下記にてご確認ください。

  1. 第1号厚生年金被保険者:下記以外の厚生年金保険の被保険者(民間被用者等)
  2. 第2号厚生年金被保険者:国家公務員共済組合の組合員たる厚生年金保険の被保険者
  3. 第3号厚生年金被保険者:地方公務員共済組合の組合員たる厚生年金保険の被保険者
  4. 第4号厚生年金被保険者:私学教職員共済制度の加入者たる厚生年金保険の被保険者)

 

障害者・長期加入者等の特例

最後に障害者・長期加入者等の特例を説明いたします。

障害者・長期加入者等は、支給開始年齢の引き上げに伴い本来であれば定額部分の支給対象とならない世代であっても、一定の障害者や、厚生年金保険に長期加入していた者(長期加入者)については、報酬比例部分と定額部分とを合わせた額の老齢厚生年金を支給することとされています。

障害者、長期加入者の順に説明していきます。

(1)障害者の特例

特別支給の老齢厚生年金の受給権者が

  1. 報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金の受給権者であること
  2. 厚生年金保険の被保険者でないこと
  3. 傷病により障害等級(1級~3級)に該当する程度の障害の状態にあること(その傷病が治らない場合、その傷病に係る初診日から起算して1年6か月を経過した日以後においてその傷病により障害状態にあること)

上記①~③のいずれにも該当するときは、報酬比例部分と定額部分とを合わせた額を老齢厚生年金の額とする特例の適用を請求することができます。

この特例の適用の請求があったときは当該請求があった月の翌月から報酬比例部分と定額部分とを合わせた額に年金額を改定します。

しかし、この特例の制度を知らなかったり後から知ったりした場合、年金額が本来支給される額より低額になってしまいます。

そこで、次の①~③のいずれかに該当するときはそれぞれに定める日に請求があったものとみなし、その翌月から遡って年金額が改定されます。

  特例の適用を請求することができる場合 請求があったものとみなす日
特別支給の老齢厚生年金の受給権者となった日において、被保険者でなく、かつ、障害状態にあるとき(障害厚生年金等を受けることができるときに限る) 特別支給の老齢厚生年金の受給権者となったと日
障害厚生年金等を受けることができることとなった日において、特別支給の老齢厚生年金の受給権者であって、かつ被保険者でないとき 障害厚生年金等を受けることができることとなった日
被保険者の資格を喪失した日(引き続き被保険者であった場合には、引き続く被保険者の資格を喪失した日)において、特別支給の老齢厚生年金の被保険者であって、かつ、障害状態にあるとき(障害厚生年金等を受けることができるときに限る) 被保険者の資格を喪失した日

この特例の注意点は、受給権者からの請求がなければ改定されないという点です。

もし該当しているのであれば、請求をするようにしましょう。

(2)長期加入者の特例

特別支給の老齢厚生年金の受給権者が、その権利を取得した当時、

  1. 報酬比例部分の額のみの老齢厚生年金の受給権者であること
  2. 厚生年金保険の受給権者でないこと
  3. 厚生年金保険の被保険者期間が44年以上であること

上記①~③のいずれにも該当するときは、当該厚生年金の額は、報酬比例部分と定額部分とを合わせた額となります。

こちらは障害者の特例とは異なり、上記の要件に該当していれば、請求がなくとも改定されます。

 

まとめ

特別支給の老齢厚生年金については以上になります。

非常に複雑でわかりにくい部分も多いかと思います。

もし、何かわからない点や不明点があれば、弊所、社会保険労務士法人ベストパートナーズにお気軽にご連絡ください。

 

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