定時決定や随時改定という言葉を聞いたことはありますか。
もしかしたら、算定や月変といった言葉のほうがなじみ深いかもしれません。
それぞれ算定のことを定時決定、月変のことを随時改定と呼びます。
今回は、定時決定と随時改定について、基本的なことをお伝えしていきます。
目次
定時決定や随時改定がある背景
では、そもそも、なぜ定時決定や随時改定といったものがあるのでしょうか。
毎月、皆さんは健康保険料や厚生年金保険料、(40歳以上65歳未満の方だと)介護保険料といった保険料を納めています。
その保険料の額は報酬(給料)によって決まり、報酬の高低によってそれに見合った保険料を納めています。
しかし、報酬額は昇給や降給などで年々変動します。
例えば、今まで高い報酬を得ていた人が、降給等により報酬が減ったとします。
それにもかかわらず、高い保険料を納め続けるのはどうでしょうか。このような場合、その報酬に見合った保険料に調整されなければ不合理ですよね。
逆に、昇給したことで、今まで納めていた保険料が報酬と見合わなくなれば、その報酬に見合った額を納めなければなりません。
このように報酬の高低によって見合った保険料に調整をするために、定時決定や随時改定があるのです。
因みに、その保険料の計算には、標準報酬月額というものが用いられています。
標準報酬月額とは報酬をいくつかの幅(等級)で区分し、仮の報酬月額(標準報酬月額等級区分表)に当てはめて決められます。
報酬は、この標準報酬月額の算定の元となるもので、その名称を問わず、労働者が労働の対象として受けるものをいいます。
金銭に限らず、現物で支給される食事や住宅、通勤定期券も報酬に含まれます。下記の表で報酬となるもの・ならないものをまとめたので、参考にしてみてください。
定時決定とは
実際に受ける報酬とすでに決められている標準報酬月額が大きくかけ離れないよう、毎年1回、報酬月額を届け出て、その方の標準報酬月額を決定します。
これを「定時決定」といい、その届出を算定基礎届といいます。
算定基礎届は原則として、7月1日~7月10日までに提出します。
決められた標準報酬月額はその年の9月~翌年の8月までの保険料や保険給付の額の基礎となります。
提出先
- 全国健康保険協会管掌健康保険組合(協会けんぽ)⇒事務センター(年金事務所)
- 組合管掌健康保険組合(健康保険組合)⇒事務センター(年金事務所)及び健康保険組合
標準報酬月額の決定方法
毎年、7月1日現在で使用される全被保険者について、同日前3カ月間(4月、5月、6月、いずれも支払基礎日数17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上))に受けた報酬の総額をその期間の総月数で除して得た額を報酬月額として標準報酬月額を決定します。
算定基礎届の対象となる人
7月1日現在のすべての被保険者および70歳以上被用者です。
ただし、以下の(1)から(4)のいずれかに該当する方は、算定基礎届の提出が不要です。
- 6月1日以降に資格取得した方
- 6月30日以前に退職した方
- 7月改定の月額変更届を提出する方
- 8月または9月に随時改定が予定されている旨の申し出を行った方
支払基礎日数に17日未満の月があるとき
17日未満の月を除いた月数の平均を算出します。
下記の表をご参考ください。
給与の支払い対象となる期間の途中から入社した時
1か月分の給与が支給されない月(途中入社月)を除いた月を対象とします。
4月の途中入社で、入社月の給与が1か月分支給されなかった場合は、支払い基礎日数が17日以上あってもその月は算定対象月から除きます。
産前産後休業や育児休業に入ったとき
支払い基礎日数が17日以上あり、通常の算定方法に該当する場合、通常通り算定します。
例えば、6月の途中から産前産後休業に入った場合でも、6月の支払い基礎日数が17日以上あれば、4月・5月・6月の報酬の合計額をその月数「3」で割って平均した額を記入します。
短時間就労者の標準報酬月額の決定方法
短時間就労者とは、パートタイマー、アルバイト、契約社員、準社員、嘱託社員等の名称を問わず、正規社員より短時間の労働条件で勤務する方をいいます。
短時間就労者の定時決定は、下記の表の方法により行われます。
短時間労働者の標準報酬月額の決定方法
短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満、1カ月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満、またはその両方の場合で、次の要件をすべて満たす方が該当となります。
- 週の所定労働時間が 20 時間以上あること
- 雇用期間が継続して2カ月を超えて見込まれること
- 賃金の月額が 88,000 円以上であること
- 学生でないこと
- 特定適用事業所または国・地方公共団体に属する事業所に勤めていること
※令和 4 年 10 月より、「雇用期間が 1 年以上見込まれること」が、要件から除かれました。短時間労働者の定時決定は、4 月、5 月、6 月のいずれも支払基礎日数が 11 日以上で算定することとなります。
続いて、随時改定についてお伝えします。
随時改定とは?
毎年 1 回の定時決定により決定された標準報酬月額は、原則その年の 9 月から翌年の 8 月まで 1 年間適用されますが、この間に昇給や降給などにより報酬に大幅な変動があったときは、実態とかけ離れた状態にならないよう次回の定時決定を待たずに標準報酬月額を見直します。
これを「随時改定」といい、「月額変更届」を提出していただくことになります。
改定された標準報酬月額は、再び随時改定がない限り、6 月以前に改定された場合は当年の 8 月まで、7 月以降に改定された場合は翌年の 8 月までの各月に適用されます。
月額変更が必要な時
月額変更届による随時改定は、以下の3つの条件をすべて満たしたときに行います。
(※1) 随時改定に該当すれば、固定的賃金が変動し、その報酬を支払った月から数えて 4 カ月目に新たな標準報酬月額が適用されます。
(※2) 特定適用事業所における「短時間労働者」の場合は支払基礎日数 11 日以上で読み替えてください。
1⃣固定的賃金の変動とは
下記の図をご参考ください。
2⃣変動月以後、引き続く3か月とは
変動月とは、実際に昇給や降給により固定給に変動があった月をいいます。
例えば、1月に昇給があっても、その昇給による差額が実際に支払われたのが3月だった場合は、変動月が3月となり、3月・4月・5月の引き続く3か月で随時改定に該当するかどうかを判断します。
随時改定が行われる条件として、固定的賃金に変動のあった月以後、継続した3か月の支払い基礎日数はいずれも17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)以上あることが必要です。
この3か月に支払い基礎日数17日(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日)未満の月が1か月でもあれば、たとえ2等級以上の差が生じても随時改定は行われません。
パートタイム労働者の随時改定についても、引き続く3か月の支払い基礎日数がいずれも17日以上あることが必要です。
3⃣2等級以上の差が生じることが必要です。
現在の標準報酬月額と固定的賃金変動後の標準報酬月額を標準報酬月額等級表に当てはめ、2等級以上の差が生じることが必要です。
例えば、従前の報酬月額が240,000円の被保険者が変動月以降、引き続く3か月間に受けた報酬の平均額に該当する標準報酬月額が280,000円以上に該当すれば、2等級以上の差が生じたことになります。
なお、固定的賃金の変動のみでは2等級以上の差がない場合でも、残業手当などを含めて2等級以上の差になれば、月額変更届の対象になります。
下記、3つの●は随時改定での注意点になりますので、ご参照ください。
- 随時改定の対象とならない場合
固定的賃金は増加しても、非固定的賃金が減少したため、3か月間の平均額が結果として2等級以上下がった場合、また、逆に固定的賃金は減少しても非固定的賃金が増加し、3か月間の平均額が2等級以上上がった場合などは、たとえ2等級以上の差を生じても随時改定には該当しないものとして取り扱い、月額変更届の提出は必要ありません。
下記の表で随時改定とならない場合を確認しましょう。
報酬 | 固定的賃金 | ↑ | ↑ | ↓ | ↓ | ↑ | ↓ |
非固定的賃金 | ↑ | ↓ | ↓ | ↑ | ↓ | ↑ | |
3か月の平均額(2等級以上) | ↑ | ↑ | ↓ | ↓ | ↓ | ↑ | |
月額変更届の必要 | あり | あり | あり | あり | なし | なし |
- 1等級差でも随時改定の対象となる場合
標準報酬月額には上限・下限があるため、大幅に報酬が変わっても2等級の差が出ないこともあります。
下記の表の現在の標準報酬月額(①)に該当する人が、固定的賃金の変動月以後引き続く3か月の報酬月額の平均が、②の額になった場合には、1等級差でも随時改定が行われ、改定後の標準報酬月額(③)となります。
- 標準報酬月額の改定時期と適用期間
随時改定に該当すれば、固定的賃金が変動した月から起算して、4か月目に新しい標準報酬月額に改定されます。
新しい標準報酬月額は、改定が1月~6月の場合はその年の8月まで、7月~12月の場合は翌年の8月まで適用されます。
再び固定的賃金に変動があれば、再度、随時改定の対象となります。
まとめ
ここまで、基本的なことをお伝えしてきましたが、例外的なことも多くあります。
定時決定や随時改定について、何かご不明点等ございましたら、お気軽に社会保険労務士法人ベスト・パートナーズにご連絡くだされば幸いです。