労働者を雇用したときに知っておきたい業務災害と通勤災害の違い

近年、労働力人口の減少の対策として、高齢者や女性、外国人の労働市場への参加が労働政策として実施されてきております。

 

しかしながら、上記のような働く人の多様化にともない労働災害が増加傾向にあります。

企業にとっては、雇用している労働者について労働災害が起こった場合には労働者の自己責任で片付けることはできず、当該労働者について必要な手続きを行う必要があります。

 

そこで今回は突然の労働災害時に困らないように労働災害(業務災害・通勤災害)について解説していきます。

労働災害とは

労働災害とは、労働者が業務中・通勤途中の事情により負傷、疾病、障害、死亡を負うことを指します。

なかでも、業務災害は業務上での負傷等、通勤災害は通勤途上での負傷等を起因するものに分けられます。

 

以下、業務災害と通勤災害について解説していきます。

業務災害とは

業務災害とは、労働者が業務を原因として負った負傷等のことをいいます。

業務災害の身近な例としては、労働者が職場で業務を行っている間に転んで打撲・捻挫・骨折する場合や火傷をしたりする場合などを指します。

 

また、近年では上記のような外傷性のような負傷等だけでなく、長時間労働による過労死やセクハラ・パワハラなどによるメンタル疾患についても業務災害と評価される場合もあります。

通勤災害とは

通勤災害とは、労働者が通勤途上の事由により負った負傷等のことをいいます。

通勤災害の身近な例としては、自転車やバイク等の手段による通勤途上に転倒して打撲・捻挫・骨折する場合です。

また、通勤災害には交通事故等の第三者が出てくるケースが多いのが特徴です。

 

以上のように労働者が業務災害・通勤災害に遭った場合には、負傷等により働くことができず、賃金を得ることが困難になります。

また、治療費も負傷内容等により高額となる可能性があり、労働者の生活が困窮する恐れがあります。

 

そのような場合に労働者の生活を守るため、労災保険という国の保険制度がございます。

以下、労災保険について簡単に解説していきます。

 

労災保険とは

労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務災害や通勤災害により。

その損害等を補償するための国の保険制度です。

 

主な対象者は労働者で、以下の労災保険の給付は特に企業がかかわるケースが多いものになります。

種類 給付内容
療養(補償)等給付(医療費の補償) 労働者が医療機関にかかった場合に治療にかかる医療費が労災保険によって補償されます。

具体的な補償内容は、診察費、治療費、薬代、入院費、手術費などが含まれます。

休業(補償)等給付(休業補償) 労働者が働けなくなった場合にその期間中の生活賃金として労災保険によって補償されます。
障害(補償)等給付(障害補償) 労働者が障害を負った場合にその障害の程度に応じて障害補償が支給されます。

障害補償は、障害の程度や種類に基づいて支給され、障害の程度に応じて年金や一時金として支給されます。

遺族(補償)等給付(遺族補償) 労働者が死亡した場合にその遺族に対して死亡補償が支給されます。

死亡補償は、遺族の人数や家族構成に応じて支給され、遺族年金や一時金として支給されます。

葬祭料 労働者が死亡した場合にその葬儀や埋葬にかかる費用を補償する制度です。

その他の給付内容として「傷病(補償)等年金」・「介護(補償)等給付」・「二次健康診断等給付」、社会復帰促進等事業としてアフターケア制度等がございます。

より詳しい内容を知りたい場合は厚生労働省のHPに労災保険の概要が記載されておりますので、チェックしてみてください。

 

ただし、労災保険の給付をうける際には各給付に応じた労災保険の申請書を「事業場の労働基準監督署」に提出し、労災認定を受ける必要があります。

業務災害・通勤災害についてそれぞれ労災認定の基準が異なりますので、労災保険の申請段階においては当該基準をクリアしているかどうか確認しておきましょう。

労災認定の基準とは

労災認定の基準とは、国が労働者に対して労災給付をするかどうかを判断する際の基準のことをいいます。

業務災害と通勤災害についてそれぞれ見ていきましょう。

 

まず、業務災害については「業務遂行性」と「業務起因性」の2つを満たしているかどうかで労災認定がなされます。

「業務遂行性」とは、業務災害が業務中に起こったかどうかを判断するものになります。

また、業務中に限られず事業主の「支配管理下」にある中で業務災害が起きた場合にも業務遂行性が認められます。

 

例えば、以下の場合は「業務遂行性」が認められないケースになります。

  1. 通勤途上での負傷等
  2. 私生活上での負傷等

 

ただし、出張時の移動中や宿泊場所、業務に密接に関連した運動会、社員旅行等での負傷等については、業務遂行性が認められます。

 

そして「業務起因性」とは、業務遂行性があることを前提にその業務災害が、業務に起因して起こったものであることを言います。

つまり、業務と負傷の間に相当因果関係が成立しているかどうかになります。

例えば、以下の場合は「業務起因性」が認められないケースになります。

  1. 故意に業務災害を生じさせての負傷等
  2. 私的行為等を行い業務災害が生じた場合の負傷等

 

以上のとおり、業務災害については「業務遂行性」と「業務起因性」の2要素で労災認定の判断がなされます。

通勤災害における労災認定の基準とは

通勤災害については、「通勤」の定義が定められており当該定義に当てはまらなければ通勤災害として認められません。

 

以下の内容は、「通勤」の定義になります。

 

“「通勤」とは、 就業に関し 、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復することをいい、業務の性質を有するものを除くものとされていますが、往復の経路を逸脱し、又は往復を中断した場合には、逸脱又は中断の間及びその後の往復は「通勤」とはなりません。

ただし、逸脱又は中断が日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除き「通勤」となります。“

 

例えば、以下の場合は「通勤」と認められないケースになります。

  1. 通勤経路とは全く異なる経路での負傷等(逸脱中の負傷)
  2. 通勤経路ではあるが、通勤とは全く関係のない行為中(中断中の負傷)の負傷等

※飲食店での飲酒している場合や遊技場で遊戯している場合など。

 

なお、ただし書きにもあるように以下の厚生労働省令で定めるものに該当する場合は、「逸脱」・「中断」の例外となります。

 

  1.  日用品の購入その他これに準ずる行為
  2.  職業能力開発促進法第15条の6第3項に規定する公共職業能力開発施設 において行われる職業訓練、学校教育法第1条に規定する学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
  3.  選挙権の行使その他これに準ずる行為
  4.  病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
  5.  要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母および兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)

 

さいごに

以上、業務災害と通勤災害について解説してきました。

もし、通勤災害が起こったとしても事業主の責任は一般的に問われませんが、業務災害については事業主の責任が厳しく問われ、労災保険から損害を給付されたとしても特に大きな業務災害が生じた場合は民事裁判で労働者から多額の損害賠償請求をされる恐れがあります。

 

また、解雇が制限されることや業務災害が多く発生する企業においては労災保険のメリット制により国におさめる労災保険料の金額が多くなる可能性もございます。

よって、日頃から業務災害が生じないよう、労働者に対して安全衛生教育を行うとともに健康面での配慮を行っていきましょう。

 

執筆者:桃木谷勇気

 

 

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